ジェネシス・グローバル・トレーディング社が最近、申請していたビットライセンスの承認を受けたことは、ニューヨーク州と仮想通貨業界との関係に新たな光を当てるものだった。ニューヨークは伝統的に企業活動がしやすいビジネスセンターであり、国際的な金融ハブである。しかし、ニューヨーク州金融サービス局(DFS)がビットライセンスを通して実施する規制要件は、15年に施行されて以来、業界内の多くのプレイヤーから批判を浴びてきた。

 ニューヨーク州上院のジェシー・ハミルトン議員とデイヴィッド・カールッチ議員は今年これまでに、ビットライセンスを疑問視する仮想通貨業者を招いて円卓会議を開催し、それらの批判の大部分を確認した。業界関係者たちはDFSの設定する規制要件について、画一的な規制のため小規模な企業にとって過度の負担になっており、結局のところイノベーションを押さえつけていると繰り返し述べた。

 15年にビットライセンスが初めて施行される前、MITメディアラボのデジタル通貨イニシアティブ責任者であるブライアン・フォード氏は、この厳しい規制を順守できるのは豊富なリソースを持つ大企業のみであると指摘し、その後起こることになる事態をすでに示唆していた。

「提案されているビットライセンスに修正が加えられなければ、生き残るのは十分な資金力を持つ一握りの企業のみとなるだろう。(生き残るのは)それらの企業が最高の製品やサービスを提供しているからではなく、潤沢な資金を利用できるからだ」

ビットライセンスとは

 ビットライセンスは、規制要件に適合し、以下の活動のいずれかに関与している業者に対して、DFSにより与えられる。

  • 仮想通貨の送金
  • 他の者に代わっての仮想通貨の保存、保有、又は保管や管理の維持
  • 顧客ビジネスとしての仮想通貨の売買
  • 顧客ビジネスとしての交換サービスの実施
  • 仮想通貨の管理、運営、発行

 またDFSは、仮想通貨マイニングはこの規制の一部を構成しないという考えを示している。

 規制要件の一部には以下のものが含まれる。

  • 全従業員とFBIに提出された指紋のバックグラウンドチェック
  • 企業はニューヨーク債に投資しなければならない
  • 取引記録は10年間保存しなければならない
  • 四半期終了日から45日以内に、四半期財務諸表を提出しなければならない
  • 企業はその収益を、米公社債投信(MMF)や連邦債・州債などの米ドル市場にしか投資できない

 ビットライセンスがニューヨーク州で施行されたのは15年6月24日だが、それから3年の間に同州でビットライセンスの認可を受けた仮想通貨関連業者は、たったの5社だけである。これはおそらく、業者に課せられた規制上の負担が厳しいことの証であるが、そもそも申請の第一歩として、31ページにも及ぶ煩雑な申請書類を完成させなければならないことも、その理由の1つだろう。

 ビットライセンスを取得した非常に数少ない業者の1つが、リップルの子会社であるXRP IIであるが、その取締役に名を連ねる元DFS局長のベン・ロースキー氏は、ビットライセンスの設計で指揮をとった張本人に他ならない。

 しかし、ビットライセンスは業界に悪影響を与えるものと、誰もが考えているわけではない。現DFS局長のマリア・ヴロ氏は春季会議の所見でこう述べている。「我々が仮想通貨に対して作った規制の仕組みのおかげで、ライセンスを取得した業者は、顧客や投資家、及びさらなるイノベーションを追求しようとしている潜在的な金融サービスパートナーからの、強い関心を引き付けることができた。同時に、法に従う全ての企業に適用される厳格な基準が、市場一体性を守っている」。

ビット・エクソダス

 ビットライセンスが施行されて以来、その非常に厳しい要件が原因で、多くの仮想通貨スタートアップがニューヨークを離れざるを得なかった。この動きは、「ビット・エクソダス」とも呼ばれた。

 ビットコイン取引所のクラーケンのジェシー・パウェル創業者兼CEOは、同社がニューヨークを離れる決心をした理由を、次のように説明する。

「規制要件で、どうにも対応できないことがいくつかあった … 世界中の顧客情報を全てニューヨーク州に開示しなければならなかった。そんなことは耐えられなかった」

 ニューヨークを去った別の仮想通貨取引所、シェープシフトのCEO兼創業者も、同地域を離れた理由として、イノベーションの制限を挙げた。

「この都市を愛し、進歩の象徴として見ることができなくなった … イノベーションの敵として見るようになってしまった。ここの規制者たちはあらゆる金融事業者を銀行のように扱いたいと考えている … 私たちは銀行ではないし、銀行になりたいとも思っていない … 私たちが積み上げてきたものは全て、銀行がしてきたこととは反対のことをしようとするものだ」

 ビットライセンスの嵐の結果、先例に倣ってニューヨークを去った仮想通貨企業には、ローカルビットコイン、レビット、ジェネシスマイニング、ビットフィネックスなどがあるが、それはほんの一例に過ぎない。イーオーボットのように、事業を完全に中止せざるを得なかった会社もある。

ニューヨークの仮想通貨機会に与える影響

 コンセンサス2018で識者たちは、ニューヨークは世界金融の中心地であるが、ブロックチェーンコミュニティは国際的であるとの意見で一致した。そして最終的に、ビットライセンスの施行は国際的な仮想通貨コミュニティに対してよりも、同州にとってより有害なものになっているとした。ビットライセンスは、州全体として仮想通貨のチャンスやブロックチェーンを歓迎する姿勢とは、全く対照的である。

 ニューヨーク市経済開発公社(NYCEDC)の社長兼CEOは5月、ニューヨーク市ほどブロックチェーン革新に道を開く体制を整えている都市は、世界中他にないと述べ、同市におけるブロックチェーン関連の多くの取り組みを発表した。これには、ニューヨーク市ブロックチェーン・リソースセンターや、ブロックチェーンをベースとしたアプリの公開コンペティションが含まれる。

 またニューヨークは過去に、ビットコインを使った不動産の購入やビットコインATMの設置、及びダイアモンド販売店でのビットコインでの支払いを実現した初めての都市の1つとなることで、仮想通貨のイノベーションを受け入れてきた。仮想通貨への支持はニューヨーク・ファッションウィークでもはっきりと示され、一時ニューヨークは、アメリカで2番目にビットコインに優しい都市と呼ばれていた。

 米国では仮想通貨をベースとした事業運営に適用される、州を跨いだ規制が現実にないため、各州の規制当局にとっては、それらの組織のビジネスを自分たちの管轄区域に誘致するチャンスとなっている。

 証券取引委員会(SEC)でさえ、仮想通貨関連の具体的な管理を導入していない。唯一、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)を通して発行されたトークンをユーティリティと見なすか、有価証券と考えるべきかという問題だけが、規制の対象となっているようだ。

 ワイオミングのような意外な州がこの状況を利用して、規制当局は消費者を保護する必要があるものの、それはイノベーションを追い払うのではなく、仮想通貨やブロックチェーンの事業運営を促進する方法で実現できることを示してきた。同州は過去数週間において、仮想通貨やブロックチェーン技術を発展させる目的の、それぞれ独立した5つの法案を可決している。

 ニューヨークは世界中の企業を引き付け、ブロックチェーンや仮想通貨分野を含む多くの産業のイノベーションを支援してきた、グローバルな金融ハブとしての評価が高い。それを考えれば、規制当局がなぜ高圧的な規制で根本的にその評判に逆らうことを選んだのか、控えめに言っても奇妙である。特にそれを考えると、現時点における米国の仮想通貨規制はすべて、連邦よりも州が主導している言うことができる。

 ジェネシス社のビットライセンス申請が承認されたことは、正しい方向に向かう第一歩ではあるが、ビットライセンスの手続きがニューヨークと仮想通貨との関係性を破壊したのも同然で、全体としてイノベーションやビジネスに悪影響を与えてきたことは、皆の意見が一致するところだ。

 しかしながら、ニューヨークに戻ってこようとしている者たちを含む、ニューヨークの仮想通貨スタートアップにとっては、希望の兆しが出てきたかもしれない。今年これまでに、ニューヨーク州議会のロン・キム議員は、ビットライセンスの手続きを効果的に置き換える法案を提出した。この法案は、規制要件を緩め、仮想通貨投資家をニューヨーク州に呼び戻そうとするものだ。

 法案は現在「審議中」の状態で、可決されるまでにはまだいくつかの段階を踏む必要がある。しかし、もし十分な支持が集まれば、ビットライセンスの終わりを告げ、ニューヨークの仮想通貨投資家や企業にとって新しいスタートとなるかもしれない。