かつてビットコインと仮想通貨に批判的だった著名な空売り投資家のジム・チャノス氏が、新たな取引戦略としてストラテジー(旧マイクロストラテジー)株の空売りとビットコイン(BTC)の購入を組み合わせる手法を明かした。
チャノス氏はニューヨークで開催されたソーン・インベストメント・カンファレンスでCNBCの取材に応じ、「マイクロストラテジー株を売り、ビットコインを買っている」と語った。この取引を「1ドルで買って2.50ドルで売るようなもの」と形容し、価格の大きな乖離が存在すると主張した。
同氏は、ストラテジー社が「ビットコインを企業構造の中で保有するというアイデア」を市場に売り込んでおり、他の企業も同様の戦略を追随していると指摘。その現象を「馬鹿げている」と一蹴し、自身の取引を「アービトラージの好例であり、小口投資家の投機心理のバロメーターでもある」と語った。
ビットコイン保有企業への過大評価を指摘
チャノス氏の戦略は、ストラテジーのような企業経由でビットコインに間接的に投資することが、実際のビットコイン価格に対して過度に割高だという見方に基づく。投資家がこうした企業の株式を購入することで、企業が保有するビットコインの価値以上に株価がつり上がっていると指摘した格好だ。
同氏は、こうした企業を通じた間接的なBTC保有が株式の過大評価につながっており、リスクが適切に評価されていないと述べた。
ただし、ストラテジーの空売りは必ずしも成功しているわけではない。2024年には、同社の株価が上昇したことで空売りを行った投資家が約33億ドルの損失を被った。
2025年5月時点で、ストラテジーは約56万8840BTC(約590億ドル相当)を保有しており、2020年からの累積によって株価はS&P500を大きく上回り、1500%以上の上昇を遂げている。
フィナンシャル・タイムズが最近公開したドキュメンタリーの中で、ストラテジーのアナリストであるジェフ・ウォルトン氏は「将来的に市場で最も評価される上場株となる」と展望を語っている。
BTCを「リバタリアンの妄想」と酷評していたチャノス氏
チャノス氏は、かつてビットコインに否定的な立場を取っていた。2018年のインタビューでは、ビットコインを「リバタリアンの妄想」と表現し、最悪の事態に備える価値の保存手段としては機能しないと述べていた。「もし法定通貨が崩壊するなら、ビットコインよりも食料のほうが価値がある」とも語っていた。
2023年のインタビューでは仮想通貨業界を「金融のダークサイド」と呼び、脱税やマネーロンダリングを助長していると批判。ビットコイン上場投資信託(ETF)に対しても懐疑的で、「ウォール街が手数料で儲けるための仕掛け」と述べていた。
それでも現在、チャノス氏はストラテジーのような企業経由よりも、ビットコインを直接保有するほうが合理的と見ているようだ。
チャノス氏の空売りの歴史
チャノス氏は2001年、エネルギー企業エンロンの破綻前に空売りを仕掛けたことでその名が知られている。この取引は、彼が設立したキニコス・アソシエイツに莫大な利益をもたらした。
空売りとは、資産をブローカーから借りて市場で売却し、その後価格が下落した際に買い戻して返却する手法で、資産価格が下がると利益を得られる。ただし、価格が上昇すると損失が生じる。
チャノス氏はその後もテスラ株に対しても同様な戦略を取り、2016年に空売りを開始した。だがテスラ株は2015年から2021年にかけて2200%の上昇を記録。これによりチャノス氏のファンドは大打撃を受け、2020年には運用資産が前年の9億ドル超から4億500万ドルまで減少し、最終的にはファミリーオフィスに転換された。