ビットコイン強気派として知られるファンドストラットの代表、トム・リー氏は23日、リップル・インサイツへの寄稿の中で、仮想通貨より価値が安定するとされるステーブルコインに懐疑的な見解を示した。最近、仮想通貨リップル(XRP)に懐疑的な一部の人々を中心にリップル社はステーブルコインを発行すべきという意見が出ていた。

「本当のステーブルコイン」は「コミュニティー力」と「利用ケース」

リー氏は、マーケットに落ち着きをもたらす努力は評価されるべきとしつつも、「ステーブルコイン」が約束する安定性の保証は不可能ということは歴史が証明している主張。米ドルや円など法定通貨と連動させる仕組みのステーブルコインについて、「連動させる」ということは短期的な解決策でしかなく、その後訪れる連動解除は深刻な不安定さをもたらすと述べた。その上で、産油国ナイジェリアが自国通貨ナイラと米ドルを連動させて結果的に失敗したことを例に上げた。

「2010年の中盤にかけて原油価格が下落した時、ナイラは本来なら下落するはずだったが、ナイジェリア政府は外貨準備の20%近くを使って米ドルとの連動を維持した。ナイラはブラックマーケットでは半分の価値で取引され、結局ナイジェリアは米ドルとの連動をやめざるを得なかった。その結果、ナイラの価値は30%も暴落し、インフレになった」

リー氏は、1990年代にタイがバーツと米ドルを連想させたが、同じく失敗したことも指摘した。

リー氏によると、上記のような過去の失敗例から学べる教訓は、「理論上のマーケットの姿」と「実際のマーケットの姿」は違うということ。効率的なマーケット理論が示すように、マーケットが特定の動き方をするという理論に依存するのは危険だという。「人々は抜け穴を見つけてつけこむだろうし、本当の価値を反映するブラックマーケットを作るだろう」(リー氏)。

例えば、スイスフランなどは米ドルより理論上は安定しているが、「人々は米ドルの方を信じている」。リー氏は、「これは理屈ではなく、これまでの遺産や感情などの要素が加わってくる」と指摘した。同様にステーブルコインでもテザーが普及しているのは、例え十分な米準備金を持っていないと報道されても、十分な数の人々が信用しているからだと述べた。

要するにリー氏のポイントは、「理論的に安定している」という触れ込みは何の保証にもならないということだ。その代わりにリー氏は、「強いコミュニティーが良い時も悪い時も信頼を維持するだろう」と予想。また、「クロスボーダー(国をまたいだ)送金や消費者の支払手段、価値保存手段などで、デジタル通貨にはっきりとした利用ケースがあるかどうかが鍵になる」とも指摘した。そして「(法定通貨に)連動していようが、連動してなかろうが、上記のような要因が「本当のステーブルコイン」の構築に必要だろうと論じた。

 

「リップル社はステーブルコインを作るべき」に反論?

一体なぜこのタイミングでステーブルコインに対して懐疑的な見方がリップルに寄稿されたのだろうか?

リー氏が寄稿をする前日の22日、アンチリップルとして知られる米法律事務所パートナーのトゥーシャー・ジェイン氏が次のようにツイートしていた。

リップルは(ステープルコインの)USDCのような法定通貨に連動したコインを作るべきだ。そしてそれを銀行間の決済に使うべきだ。かなりボラティリティ(価格の変動幅)が大きいXRPを使用するより、完全に規制されていて、担保で保証されていて、法定通貨と連動し、価格が安定した仮想通貨を使ったほうが、xRapidは安定するだろう」

その上で「現状ではxRapidの取引高は少なく、国際送金市場において仮想通貨にははっきりとしたチャンスが有るのに、普及が進んでいない」とし、リップル社のガーリングハウスCEOにとって重大な決断になるだろうと述べた。

リップル社の国際決済サービスxRapidは、すでに大手金融機関の間で普及が進んでいるxCurrentとは異なり、仮想通貨XRPの利用が義務となる。xRapidでは、クロスボーダー送金の際、銀行が円や米ドルでXRPを購入し、そのXRPを送金先の地元業者が地元の通貨に両替する仕組みを提供する。

先日、英決済サービス企業MercuryFX社による実証実験が成功し、xRapidの威力を示す証明として仮想通貨業界の中で注目された。MercuryFXの創業者コンスタンス氏は、リップルについて「初めて見た時から恋に落ちた」と発言し、その成果を強調した。

現在、ジェイン氏の投稿に対しては、「リップルのビジネスモデルを理解していない」「そもそもXRPの送金は数秒だからボラティリティーは関係ない」や「カウンターパーティーリスクを理解していない」、といった多くの疑問の声が寄せられている
 

ジェイン氏に対するリップル社からの回答はない。ただ、「コミュニティー力」や「利用ケース」こそ仮想通貨に本当の安定性をもたらすというリー氏の主張は、ジェイン氏に対する間接的な回答になっていると考えられるだろう。

ステーブルコインとは、法定通貨や金などの現物資産に裏付けられた仮想通貨。仮想通貨の問題点として値動きが大きく個人や企業の経済活動では運用しにくい事がある。そこで安定した(ステーブルな)仮想通貨を実現すべく、円やドルといった法定通貨や金などの実物資産の値動きと連動させた仮想通貨が開発された。ペッグ通貨とも表現され、例えばドルと連動する仮想通貨はドルペッグ通貨と表現される。

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