米ドルがこれまでにないほど印刷され、供給されている一方で、流通速度がかつてないほど低下している。

8月31日に公開された米連邦準備制度理事会(FRB)の統計によると、大量のマネーサプライ(緩和的な金融政策)にかかわらず、マネーサプライM2(現金と預金、準通貨を合わせたもの)の流通速度が急激に下がっていることが示されている。

「カンティリオネア」を生むだけ

マネーサプライM2は新型コロナウイルス対策によって、2020年には18兆ドルを超えた一方で、流通速度は1940年代以来、初めて1.125を下回った。理論的には経済活動が高まるにつれて、流通速度が上がるとされている。

今年は新型コロナウイルスによる世界的な不況によって、マネーサプライM2と流通速度のボラティリティが急激に大きくなっている。歴史的データとは明らかに異なる動きを見せている。

既報の通り、この記録的な低さは膨大な流動性があることを示しているが、経済活動には現れていないようだ。

この理由の一つには供給された大量の現金が、運用後にもFRBのバランスシート上に残っていることがある。これは、資金の供給源に近い人々が、影響のほとんどすべてを受けている人であるということを意味する。

仮想通貨(暗号資産)ビットコイン(BTC)強気派のマックス・カイザー氏によると、「カンティロン(カンティヨン)効果」と呼ばれるプロセスが生まれているという。「カンティロン効果」とは、新たなお金の最初の受取人は、そのあとの受取人を犠牲にしてより高い生活水準を受けるというものだ。カイザー氏は、現在の景気刺激策は、新たなエリートである「カンティリオネア」を生んでいるだけで、広く一般への経済回復に影響はないと批判した。

カイザー氏はFRBのデータとともに「これは今何が起こっているのかを最もよく示すグラフだ。すべてを説明している」とツイートした。

「何兆ドルも印刷されているが、流通していない。米ドルはプリンターに最も近い人にコントロールされている」

U.S. M2 money supply velocity vs. money stock chart

(出典:マックス・カイザー)

ビットコインの流通速度低下は投資マインドを示している

マネープリントについては、ここ数週間で様々な報道が出ており、流通速度の崩壊に加えて、ドルが主要通貨に対して数年来の安値となっていることが指摘されている。

一方、ユーロ圏では、欧州中央銀行(ECB)のマネープリントプログラムにも関わらず、インフレ率が4年ぶりのマイナスとなっている。

ビットコインは供給量が決まっていることから、中央銀行の債務増加による恩恵を受けている通貨だ。仮想通貨データ分析企業のクリプトクオントはビットコインの供給速度の堅牢性を強調。米ドル同様に流通速度が減少しているが、投資家が「使う」のではなく「貯める」ことを意識していることから、米ドルと異なる価格動向になっていると指摘した。

Bitcoin money supply velocity vs. price chart

(出典:クリプトクオント)

これまでに仮想通貨取引所クラーケン幹部のダン・ヘルド氏は、ビットコインが新たな価格上昇の最中にあることを示す兆候の一つとして、ビットコインの総供給量の61%が1年以上動いていないことを指摘。さらに債務増加への不安の高まりによってビットコインが米ドルに変わる資産として選ばれると主張している。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン