副業解禁やコロナ禍をきっかけに、FX取引を始める人は少なくない。FXで利益が出た場合、条件によって確定申告の義務が発生する。

確定申告の義務が発生しているのに気づかず、申告しなかった場合は追徴課税を負うことになるため、手遅れになる前に自分が確定申告が必要なのかは知っておきたい。

この記事では、FX取引において確定申告が必要となるケースや税金の節約方法について解説する。

FX取引において、一定の利益が出ると確定申告が必要となる

FX取引で一定の利益が出ると日本の税制上で税金が課されるため、確定申告が必要だ。

FXには

  • 為替差益
  • スワップポイント

という2つの利益があるが、どちらも課税対象となる。

サラリーマンと個人事業主で確定申告が必要な条件が異なるため、自分の労働形態に合わせた納税の有無を確認しよう。

サラリーマン:FXでの所得が年間20万超 or 給与所得が2,000万超

FXによる利益が出たサラリーマンは確定申告が必要となるケースが2種類ある。

  • FXでの利益が年間20万円を超える
  • 給与所得が2,000万円を超える

前者の場合は、会社で年末調整をしたとしても自分で確定申告をしなければいけない。後者の場合はFXでの利益に関係なく、法律で確定申告が義務付けられている。

サラリーマンだからといって、確定申告が関係ないわけではない。上記2つを覚えておいて、該当する可能性がある場合は収入をチェックしよう。

個人事業主:FXでの所得が年間38万超

個人事業主はFXでの所得が年間38万円を超えた場合、確定申告が必要となる。

FXを事業として行なっている場合は事業所得に、そうでない場合は雑所得として扱うことも合わせて覚えておきたい。

もともと確定申告が必要な個人事業主なので慣れている人は多いが、FXに関する確定申告の知識は少し特殊なので、勉強しておこう。

FXによる損失が出ても、確定申告が必要な場合がある

FXによる損失が出た場合でも、確定申告が必要なケースがある。

まずは、繰越控除を受ける場合だ。繰越控除を受けると、トレーダーは発生した損失を取引所の先物取引の利益や店頭でのFXと翌年から3年間相殺できる。

繰越控除を受けるためには損失が出た年に確定申告を行い、その翌年以降も確定申告を続ける必要がある。

次に、損益通算を行うケースも損益を含めて確定申告を実施する必要がある。複数の会社でFX取引をしている場合、それぞれの損益を合算して計算する方法で納税額を減らすことが可能だ。

例えば1社目の取引所で200万円の利益があり、2社目の取引所で120万円の損失があった場合。200万円から120万円を差し引いた80万円を利益として換算できる。

損益通算をしないと200万円が利益となってしまうため、税額が高くなってしまう。トレーダーは節税の観点でも損益通算の制度を頭に入れておくことが重要だ。

税金の計算方法

確定申告が必要となった場合、自分の利益に応じて税金の計算が必要だ。

税金の計算方法は、「(FXで得た利益 − 必要経費)×税率 − 所得控除額」となる。税金を算出するツールを国税庁が出しているので、無理に計算式を覚える必要はない。

税金は利益と税率をかけ合わせて計算されるが、税率について知らないとどのくらいの税金を支払うのかイメージがつかない。FX取引の税率は必ず覚えておこう。

また、FX取引は国内口座や海外口座を使っているかによって、税金の制度が変わる。トレーダーによっても支払う税金の割合が異なるため、細かな税制の違いにも注意しよう。

FXの税率

前述の通り、FX取引は雑所得が適応される。雑所得は総合課税(累進課税)と、申告分離課税に分かれるが、国内のFX取引で適応されるのは申告分離課税だ。利益に対して一律20%(所得税15%+住民税5%)の税率が課税される。加えて、2013年から2037年の間は復興特別所得税が所得税に乗じて適応されるため、0.315%が追加される。

【税率】
20.315%=所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%(15%×2.1%)

以上が基本的なFXの税率の仕組みだ。一方で、海外FXの場合は税制が異なるため、この税率が適応しない。

国内口座と海外口座における税金の違い

FX取引を行うと、国内口座と海外口座を使い分ける場合も出てくる。日本に住んでいる限りは、海外FX口座を使用していても、納税や確定申告が必要だ。

結論から先に述べると、FXによる利益が330万円を超える場合は国内口座の方が良い。FX取引において、国内口座と海外口座によって税制の仕組みが異なるからだ。

違いとしては、

  • 国内FX:申告分離課税
  • 海外FX:総合課税で累進課税

が適応され、税率が異なる。

国内FXで適応される申告分離課税は他の所得金額とは分離して計算し、税金を納める方法だ。

前述の通り、税率が一律20.315%と決まっており、利益がどんな金額でも一定の税率が適応される。そのため、利益が少ない場合は損をする可能性がある。

一方で、海外FXでは利益が総合課税(所得税+住民税)とみなされる。そして、累進課税が適応され、利益によって税率が変動する。

累進課税による税率の動きは下記の通り。

所得額

税率

所得控除額

~195万円以下

15%(所得税5%+住民税10%)

なし

195万円超~330万円以下

20%(所得税10%+住民税10%)

97,500円

330万円超~695万円以下

30%( 所得税20%+住民税10%)

427,500円

695万円超~900万円以下

33%( 所得税23%+住民税10%)

636,000円

900万円超~1,800万円以下

43%( 所得税33%+住民税10%)

1,536,000円

1,800万円超~4,000万以下

50%(所得税40%+住民税10%)

2,796,000円

4,000万円超

55%(所得税45%+住民税10%)

4,796,000円


この表からわかる通り、海外FXは稼げば稼ぐほど支払う税金は大きくなる。

ここで覚えておきたいのが年間利益330万円というボーダーライン。

総合課税は課税される所得額に応じて一定の控除を受けることができる。この控除額を踏まえて計算した場合、330万円までは海外FXの方が税金が安くなる計算だ。

そのため、初心者向けには海外FXの制度の方が得をする。しかし、利益の確保に慣れてきたトレーダーにとっては、国内FXがおすすめだ。

確定申告の手続きと期限

課税対象の期間は1月1日から12月31日までだ。この期間のトレードによる損益を計算して、確定申告の有無を判断する必要がある。

損益や経費の計算を行い確定申告書を完成させ、翌年2月中旬から3月中旬までの提出が必要だ。

確定申告をスムーズに行うのであれば、e-Taxでのオンライン申告がおすすめだ。自身のマイナンバーカードとマイナンバーカードを読み込むカードリーダーがあれば、オンライン申告が可能だ。

マイナンバーカードはFX会社の口座開設にも利用できるので、持っていない方は作っておこう。

FXの確定申告をせず、税金が未納の場合は税務署にばれる

FXで一定の利益が出ているが確定申告をしなかった場合、所得税法違反の罪に問われる。

所得税法違反は10年以下の懲役、もしくは1,000万円以下の罰金が発生する。これに加えて、脱税額の約20〜30%を支払う罰金税の他に、重加算税が発生するため、ペナルティとしては軽くない。

FX会社は顧客の取引データを支払調書として税務署に報告しているため、脱税はばれる。無申告や所得隠しは刑事罰に問われることもあるので、利益が出た場合は必ず申告しよう。

FXの税金は仮想通貨の税金より安い

仮想通貨と比較すると、多くの利益を出すのであればFXの税金の方が安い。

仮想通貨の利益は海外FXと同じ総合課税が適応される。そのため、原理としては稼げば稼ぐほど税率は上がっていき、支払う税金も高くなる。

また、損益通算ができないため、翌年への損失の繰越(繰越控除)も不可能だ。制限が多い仮想通貨の確定申告と比較すると、FXの方が税金が安く済む。

【関連記事】

仮想通貨の税金解説!計算方法など初心者向けの基礎知識

FXで申告できる経費

FXにおいて計上可能な必要経費には以下のようなものが含まれる。

  • 通信費(インターネット代、電話代)
  • セミナー受講費
  • 機材費(パソコンやモニターなど)
  • 交通費(セミナーへの移動費用など)
  • 電気代や家賃(在宅でトレードするため)
  • 取引手数料
  • FX関連の情報料金(書籍代や新聞代など)

基本的にFXトレードに関わるものは計上可能となっている。

インターネット代から電気代までFXトレードに関連したお金は必要経費に分類されるため、確定申告の際は細かにチェックする必要がある。

また、経費として認めてもらうためにFX取引に関わった証拠を残しておくことが重要だ。お金を使った項目を証明するためにもレシートや領収書や、クレジットカードの取引記録は残しておこう。

さらなる節税をしたい人は繰越控除がおすすめ

さらなる節税を考えている人は、繰越控除を検討すると良い。繰越控除はある年に控除できなかった損失を翌年以降に持ち越すことができる仕組みだ。繰越控除は損失が確定した翌年3年間は対象となるため、損失との相殺が可能。

例えば、

  • 2017年:120万円の損失(通算損益:-120万 課税対象額:0円)
  • 2018年:60万円の利益(通算損益:-60万 課税対象額:0円)
  • 2019年:30万円の利益(通算損益:-30万 課税対象額:0円)
  • 2020年:70万円の利益(通算損益:+40万 課税対象額:40万)

となった場合、2020年時点で損失が全て相殺されて40万円の利益が発生する。この繰越損失が相殺されて出た利益が初めて課税対象となる。

FXにおいて損失が出てしまった場合は、繰越控除による節税は必須な対策と考えて良いだろう。

ただし、繰越控除は海外FXでは適用できない。また、海外FXによる所得は総合課税だが、同じ総合課税である不動産所得や事業所得との損益通算も認められない。

FX節税対策を充実させたいのであれば、国内FXで繰越控除が適用されるようにしておこう。

法人で取引を実施している人へ

FX取引はある一定の利益以上になった場合、所得税よりも法人税の方が安くなる。個人事業主は所得税、法人税がかかるため、税率が異なる。

所得税は累進課税制度なので、利益が高いほど税率も上がって最大45%となる。一方で、法人税は19%で一定だ。

例えば、所得が330万円の場合、個人事業主で所得税を支払うとなると税率は20%。法人で税金を払う場合、法人税の税率は19%となる。

FX取引の利益だけを見るのであれば、法人化した方が節税になる。

他に法人化することによるメリットとデメリットが存在する。

法人でFX取引をするメリットは

  • 経費の幅が広くなる
  • 損益通算が可能となる

の2点だ。

個人事業主で必要経費にできるのは、FX取引に必要なのもののみ。しかし、法人化することで法人で支払ったものは経費にできる。

そのため、経費として計上できるものが増えて節税が可能となる。

一方で、法人化のデメリットとして法人の設立や維持に費用がかかるため、気軽に法人化に踏み込めるわけではない。

これらを踏まえた上で個人事業主としてFX取引をしており、利益が600万円を超えた場合は法人化を視野に入れた方が良いと言える。