仮想通貨の究極的な本質は、規制や統制、あらゆる中央集権的なシステムと相いれない立場である。非中央集権型のシステムを全面的に支持し、そして多くのルールから自由なものだ。

 仮想通貨がまだ脚光を浴びる前は、世界経済のおいて大きな要素でもなく、この本質が多く意義を持っていた。しかし、経済の主流の側にも受け入れられ、多くの個人が仮想通貨に投資するようになるにつれ、世界中の政府や規制当局の目が向けられるようになった。

 この流れは、G20サミットが仮想通貨を議題にのせたことで頂点に達した。しかし、ある国は待ちの姿勢ではなく、自らの道を開拓しようとしている。

 オーストラリアは、仮想通貨規制の分野で非常に積極的で直接的である。すでに仮想通貨取引所の規制など、いくつかの政策を実行に移している。同国の仮想通貨を巡る政策や規制は、より進歩的であり、政府と仮想通貨の双方を発展させる可能性を秘めている。

オーストラリアの仮想通貨市場

 オーストラリアは、ビットコインやほかの仮想通貨の最大の市場とはいえないが、成長している市場である。その立場から、オーストラリアドル(豪ドル)は、ビットコインの取引量で世界14位に位置する(記事執筆時点)。

 ビットコインの取引量で一番多く使われているのは日本円であるが、豪州はルール作りの面では世界の主要なプレイヤーだ。

仮想通貨取引所規制とライセンス

 オーストラリア政府は11日、オーストラリア金融取引報告・分析センター(AUSTRAC)を通じ、仮想通貨取引所に関する新しいルールを実施するための具体的な計画を発表した。主な内容は、「オーストラリアで運営されるデジタル通貨取引所(DCE)は、AUSTRACに登録し、政府のAML(反マネーロンダリグ)とCTF(テロ資金対策)の遵守と報告義務を満たす必要がある」というものだ。

 オーストラリア政府は既に3つの取引所へライセンスを与えた。メルボルンに拠点を置くBTCマーケットが第一号で、シドニー拠点のインディペンデント・リザーブなどが認められた。AUSTRACは国内の他の取引所にも5月14日を期限にライセンスを取得するよう求めている。

 メルボルン拠点のブロックビッドは3番目にライセンスを得たが、いまだサービスのベータ版を出す以前であり、本格的なサービス開始は19年を予定している

 政府による仮想通貨規制でよくみられるように、規制の主目的は仮想通貨を通じたマネーロンダリングとテロ資金調達の阻止だ。しかし、AUSTRACのニコール・ローズCEOは「規制は、社会や消費者の仮想通貨業界に対する信頼性を向上させるのにも役立つ」とコメントしている

 この点が、同国の仮想通貨規制の試みの重要なポイントだろう。市民や金融セクターを保護しつつ、同時に技術を成長させ、取り入れようとしている。

 オーストラリアによる取引所へのライセンス付与の動きは、政府が仮想通貨を取りこみ、統制しようとしていることを示している。これは締め付け強化とみることもでるが、オーストラリアはデジタル通貨についてポジティブな将来像を描いている。

決済手段としての仮想通貨

 オーストラリアは日本に続いて、ビットコインなどの仮想通貨を決済手段として位置付けた。日本では16年6月に法律が改正された。オーストラリアはそれに続き、17年1月に決済手段として認めた

二重課税を解消

 またデジタル通貨への関心が高まったことを受け、オーストラリアの規制当局は取り組みを加速させた。昨年9月20日、オーストラリア政府はデジタル通貨への二重課税の撤廃を発表した。消費税にあたる物品サービス税(GST)が仮想通貨購入時に課税されていたのを終了した。

ICOガイドラインを作成

イニシャル・コイン・オファリング(ICO)は、米証券取引委員会による規制や中国当局の禁止措置などで、注目を集めている。中国が昨年7月に禁止をした後、同年10月、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)はICOに関するガイドラインを発表した。

 このガイドラインでは、ICOの利用に関する法的位置づけは、発行するトークンの本質的な構造によって決まるとした。証券のように使われる場合には、トークンの販売はオーストラリアの一般的な消費者法によって規制され、金融商品ではなく企業が利用する場合には会社法によって規制される。

 当局のICOへのスタンスはいまだ強硬なものだが、ガイドラインの発表によって、少なくとも企業がICOを行うことは認められる形となった。

課税のために情報を追跡

 オーストラリアの税務当局は、仮想通貨の課税について具体的な措置を講じている。オーストラリア国税庁’(ATO)は、仮想通貨の投資家の情報を得るために「100ポイントチェック」のシステムを使っている。これにより、資金の動きを追跡し、マネーロンダリグ防止などにつなげている。

業界は規制に肯定的

 政府による直接的で強い規制は、仮想通貨関連で新しい事業を行おうとするときに障害になるように見える。だが、ほとんどの場合、オーストラリアの様々な業界からの反応は肯定的だった。

 オーストラリア・デジタル通貨協会(ADCA)のロゼッタ・ジョセフ会長は、政府の規制がバランスのあるものにするために、同協会が協力したと述べる

「ACDCは、オーストラリア政府および規制当局であるAUSTRACと、過去18か月にわたり緊密に協力してきた」

「オーストラリア政府と規制当局はイノベーションに対してオープンであり、我が国はブロックチェーン技術の責任ある応用においてリーダーとなりうる」

バブル懸念の払しょくに一役

 これらの規制が、マネーロンダリグやテロ資金の脅威に対抗するために有効なのは間違いない。仮想通貨ビジネスや仮想通貨を活用しようとしている企業も恩恵を受けている。またこの規制は、仮想通貨自身へも大きな影響を持っている。

 仮想通貨が注目されるに従い、マスメディアでの露出や誇大宣伝的な情報も出てくるようになってきた。注目を集めるようにあると、人々の注目をより集めるようになり、急激な価格変動に対してバブルではないかという懸念も出るようになった。

 しかしオーストラリア政府の取り組みによって、単純なバブルではない何かということを証明することになる。こう主張するのは、フォーブスでオーストラリアの仮想通貨について記事を書いているジェームズ・グエン氏だ。

 グエン氏は、オーストラリアが新しい技術に関する制度を作るために多大な労力を費やしていると説明する。仮想通貨の成長の早さが既存の規制枠組みを超えていたためだ。またオーストラリアは予測が難しい分野についてもアクティブな規制の必要性を認識していた。

「研究と新しい規制導入にリソースを投入することで、オーストラリア政府は、仮想通貨が長期的な存在だと認識していることを示している。政府は国民を守る責任がある。仮想通貨を禁止せず、それに適応するための法改正を進めることで、現在の市場の熱狂を超え、新しい資産クラスとての未来を見据えていることを示す」

仮想通貨と規制の新しい関係

 金融の解放という大目標のために、規制を打ち消し・撤回を求める時代は過ぎ去った。たしかに銀行は様々な規制を武器にして、ビットコインの急速な成長を阻害しようとしていた。

 もし仮想通貨がメインストリームとなり、金融に革命をもたらすことになるならば、仮想通貨は法規制のもとで革命の道を進むことになるだろう。

 ダッシュのライアン・テイラーCEOは、仮想通貨業界は規制を求めており、オーストラリアがガイドラインを提示したことはこれ以上の混乱を避けることにつながると述べる

 ダッシュは米国に拠点を置き、欧州にもマスターノードの拠点を複数持つ。仮想通貨のポジティブな規制は、デジタル通貨をグローバルなシステムにするtめに大きな役割を持つ。

「KYC(顧客確認)やAML(反マネーロンダリング)のルールは、米国などほかのマーケットにも存在する。今回の発表のポジティブな側面は、オーストラリア当局が、仮想通貨取引所が必要としている厳密な規制を提供することだ。今回の新しい規制レジームを受け、今後6か月でオーストラリアの市場がどうなるのか、興味深く見守りたい」