規制当局は、ブロックチェーンのような新興産業を強権的に支配するのではなく、行動経済学の「ナッジ(nudge)」理論を用いて、公共行動に影響を与えることを目指すべきという。

ナッジ理論は、2017年ノーベル経済学賞のリチャード・セイラー教授と、ハーバード大学キャス・サンスティーン教授が、2008年から提唱しているもの。強制的に他者を導く「パターナリズム」と自主性に委ねる「リバタリアニズム」を融合させ、(管理主体が第三者を)「ヒジで軽く小突く(nudge)」程度で、自由意志に影響させず適切な選択をうながしたり、合理的な判断のもと危険を回避させたりするというエコシステム(選択アーキテクチャ)を提示している。

イスラエルに拠点を置く2名の研究者ハダ・ジャボティンスキー(Hada Jabotinsky)氏とナシム・コーエン(Nassim Cohen)氏は2月21日、オックスフォード大学法学部のブログにおいて、両者による新たな論文を紹介した。

両研究者は、新技術を規制する際の課題のひとつとして、当局の知識不足を指摘。新たな論文では、消費者が無防備な状態に置かれる不十分な規制下の自由行動、技術の進歩を抑制する重度の禁止のどちらにも与しないアプローチを提案したという。

ブロックチェーン、仮想通貨、IoT(モノのインターネット)、自動運転車など複雑かつ新しいテクノロジーには、従来以上に高いレベルの技術リテラシーが必要となっている。この論文によると、技術革新のペースが加速するつれ、規制当局は製品や発明がもたらす影響の把握に苦労しているという。

「ナッジ(nudge)」とは

研究者らによると、「ナッジ(nudge)とは、『選択肢を禁止したり、経済的インセンティブを大幅に変更したりせず、人々の行動を予測可能な方向で変えるという選択アーキテクチャ(枠組み)』」という。

ブログでは、新製品に関連する特定のリスクに消費者の注意を向けることで、規制当局はその行動に影響を与えられると指摘。この例としては、ICO詐欺への注意喚起を目的に、米証券取引委員会(SEC)が2018年5月に開設した模擬サイト「ハウィーコイン(HoweyCoins)」が挙げた。

またナッジベースのアプローチには、厳密な開示要件、標準かつ簡略化されたルールの導入が含まれるという。

多くの場合、ナッジの根拠も規制当局の直感に基づくことになるものの、拘束力のある規制とは異なり、規制当局が誤っていた際には無視したり一部を取り入れたりなど、新産業にとって悪影響やダメージが少ないと証明できる可能性があるそうだ。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン

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