2018年の仮想通貨”冬の時代”には「ビットコインは支持しないけど、ブロックチェーンは支持する」と言った声が国内外で広がった。高すぎるボラティリティ(変動幅)、相次ぐハッキング事件、ICO詐欺…仮想通貨のイメージが悪くなる中、「我々の事業は仮想通貨ではなくブロックチェーンである」と強調し、実証実験に走った企業も多い。

だが、2019年の現在、「ビットコインではなく、ブロックチェーン(”Blockchain, not Bitcoin”)」集団の勢いに陰りが出てきている兆候も見られる。今年のブロックチェーンへの投資が60%減少するという報道があったほか、相場回復で勢いに乗るビットコイン強気派が反撃を開始。ジミー・ソン氏は、ブロックチェーンという「解決策(solution)」が「問題(problem)」を探して漂う本末転倒な「エラー状態」が続いていると指摘。「ビットコインではなく、ブロックチェーン」集団は、「裸の王様」の家来のように「衣服を見ているふりをしている」と痛烈に批判した。

日本では、10月にブロックチェーンウィークの開催が予定されている。仮想通貨とブロックチェーンを分けて考えることに意味はあるのか?もしあるとしたら、何を基準にブロックチェーンのプロジェクトを見極めれば良いのか?相場も落ち着いている現在、整理をした方が良いかもしれない。コインテレグラフ日本版は3人の専門家に話を聞いた。

マネーとブロックチェーン

「それって、本当にブロックチェーンが必要?」長年のビットコイン支持者の多くがよく口にする疑問だ。

ビットコイン技術の開発を手がけるブロックストリーム(Blockstream)社の最高戦略責任者(CSO)であるサムソン・モウ氏は、「すぐに『ブロックチェーン』という単語を『データベース』という単語に置き換えられることに気づくだろう」と主張。「ブロックチェーンとはスケールしないもので、本質的に遅い」とし、「実践的な適用対象は、金融」と信じている。

モウ氏のいう金融とは、以下のような分野だ。

「信用を最小化したトレード、デジタル資産の創造、そしてビットコイン」

また、仮想通貨取引所シェイプシフト(shapeshift)のエリック・ボールヒーズCEOは、ブロックチェーンの適用対象は金融以外にもあるとみているものの、「最も成功したブロックチェーンは、2009年の誕生以来、依然ビットコイン」であり、「ビットコイン以外で、最も使われたブロックチェーンは、依然、仮想通貨にとどまっている」と話した。

「仮想通貨でないブロックチェーンにも居場所があり、価値あるものになると考える。一部はかなりの成功を収めるだろうが、仮想通貨がブロックチェーンの支配的な利用ケースであり続けるだろう」

また、同氏は「多くのケースで、ブロックチェーンではなく、データベースで事足りる」という点でモウ氏に同意。「これは中央集権型のデータベースで扱った方が良いのではないだろうかと常に疑問に持たなければならない」と述べた。

ブロックチェーンはいつ必要?

ボールヒーズ氏は、ブロックチェーン導入の条件を次のようにあげた。

『止められないこと(unstoppable)』『腐敗が許されないこと(incorruptible)』『操作できないこと(non-manipulatable)』、そして『ボーダレスであること(borderless)』に関しては、ブロックチェーンがおそらく必要だろう」

同氏は、先述の通り、マネー以外にもブロックチェーンの適用対象があると主張。金融製品、デリバティブ(金融派生商品)、ギャンブル、相互に情報交換が可能なゲーム、投票、個人情報の管理(IDや医療記録など)などをあげた。

ただ、「健全なマネーはあまりにも重要なケースなので、多くの企業とほとんどの仮想通貨/ブロックチェーン業界がこの利用ケースにのみ焦点を当てるのは理にかなっている」と付け加えるのを忘れていない。

一方、モウ氏は、ブロックチェーンのセキュリティーをどのように守ろうとしているか、問いかけることの重要性を指摘した。

「もしセキュリティを守るために、誰もアクセスできないという解決策を採用する気なら、データベースを使った方が良いだろう。利用者にとって、もしノードを立てられずに検証できなければ、何の意味があるのだろうか?

「ビットコインではなく、ブロックチェーン」と主張する集団に対して、モウ氏はあくまで、「これまで通り、いつもビットコインであり、ブロックチェーンではなかった」という立場を示している。

ブロックチェーン投資減は「サイクルの一部」

一方、ハイパーレジャー(Hyperledger)のエコシステム部門でディレクターを務めるマータ・ピエカースカ氏は、ブロックチェーンに以前強気だ。ブロックチェーンへの投資が減少したとの報道について「イノベーションのサイクルの一部」と主張。「上がった下がったという好不調の波」だけで判断する人は、「技術の長期的な価値を見失うだろう」と述べた。

すべてをブロックチェーンと結びつけるフェーズはもう過ぎた(『ブロックチェーンを会社の名前に使って時価総額を急上昇させた会社を覚えているだろう?)。そして今は、冷静な頭で、バランスのとれた評価をするステージに到達した

ピエカースカ氏は、成功例としてIBMフードトラストやWe.Tradeを指摘。「共通のプラットフォームで様々な業界が一致団結し、効率性と信用を高めるためにブロックチェーン技術を利用している」と述べた。

IBMフードトラストとは、ブロックチェーンを使ってサプライチェーンの効率性と透明性を高めるプロジェクトで、米小売り大手のウォルマートなど100社以上が加盟している。We.Tradeは、ブロックチェーンを使った貿易金融のプラットフォームだ。

またピエカースカ氏は、ビットコインについて「ブロックチェーンを主流にしたが、誇大広告も持ち込んだ」と分析。その誇大広告が消えつつある現在、「多くのエンタープライズがブロックチェーンを使った本物のソリューションに注目し始めていると我々は観察している」と述べた。

POC(実証実験)での注意点

ただ、ピエカースカ氏は、「POCを成功させることとプロダクトを構築することは、全くの別物」と注意を払う。

「POCで無視したことが、プロダクションに移った段階で致命的な問題になる可能性もある。製品化に必要なことを理解して初めからそれを考慮に入れたプロジェクトが成功することを我々は見てきた」

 

ビットコインなどマネーの分野以外でブロックチェーンの可能性に共感する専門家の間でも、ブロックチェーンの真価が問われるのはこれからというのが一致した意見のようだ。新たな可能性は大いに探るべきだろう。しかし、ボールヒーズ氏が指摘するように、ブロックチェーンの1番の成功例は依然、ビットコインや仮想通貨だ。

単にイメージが悪いから仮想通貨を避けてブロックチェーンに焦点を当てるという考えは、ブロックチェーン関連技術開発の進展のためにも非生産的ではないだろうか。

また、そもそも「お金」という重大なテーマであるからこそ仮想通貨について真正面から向き合うことが、必要なのではないだろうか。

取材・文 Hisashi Oki