ブロックチェーン分析企業チェイナリシスは、ステーブルコインであるテザー(USDT)の新規発行が仮想通貨(暗号資産)ビットコイン(BTC)の強気の動きを弱めてしまう可能性があると主張している。同社のチーフエコノミストであるフィリップ・グラッドウェル氏がマーケット分析の週間ニュースレターで明らかにした。

「新規に発行されたテザーは取引所への送金後すぐに、既存のテザーと同様にビットコインの購入に利用できる。ただ、現在の市場で新規発行分と既存のテザーとを区別すると、黄色とピンクの線で違いを示すように、取引所に送金される新規発行テザーがなかった際には、法定通貨がビットコインの購入を大きく推進している」

 

(出典:チェイナリシス)

グラッドウェル氏は価格の変化は、法定通貨が市場に流入することで影響を受けていると指摘。「現在のところ、法定通貨の需要によって価格の上昇が起きていることをデータは示している」と主張した。そのため、もしテザーが新規発行をしなければ、より多くの法定通貨が市場に入ってきたと同氏は結論づけている。

チェイナリシスのデータは以下のようにも指摘している。

「過去1年間で、取引所に送金されたテザーの総額は、同じく取引所に送付されたビットコインの総額の48%に匹敵する。つまり販売されているビットコインのほぼ半分を購入するのに十分なテザーがあった」

グラッドウェル氏は、ビットコインを購入するためのほかの取引ペアはごくわずかであると主張。ビットコインの半分は法定通貨で購入されたに違いないと結論づけている。

テザーを発行するテザー社の親会社アイフィネックスは価格操縦をしたとして、これまでにも度々訴訟を起こされている。今年1月には原告側が、米ドルと1対1の裏付けがないテザー(USDT)を発行してビットコインを購入することによって「ビットコインの価格を人工的に膨らませた」と主張。その結果、「ビットコイントレーダーから利益を奪っている」と続けた。2017年のバブル相場を誘発して2018年の弱気相場で投資家に不利益を生じさせたとみている。

テザーとビットコインとの価格の関係については、テキサス大学のジョン・M・グリフィン教授らによる研究も知られている。

グリフィン教授らはアルゴリズムを使ってビットコインのブロックチェーンを分析した結果、ビットコイン相場が低調な時にテザーでビットコインが購入され相場が押し上げられる傾向があったことを発見したという。この2018年の論文によれば、2017年12月に上昇したビットコインの半数は、明らかにテザーとその取引所のビットフィネックスによって引き起こされたという。ビットコインの価格は2017年の12月に過去最高値の2万円付近を記録した。

グリフィン教授らは2019年にもこの研究をアップデートさせ、2017年のビットコイン高騰は1頭のクジラによるものだと指摘している。この研究によると、仮想通貨取引所ビットフィネックスにある「1つのエンティティ」がある条件をクリアすることでビットコインの価格を押し上げる能力があったと指摘。グリフィン氏は「我々の調査結果によると、ビットコイン価格を動かしていたのは数千の投資家ではなく、たった1人の大きな投資家だった」と指摘している

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン