陰謀だーーー。
ニューヨーク州の司法長官と激しい法廷闘争を繰り広げている仮想通貨取引所ビットフィネックスとステーブルコインのテザー。ニューヨーク州の本当の狙いは違法な活動の取り締まりではなく「陰謀」と語ったのは、ビットフィネックスの株主で中国人トレーダーのドン・チャオ氏だ。一体どういうことなのだろうか?ニューヨーク州との一連の争いの詳細に加え、たった10日で10億ドルを調達したビットフィネックスの独自トークン「レオ」発行の舞台裏についてチャオ氏がコインテレグラフ日本版に話した。
「陰謀論」
4月末、ニューヨーク州の司法長官は、8億5100万ドル(約950億円)の損失をテザー(USDT)で補填しようとしたとして、ビットフィネックスとテザーを訴追した。CEOが同一人物であることで知られるビットフィネックスとテザー。ニューヨーク州は、テザーが顧客の資金を悪用したのではないかとみて訴追に踏み切った。
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都内でコインテレグラフ日本版の取材に答えたチャオ氏は、ビットフィネックスの他の関係者と同様に「損失」ではなく「凍結」だと主張。チャオ氏は、ビットフィネックスの取引先でパナマに拠点を持つ決済サービス企業クリプト・キャピタルが引き起こした問題であり、ビットフィネックスやテザーは被害者という見方を示した。
「クリプト・キャピタルがKYC(顧客確認)やAML(アンチ・マネーロンダリング)をうまくやっていなかった。ビットフィネックスはいつもそれらに対しては厳しいはずだ」
クリプト・キャピタルがビットフィネックスの資金を大量に保持していたところ、KYC・AMLで問題が発覚し、各国の政府によって資金を差し押さえられたという。
クリプト・キャピタルを使っていたのはビットフィネックスだけではない。チャオ氏によると、バイナンスやクラーケン、カナダの破綻した取引所クアドリガCXなども使っていた。ただ、一番大きかったのがビットフィネックスの資金保有額だったという。
チャオ氏によると、ビットフィネックスはクリプト・キャピタルの問題の影響で出入金のトラブルを抱えるようになった。このため今年3月、テザー社からビットフィネックス社に融資(ローン)を実行。このローンについてビットフィネックス側はニューヨーク州の司法長官に前もって連絡していたという。
「ニューヨーク州の司法長官が許可したかどうかは知らない。ただ、ビットフィネックスは事前通知はしていた(中略)彼らは当局から何も隠そうとしていない。そもそも当局に通知していなかったら、彼らは知る由がなかっただろう」
ニューヨーク州が主張するようにテザーが顧客の資金を悪用した訳ではなく、合法的な方法が採用されており、しかも当局に自らその旨を報告していたという。
ではなぜニューヨーク州の司法長官は、ビットフィネックスとテザーの訴追に踏み切ったのだろうか?
「陰謀だと思うよ」。チャオ氏はこのように結論づけた。
「テザー(USDT)はニューヨークで規制されているだろう。テザーのことを打ち負かしたいと考えている人々は多いのではないかな。」
もちろん証拠はない。しかし「テザーに対して悪い噂を流す米国人は多い」(チャオ氏)。
5月中旬、ニューヨーク州の最高裁判所は、テザーに対してビットフィネックスに通常業務以外で融資など資金供給をしないように命令した。
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3日で計画、10日で完売
昨年の10月から、クリプト・キャピタル関連で約8億5000万ドルが「凍結」されているのは事実だ。チャオ氏によると、ビットフィネックスはこの問題解決のために動き、他の大手取引所に連絡してテザーの確保に乗り出したが、うまくいかなかった。
そこでチャオ氏は、「トークンを使って資金調達をしたらどうか」と提案した。「トークンを使って資金調達をするのは、この業界では普通のこと」であり、「特に収入が安定している良いプラットフォームにしてみればなおさらだ」と話した。
既報の通り、ビットフィネックスはチャオ氏の提案通りにトークンを使った資金調達であるIEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)を実施した。プライベートセールで10日間。独自トークンのレオ(LEO)は一瞬で売り切れた。チャオ氏によると、提案してから実行するまでにかかったのは2、3日。つまり、半月未満で10億ドル分の資金調達の計画から実施まで実現したことになる。
10日で10億ドルを調達したことに対して「サプライズはない」(チャオ氏)。それほどIEOに対する投資家の需要の大きさを感じ、ビットフィネックスの可能性にも期待していたそうだ。
チャオ氏によると、プライベートセールが始まって2、3日後、ビットフィネックスの幹部がチャオ氏に対して「ほとんど完売だ」と明かしたそうだ。
チャオ氏は、2000万ドル以上を出資。他の投資家は、例えばシンガポール在住のヘッジファンドが3000万ドルほどを出資。この他、機関投資家や長年のビットコイン投資家などが含まれているそうだ。
(出典:ドン・チャオ氏 1レオ=1テザーで発行された)
現在取引所トークンとしては、世界最大の仮想通貨取引所バイナンスが発行するバイナンスコイン(BNB)が好調だ。BNBの保有状況に応じて資金調達プラットフォーム「ローンチパッド 」でのトークン購入が優先される仕組みを作るなどして人気を集め、年初来で400%以上も高騰している(出典:CoinMarketCap)
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「バイナンスコインの2番目の出資者」でもあるチャオ氏。バイナンスコインを買ってから50倍のリターンを得たという。チャオ氏は、ビットフィネックスのレオにバイナンスコインと同じようなポテンシャルを感じている。