ゲームをやってアイテムを手に入れるーーー。

ゲームをしたことがあれば、誰もが経験したことがあるだろう。では、そのアイテムを所有するのは誰だろうか?「ゲームプレイヤー」のように思うかもしれないが、「ゲーム会社」が正解だ。あなたが保有しているアイテムは、ゲーム会社の判断次第で没収することが可能だし、あなたが友人にあげたり売ったりすることをゲーム会社は止めることができるからだ。

だが、この事実はブロックチェーンの登場によって変わった。

ゲームのキャラクターやアイテムを本当の意味で自分のモノにする。ブロックチェーン技術がゲーム業界にもたらした革新の1つだ。ゲームのアイテムやキャラクターの所有権が、ゲーム開発会社からプレイヤーに変わる。さらに同じアイテムやキャラクターを別のゲームに移動して使えるようになったのだ。

これを可能にしたのが、ノンファンジブル・トークン(NFT)という新たなトークンの存在だ。非代替性トークンとも呼ばれるNFTは、1つ1つのトークンが固有の価値を持つ。ブロックチェーンによって個人のプレイヤーのトークン所有権が保証され、発行枚数の制限によって希少性が担保される。NFTは、プレイヤーにとってアセット(資産)になるのだ。

NFTはイーサリアムを基盤にしているケースが多く、主に仮想通貨イーサ(ETH)を使ってゲームの世界の土地や家、ゲームキャラクター、アイテム、デジタルアートなどの売買が可能だ。代表的なマーケットプレイスとしてオープンシー(Open Sea)などが有名だ。日本人による参加者も多く、最近のNFT関連市場の発展を受けて、2019年第4四半期(10-12月期)の取引高は2倍ほど増加した

日本初のNFTオークションサイト

日本においても、NFTを使った新たなゲームの可能性に注目するビジネスが生まれている。

7月9日、ブロックチェーン事業を手がけるファクトリー(Factory)は、日本で初めてオークション形式のNFTのマーケットプレイス「Los Dorados 」(ロス ドラドス)のβ版をリリースすると発表した。ブロックチェーン上での自動契約システム「スマートコントラクト」を使って、オークション形式でNFTの取引が自動で実行される。

最初に取り扱うのは、ブロックチェーンゲームの「マイクリプトヒーローズ(マイクリ)」関連のNFT。今後VRやARの発展が見込まれる中、仮想世界上の土地や家、アバターの服、アートなど様々なアセットをNFTの形であれば取り扱っていく予定だ。

ロス ドラドスでは、仮想通貨イーサ(ETH)でアイテムを落札できる。

ファクトリーは、昨年にTokyo XR Startupsが主催する第6期のインキュベーションメインプログラムに採択された。Tokyo XR Startupsの代表取締役社長は、ソーシャルゲーム運営会社gumi創業者の國光宏尚氏だ。

(ファクトリー(Factory)共同創業者の岸上ルビオ氏(左)と共同創業者北見壮一郎氏(右))

ゲームへの「愛情」が評価される時代へ

「キャラクターに対して愛情を持てることは、今までにはなかったことかなと思う」ーーー。

ファクトリー共同創業者の北見壮一郎氏は、コインテレグラフジャパンに対してNFTを使ったゲームの魅力について語った。

「今まではゲームを育てても『どうせ運営者のものでしょ』と思われていたが、ブロックチェーンを使えば、そのアセット自体に愛着を持てるという点が一番大きいところだと思う。ゲームに対しても熱狂的なファンになりやすい。そして主体的にゲームに参加していける。そこが今までとは違う」

「愛情」は、トークンの負の歴史を変えるキーワードになるかもしれない。

トークンを使った資金調達であるICO(イニシャル・コイン・オファリング)は2017年から2018年にかけてブームになったが、実現可能性のないプロジェクトに対する投機や詐欺行為が問題になった。例外はあるにせよ、人々は単にこれからトークンが上昇するだろうという理由のみでトークンを購入。プロジェクトに対する思い入れはなかった。

しかし、NFTの場合、ゲームに対する愛情や思いといった点がトークンの価値の源泉になるかもしれない。好きでもないプロジェクトを買わないという前提は、NFTがいわゆるICOトークンとは性質が異なることを示している。

先述のオープンシーも、NFTが問い直すトークンの価値に注目している。今年発表した「NFTの聖書」の中で、ICOとは異なるNFTの可能性について「効用(Utility)」という言葉を使って解説している。

「効用はあきらかだ。私がNFTのチケットを買いたがる理由はカンファレンスに行けるからだ。アートの一部を買いたがるのは、仮想世界の中で自慢できるからだ。アイテムを買いたがるのは、ゲームの中で私に特別な能力を付与するからだ」

北見氏は、「ICOとは比べてほしくない」と話す。

「ICOの場合はトークンが投機的な目的で買ったら値上がりするからすぐに売ってしまおうという考えもあると思う。ブロックチェーンゲームの場合は、ゲームの価値が上がらないとトークンの価値があがらない。本当に自分が価値があると思うゲームに投資する」

同じくファクトリー共同創業者の岸上ルビオ氏は、ゲームの実情やアイテムの使い方が分からないままNFTの売買をするケースを減らしたいと話す。ロス ドラドス設立は、NFT価格の判断をする材料として個別のNFT関連の情報の充実やオークション自体のUI・UXの改善を目指している。

「例えば、初めて触る人がマーケットプレイスに並んでいるNFTをみても、全然意味がわからないと思う。何が今人気あって売れるのかなどは、今は(ネットで)自分が調べないと分からない。(中略)だったら例えばマイクリとかに絞って、『今このデュエルではこういうアセットが人気ある』など役立つ情報を(ロス ドラドスで)載せられる」

NFTの取扱数で圧倒するオープンシーと数の勝負はしない。まずは取り扱うゲームを絞り、それぞれのゲーム開発会社とNFTに関する情報提供などで連携を強化する。その上で、ロス ドラドスの利用者にNFTの情報を分かりやすくまとめて伝える方針だ。

取扱ゲームの1つであるマイクリは世界的にも注目されているブロックチェーンゲームだ。今年1月までの過去6ヵ月間で、マイクリの取引量はNFTの中で断トツ首位。オープンシーは「日本がNFTゲームをより発展させた」と評価し、マイクリを例に挙げた。

(出典:Opean Sea「NFTの取引量(過去6ヶ月)」)

また、ロス ドラドスは、NFTの出品者にも寄り添う仕組みづくりを目指している。

岸上氏によると、現在NFT出品者は、ゲーマー用のチャットサイトDiscord(ディスコード)などで「だいたいこれくらいだよね」という感覚で価格を決めるが、需要と供給の関係を本当に反映しているかは疑問が残る。ロス ドラドスはチャット機能も搭載するほか、売り手にとってNFTの適正価格が何かを判断する体制も整備し、「出品したら売れる状態を作る」(北見氏)予定だ。

さらに今後は、ゲームキャラクターやアイテムなどの貸し借りといったサービスも検討している。

健全な自主規制で未来を開けるか

先述の通り、ロス ドラドスは、どのゲームのNFTを出品するのか慎重に選ぶ方針だ。そのための基準作りで期待しているのが、先日立ち上がったブロックチェーンコンテンツ協会だ。例えば現在オープンシーに出品されるNFTの中にはギャンブル系のものあり、日本の法律的に抵触する可能性がある。その際、「ブロックチェーンコンテンツ協会に所属している会社が出しているゲーム」など、ゲーム選択の基準があるとわかりやすいという。

ブロックチェーンコンテンツ協会の実行委員である松原亮氏は、仮想通貨の時のような事態を引き起こさないためには自主規制でNFT市場の健全性を担保することが重要だと話す。

「(ゲーム会社が)まだ法律がないからといって、規制がないことに目をつけるケースはある。それをどれだけ止められるかが大事だ。我々の基準で『従っていないからまずいですよ』という注意喚起をすることはできる」

ロス ドラドスは、スペイン語で黄金郷の複数形にあたる。スペイン語が堪能な岸上氏は、「ゲームは1個ではなく、いろんなゲームが集まって色々なNFTが集まって、黄金郷は何個でもあるよねというイメージ」と社名の由来について語った。ゲーム会社とプレイヤーは対等で、ゴールは1つではない。ブロックチェーンによる非中央集権という本来の思想に両氏は共感している。

「仮想世界時代の金融インフラ作りをブロックチェーンファーストを通じて目指す」(北見氏)。

ブロックチェーン×ゲームの世界が、過去の業界での失敗を乗り越えて飛躍しようとしている。