著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。

DAOの分散化とは、Binary(二者択一)ではなくSpectrum(分布)で見るべきと言われます。分散化とは0か1かの話ではなく、程度の問題という意味です。また、DAOには「段階的な分散化(Progressive Decentralization)」というコンセプトがあり、最初から「〇〇は分散化していないからダメ」と決めつけるべきではありません。むしろ、見せかけだけの分散化を拙速に進めることは、政治学の文献でも黄色信号だと指摘されています。

今回は、@RikaGoldberg によるTallyのMirrorへの寄稿記事「Dodging The Tyranny of Structurelessness in DAOs」を紹介していきたいと思います。

まず引用されている「The Tyranny of Structurelessness」(意訳: 「組織構成がないということの呪縛」)は、政治家学者であるJo Freemanによって1972年に書かれた、女性解放運動であるウーマン・リブについてのエッセイです。

DAOの分散化を無計画に進めた結果、本質的な仕事は何もしないのにただ声が大きいだけの個人によってDAOの運営が左右されてしまう・・・。そんな失敗をしているDAOは少なくありません。Jo Freemanは、structurelessness、つまり「組織構成が無い」という状態を成立させることはそもそも不可能であることを説きます。存在するのは、Formal(公式)な組織かInformal(非公式)な組織だけです。ここでは「DAOの分散化」を拙速な形で進めるDAOは、非公式な組織作りに終始してしまっていると捉えることができます。

非公式な組織では、誰でも参加を歓迎されます。しかし寛容になって参加者を受け入れすぎた結果、逆説的にうまくいかないことが世の中にはあるのです。非公式な組織で誕生するリーダーは、「本質的なこと」ができるからではなく「みんなから好かれるから」だとJo Freemanは分析します。また非公式な組織の対等によって、秘密裏にエリート集団が組織され、フォーラムでの議論が不健全(Toxic)になりがちといいます。

対照的にうまくいっているDAOは、ビジネスモデルやプロダクト、プロトコルを作り上げた後で、コミュニティを育てることに焦点を当てます。筆者は、トレジャリーをしっかり持っている上位のDAOは「公式でゆるい中央集権性」を持っている、とし、うまくいっている例としてArbitrum、Optimism、Uniswapを紹介します。公式組織は説明責任があり従業員は競争を勝ち抜いて面接で選ばれています。この点は、伝統的な企業の競争力の維持と同じ意味合いで、やはり重要なのです。

「呪縛」を解くための方法

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