セグウィット2xの中止によって、3年間に渡ったビットコイン界の派閥争いに終止符が打たれた。コア派の開発者らは闘いに勝ったと思っているかもしれないが、物言わぬ多数派はコインを売って退場し、時間とともにビットコインの価格は下落するだろう。

 同時にこれは人類史上の新たな時代の始まりである。この新たな時代において、個人は選択の自由、そして退場の自由を手にするのだ。

 

漁夫の利を得たビットコインキャッシュ

 11月16日がビットコインにとっての黙示録になることは完全に予測されていた。80%以上のマイナーは2MBブロックを支持する意思を示しており、何百ものビットコイン取引所や企業がブロックサイズを拡大させるニューヨーク合意にサインしていた。ビジネスサイドは2MBブロックを計画していたが、ビットコインユーザーのコミュニティやコア派開発者チームはソフトウェアの変更を拒むつもりであった。このような事態により、ビットコインネットワークは破壊的に分裂する可能性があった。

 分裂はビットコインにとって最悪の事態となるはずだったが、ビットコイン価格は最高値を更新し続けた。これは事情がよく分かっていない投資家たちが、フォーク (分岐) の際は無料で分岐コインがもらえると思っていたからだ。ビットコインキャッシュの時はそうだったが、11月16日に予定されていた分岐においては違っただろう。

 セグウィット2xが実行されていたら、どれが「本当の」ビットコインかわからない事態がおきていたはずだ。例えばコインベースのような大手取引所はどちらのチェーンも支持するとしていた。また、2xチェーンにはリプレイアタック対策機能が実装されていなかったから、混乱が予想されていた。

 だからビットコインキャッシュが勝者になることが考えられた。ビットコインからうまく分岐したこのコインは、はっきりとした開発計画と、関連業者を考慮したビジネス志向をもっていたからだ。結果的に、セグウィット2xが中止された後ビットコインキャッシュは暴騰したから、このような考えをもった投資家が多くいたことになる。 

 

ビットコインは市場シェアを失っていくだろう

 ビットコインをスケール化する「ライトニング・ネットワーク」の開発者であるジョセフ・プーン氏は最近こう述べている。

パーティーが面白くなくなったら、帰るでしょう? 何とか雰囲気を良くしようとすることもできるかもしれませんが、一番簡単なのは立ち去ることですよね。たくさんのブロックチェーンが個人の自由の範囲を拡大しています。この場合の自由とは、いつでも自由に出ていくことができること、いつでも好きなように選択できることを指します。

 ビットコインエコシステム内の2つの大きな派閥は袋小路に入り込んでしまっている。だからビットコインの取引手数料はもう許容できないとか、現状のスケーラビリティでは将来性が見込めないとか考える個人や企業にとって、最も簡単な解決法は立ち去ることだ。これら個人は立ち去るにあたって初心者にビットコインを投げ売りしていくことだろう

 

機関投資家マネーは高値掴みの初心者たちを振り落としにかかる

 人々は年初に比べてビットコイン価格が7倍近くに上がっているのを見て熱狂している。ビットコイン関連のミートアップががあればそこには新しくビットコインを始めた人、初めてそれに投資する人があふれている。掲示板Redditのビットコイン板では、1年で10倍になることを期待してはじめて0.1BTCを買った人たちがお互いに喝采しあっている。

 こうした熱狂的な人々を駆り立てている強気材料の一つがCMEグループによるビットコイン先物の上場計画で、機関投資家マネーの参入期待で相場は盛り上がった。

 しかし、ウォールストリートのヘッジファンドはそれほどおめでたくない。ヘッジファンドはビットコインに投資していきたいかもしれないが、その場合でも彼らはまず、値下げを狙って空売りし、握力の弱い所有者たちを振り落とすだろう。空売りによって (実際数か月前の価格である) 3000ドルまで値を下げさせる。そして最高値でビットコインをつかんだ人々に数十億ドルの損失をもたらすことができるとなれば、彼らはやるのだ。

 

ビットコインの一人勝ちにはならない

 ブロックチェーンは新しいタイプの形態(エンティティー)である。ちょうど400年前に株式会社と株主が新しい形の事業や組織の形態であったのと同じように。今日株式会社は議会に対してロビー活動を行い、法人として人と同等の権利をもつ。近い将来ブロックチェーンもこのような権利を獲得するだろう。

 私はここ数年の間にすべての仮想通貨の時価総額は指数関数的に増えると思っている。しかしそれは勝者が全てを得るようなシナリオにはならないだろう。現在、メディアに出ている主流のファイナンシャルアドバイザーはビットコインを「あたらしい金 (ゴールド)」 として強く推している。しかしそんなことには絶対にならない。ビットコインが金 (ゴールド) ではないことは、だれでも金と同等の価値を持つ新種の金属を生み出すことのできる世界、というものを想像してみれば容易にわかるだろう。

 ビットコインが将来的にブロックチェーン市場の最大シェアを持つと考えることは、かつての東インド会社が現在の全ての企業を合わせたより大きな価値を持つと考えるのと同じぐらい奇想天外なことである。

 

弱気相場では国家コインが強くなる

 ロシアは最近自国の「仮想ルーブル」の開発に乗り出そうとしていることを発表している。(仮想ルーブルのシステムでは、兌換者が取引履歴を証明する書類を提出することができない場合、不換紙幣との交換の際に13%の税金が課せられる。)

 中央集権的なロシアのような国による仮想通貨は、取引処理に関してはビットコインよりずっと効率的になるだろう。だから私は特にビットコインが弱気相場にある局面では、仮想ルーブルのような国家コインが、ランサムウェア対策として、あるいはハイパーインフレから逃げたい人々にとって、さらには 資本規制を逃れようとする中国人にとって、ビットコインに取って代わる魅力的な存在になるのではないかと思っている。

 先月中国政府が国内の仮想通貨取引所を閉鎖した際、政府が「仮想人民元」をつくるのではないかという噂も流れた。

 どちらにせよ、ビッグプレイヤーが仮想通貨市場に参入しようとしていることは確かであり、彼らは自分たちの金をナカモト氏と分け合うつもりはないのだ。

 

お断り: 本記事の見解や解釈は著者のものであり、コインテレグラフの見解ではありません

作者・レット・クレイトン(Rhett Creighton) 米テキサス州出身。匿名性の高い仮想通貨であるZcashのフォーク等の開発者。ビットコイン・コアの開発にも寄与した。マサチューセッツ工科大学物理学及び核工学科卒。