ビットコインなどの仮想通貨を使った政治家個人への献金(寄付)は「合法」との判断を政府が示した。しかし、現状のままで仮想通貨献金が横行すれば、悪用される懸念が大きい。この問題に詳しい専門家からは、制度が想定していない「重大なバグであり、早急に改正するべきだ」との声が出ている。
総務省が「合法」判断示す
まず問題の整理から始めよう。
仮想通貨による政治家個人への献金について、総務省は違法にならないとの見解を示している。これは読売新聞が10月5日に社会面トップで大きく報じた。
政治資金規正法においては、政治家個人への献金は原則禁止だが、仮想通貨は法律で禁止されている「金銭・有価証券」に当たらないという判断だ。
政治資金規正法では、個人や企業による政治家への献金は原則禁止とされている。企業献金は政党のみに限定され、個人の献金は政治家の資金管理団体や政治団体に行うことが定められている。
しかも、たとえ仮想通貨で政治家個人が献金を受けても政治資金収支報告書には記載されないため、どのくらい献金があるのかも把握できない状況だ。
総務省の見解については、この問題を追ってきた起業家の岡部典孝氏が、情報公開で入手した行政文書を公開している。
総務大臣「各党各会派で議論を」
読売新聞の報道を受け、高市早苗総務大臣は10月8日の記者会見で総務省の見解を改めて示した。
また政府は10月18日、熊谷裕人参議院議員の質問主意書への答弁書という形で同様の見解を閣議決定している。
高市大臣は、記者会見の中で、この問題は総務省サイドで法改正できない問題だと述べている。
「『暗号資産』を『金銭等』と同様に規制の対象とするためには、当然、法的な手当が必要となりますけれども、新たに政治家の政治活動に制限を加えることになりますので、閣法というよりは、各党各会派で、まずご議論いただくべき問題だと考えております」
政治資金規正法は、政治家の行動を縛る法律だ。そのため、三権分立の観点から、内閣が提出する法律(閣法)として対応することは難しいということのようだ。つまり政党間で議論した上で、議員立法として改正する必要がある。
「修正すべき重大なバグ」
仮想通貨と政治資金についてALISなどで問題提起してきた岡部氏は、今回の問題は「修正すべき重大なバグ」だと指摘する。
岡部氏はブロックチェーンを推進する政治団体「トークントークン」を設立するなど、仮想通貨と政治について情報発信している。
今回の問題についても総務省に問い合わせ、行政文書の情報公開も行っていた。当初は「悪用される懸念があることから、あまり情報を広めていなかった」が、読売報道以後、積極的に情報発信をしている。
岡部氏は、政治資金規正法を「なるべく早く改正するべきだ」と訴える。
「政治家個人に寄付できるというのは、大きなバグ。政治資金収支報告書の制度の趣旨を蔑ろにするものだ。なるべく早くに改正するべき」
岡部氏は「政治にはお金がかかるかもしれないが、オープンにしなければならない」と話す。
日本大学の岩井奉信教授も、読売新聞に対して「現行法は時代の流れに対応できていない」とコメント。換金性の高い仮想通貨について、情報公開されないのは「透明性確保の理念に反する」と述べている。
マネロンなどに悪用される可能性
それでは悪用される可能性としてはどのようなものがあるか。
政治資金収支報告書などで公開されないとなれば、政治家がいくら仮想通貨を受け取っても誰からも把握できない。
岡部氏は「特定の政策を推進したい企業や外国政府が政治家に仮想通貨をばら撒く可能性もある」と指摘する。
現状のようにルールがないままであれば「実質的な賄賂と区別がつかない」、「マネロンに使われるおそれ」(岡部氏)といったこも懸念される。
個人は最大55%、政治献金なら非課税
今回の問題が議論を呼んでいる大きな理由の1つは税金の問題もある。
仮想通貨税務サービスを手掛けるエアリアルパートナーズは、今回の問題について、税務上の観点からの解説をブログに掲載している。
エアリアルパートナーズ事業部長で税理士の藤村大生氏によれば、現在の制度上、政治家個人や政治団体に献金された仮想通貨は非課税処理となる可能性がある。
「仮想通貨による献金を受け取った政治家・政治団体では非課税処理が可能であり、献金を行った個人の有権者も寄付金控除を受けられる可能性がある」
個人投資家であれば、仮想通貨による利益は雑所得とされ、最大55%の税金がかかる。これはほかの金融資産よりも高く、仮想通貨税制を改正すべきとの声も多い。
個人であれば最大55%の課税だが、政治家ならば非課税となる。岡部氏は、このような不公平感が、今回の問題が大きくクローズアップされた要因の1つだと指摘する。
それでも仮想通貨献金には「意義がある」
現状の政治資金規正法には大きな問題があるものの、岡部氏は「ルールに従って政治団体に対して献金されるならば、ポジティブ」という。
岡部氏が示すメリットは次のようなものだ。
・現金と比較してお金の流れが明確になる
・リアルタイムで開示されて誰でも確認できる
・政治家が仮想通貨に関心を持ち、税制改正等のきっかけになる
・政治団体が仮想通貨を発行し、仮想通貨を投票権としてメカニズムデザインを活用した政治が実現できる
仮想通貨を使った政治メカニズムとしては、「上場企業が株価を気にした経営をするように、政党が自らの仮想通貨の値段を気にした運営を行うようになる」(岡部氏)という仕組みも考えられる。
日大の岩井教授も「暗号資産による寄付は若者を中心とする利用者の政治参加につながる効果が期待できる」と、読売にコメントしている。
「政治家のアドレスを届出制に」
実際に現状の制度を改革するとなれば、どのような方法があるだろうか。岡部氏は、政治家の仮想通貨アドレス届出制や、違法な献金を国庫で保管するシステムが必要だと述べる。
・仮想通貨寄附を受ける政治団体の仮想通貨アドレスを届出制にする
・政治団体が保有する仮想通貨の残高をオープンデータとしてリアルタイムで公開する
・違法な寄附が送られてきた場合の分離手続き(国庫納付や供託)を作る
・一定額以下の仮想通貨寄附に関しては匿名寄附を認める(街頭で政党に対する500円未満の投げ銭は可能なのでその程度)
現状、総務省などでは仮想通貨を国庫で保管するシステムが存在しない。政治家側の議論とともに、行政府側でどのように仮想通貨を保管するかのシステム構築も必要になりそうだ。
また岡部氏は政治家向け仮想通貨を保管するカストディアンというアイデアもあげた。
「将来的には政治家向けに少額の仮想通貨を管理するカストディアンがあるほうが良いが、交換業に該当しそうなのでその整理も必要でしょう」
前述のように政治資金規正法を改正するには、政治家同士が議論していく必要がある。今回の問題は、ようやくクローズアップされたばかり。有権者である我々一人ひとりが、今後の国会での議論の行方を注視していく必要があるだろう。