フェイスブックの仮想通貨プロジェクト「リブラ」が発行前からつまづいている理由は、つまるところ「フェイスブックだから」なのかもしれない。

フェイスブックに対して悪いイメージを持っている日本人は少ない。しかし、欧米での評判は、かなり悪いのが実情だ。

「(世界の規制当局が)グローバルなステーブルコイン自体を懸念しているとは思えない。彼らはリブラについて懸念しているのであり、その理由はフェイスブックがプライバシー違反であまりにも悪名高いからだ。

ビットコイン関連技術開発を手がけるブロックストリーム(Blockstream)社のCSO(最高戦略責任者)であるサムソン・モー氏は、上記のようにコインテレグラフ日本版の取材に答えた。

「リブラ協会はスイスにあるというけれども、フェイスブックが主導しているのは明らかだ。米議会は、フェイスブックの能力を疑問視している」

モー氏は、確かにリブラ協会に入っている企業集団が「マネーを印刷する」という領域に入ることに対する懸念もあると指摘。「国家から権力の一部を奪うことになる」と述べた。

ただ、「もしフェイスブックではなく他の会社がリブラ協会を主導していたら違う結果になっただろうか」という質問に対して、「違った可能性はあるだろう」と同意。さらにやり方にも問題があったと付け加えた。

もっと小規模で始めた方が良かった。しかし彼らは大々的に発表して大げさに見せた。しかも発表前にリブラ協会を発足させなかった。(中略)もしリブラ協会が発表前にすでに存在していたのならば、事態は違った方向に進んでいただろう。

「だから結局、米議会に呼ばれるのはフェイスブックなんだ…」と話すモウ氏。とりわけリブラの中心人物であるデービッド・マーカス氏のマーケティング戦略を批判した。

やり方が全部間違っているよ。考えられるすべてのステップにおいて、彼は間違ったやり方をしている」

リブラ取引の承認を行うリブラ協会からはVISAやマスターカードなど7社がすでに脱退。15日に21社で正式発足し、今後加入要件を満たす組織は180社あると発表されているものの、前途多難だ。

さらにゴールドマンサックスやJPモルガンもリブラには参加しないことを6月のホワイトペーパー発表前に表明していたという報道も出ている。

リブラ協会は、100社でリブラ発行を開始する予定だ。

「もしペイパルが主導していたら…」

米議員や規制当局はマネーロンダリング(資金洗浄)対策や金融システムへの不安を表向きには理由として話しがちだが、本音は「フェイスブックには任せられない」というところなのかもしれない。

フェイスブックが悪名を轟かせた事件は、ケンブリッジアナリティカのスキャンダルだろう。

2018年初頭、英データ分析会社ケンブリッジ・アナリティカがフェイスブックの最大8700万人分の利用者データを使い、2016年の米大統領選とブレグジット(英国の欧州連合離脱)をめぐる国民投票の結果に影響を与えたと報道された。このニュースに対して、米国では猛烈な批判が起きた。フェイスブックのザッカーバーグCEOも米議会に呼ばれて謝罪に追い込まれた。

(引用元:Reuters 米議会の公聴会に臨むフェイスブックのザッカーバーグCEO)

リップル社のブラッド・ガーリングハウスCEOも、「フェイスブックだから」論に賛同する者の1人だ。「フェイスブックがイニシアティブを取らずにペイパルなど他の会社が率いていれば、反動は少なかっただろう」とみている。

ザ・インフォメーションの有料会員向けのサミットに登場したガーリングハウスCEOは、「私の見解では、彼らの問題への取り組み方は、率直に、傲慢そのものだ」と痛烈に批判。「フェイスブックは自分達には信頼がないということに気づいていない」と述べた。

リブラの行く末を占う上で、欧米と日本のフェイスブックに対する温度感も認識しておいた方が良いだろう。