米サンフランシスコを拠点とする仮想通貨(暗号資産)取引所クラーケンは、米国で銀行として運営するための設立許可書を持つ最初の仮想通貨企業となった。仮想通貨をメインストリームにするのに役立つ可能性のあるこのような規制機関の動きがさらに広がれば、影響はさらに重要になる可能性がある。

クラーケンは9月16日にワイオミング州からSPID(特別目的委託銀行機関, Special Purpose Depository Institution)設立の認可を受けた。クラーケンが設立しようとしている新しい銀行「クラーケン・フィナンシャル」は、ワイオミング州のシャイアンに本社を置くことになる。

「ワイオミング州にとって、これは経済開発のイニシアティブだ」と、仮想通貨企業Avanti(アバンティ)の創業者兼CEOのケイトリン・ロング氏は、クラーケン・フィナンシャルのマネージングディレクターのデビット・キニツキー氏との共同インタビューで、コインテレグラフに語った。

Avantiは、仮想通貨銀行設立を目指すもう1つの仮想通貨企業だが、正式な承認はまだ得ていない。ロング氏は、「ワイオミング州は、経済を多様化させ、州外から雇用と資本、そして収入をもたらすことを目指している」と語った。「クラーケンの設立許可取得は、ワイオミング州が望も多くのものの最初のものだ」と、ロング氏は述べ、1000以上の企業がフィンテックフレンドリーな規制枠組みを利用するためにワイオミング州に目を向けていると述べた。

「ワイオミング州はまた、業界をよりスマートにするため、この官民連携を形成するため、素晴らしい仕事をしてきた」と、クラーケンのキニツキー氏は付け加えた。

異なるニーズを追求する2つの仮想通貨企業

クラーケンは9月16日に銀行の設立許可書を取得したと発表した。同社は仮想通貨企業としては初めての取得だが、Avantiは今年2月に仮想通貨銀行の設立を目指すと宣言していた

2つの企業はいくつかの面で競合するが、直接競合するわけではない。「誰もが競争している。確かに、私たちはある程度は競争することになるだろう。それは疑いの余地はないが、現時点では、商品や顧客セグメントは、似ているよりも異なっている」と、キニツキー氏は説明した。

「クラーケンは主に消費者に焦点を当てており、Avantiは主に機関投資家と富裕層の投資家に焦点を当てているので、対象となる顧客ベースの重複はほとんどない」と、ロング氏は語った。さらにロング氏は「Avantiは取引所になるつもりはない」とも付け加えた。「クラーケンと協力するために話し合っている点もある。クラーケンはAvantiをサポートできる。私たちは消費者へのサービスを提供していないため、私たちはAvantiの消費者向けビジネスで一緒に取り組むこともできるかもしれない」と、ロング氏は述べている。

共通の目標に向かって

クラーケンとAvantiの違いにも関わらず、2つの会社は健全な仮想通貨規制の土台を築くために取り組んできた。このアプローチは「コーペティション(Co-oetition)」とも呼べるものだろう。競合すると同時に協力し、2つの会社は共通の規制目標に向けて独自の努力を追求してきた。

「ワイオミングのSPDIの承認は、米国の仮想通貨業界にとって重要な瞬間だ。これまでのところ、仮想通貨ネイティブな企業が連邦準備制度の支払システムへのアクセスをブロックされているためだ」と、ロング氏は述べている。「連邦準備制度の支払システムにアクセスできるのは銀行だけであり、これまで、仮想通貨ネイティブな企業が銀行になることはあり得なかった」と、ロング氏は説明している。「現在、仮想通貨ネイティブの企業が銀行となる。クラーケンにお祝いを言いたい」。

キニツキー氏は、クラーケンとAvantiの両方が現在、業界全体を進歩させるための努力をしていると付け加えた。「銀行のみが政府の支払システムやそのほかの銀行関連インフレの主要部分に接続できる」と述べ、「もしあなたが広範囲に及ぶ金融サービス企業になるつもりなら、あなたはそのインフラに直接アクセスできる必要がある」と語った。

変化する金融環境

10年以上前に誕生してから、仮想通貨とブロックチェーンの動きは、テクノロジーと金融の急速な変化を促してきた。急速な変化に追いつく速度は遅いものの、米国の規制当局はバランスの取れた成長を促すために規制を整備しようとしている。たとえば、今年7月には、米通貨監督庁(OCC)が、政府が公認した銀行に仮想通貨カストディの許可を与えた

「私たちは金融サービス全般において興味深い時期にあり、デジタル資産業界とフィンテックが伝統的な金融サービスと融合しようとしている」と、キニツキー氏は述べている。「銀行業界は規制された金融サービスという点で、祖父のようなものだ。これがSPDIが非常に興味深い理由だ」と付け加えた。「これにより、銀行のフレームワーク内のデジタル資産、フィンテック、そして伝統的な金融サービス全体を結び付けることができる」と語った。

キニツキー氏によると、銀行はいまだ仮想通貨やフィンテックの分野には参加していない。「連邦レベルと州レベルの両方で当局の間で横風がある」と彼は付け加え、OCCの声明のような事例は「ほんの一部だ」と述べた。

「OCCや連邦レベルでは、出j地ある資産重視の銀行や金融機関向け専用のフレームワークは存在しない。専用の監督プログラムもない。これらは、ワイオミングが多くの時間を費やして投資してきたものであり、SPDIはその1つだ。私は様々な州や国の機関がワイオミングのフレームワークから自由にそれを拝借するようになると確信している」

ロング氏はキニツキー氏に同意し、ワイオミング州は27ヶ月にもわたって規制を検討し、最初の仮想通貨銀行にまで至ったと言及する。「これは短期的なプロジェクトではない」と、ロング氏は語った。「ここに至るまでには多くの労力がかかった」と述べる。ロング氏自身も、ワイオミングのブロックチェーンタスクフォースのトップとして、ワイオミングの規制推進に深く関与してきた。

2017年に、仮想通貨業界はイニシャル・コイン・オファリング(ICO)の熱狂を経験した後、規制当局は介入し、セクターに対するより厳しい制限の必要性が言われるようになった。いくつかの規制はイノベーションを抑制することになったが、ワイオミング州は、規制による投資家保護とイノベーションの促進という両方のバランスを取るように努力してきた。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン