病気やけがで働けなくなると、勤め先から給与が支給されなくなる場合がある。収入がなくなると、自分自身や家族は生活していけなくなってしまうだろう。そこで病気やけがなどで働けなくなっても最低限の生活ができるよう、公的医療保険(健康保険)に加入する人のうち所定の要件を満たす人には「傷病手当金」が支給される。

ただし病気やけがで仕事を休んだからといって、必ず傷病手当金を受給できるとは限らない。また、傷病手当金の支給額や支給期間には、上限が設けられている。

本記事では、傷病手当金の仕組みや受給要件、支給額などをわかりやすく解説する。

公的医療保険のうち傷病手当金について解説

医療保険の種類は2種類ある

傷病手当金とは

傷病手当金とは、業務外で負った病気やけがが原因で働けなくなって仕事を休んだときに、本人や家族の生活を支えるために支給される手当だ。

傷病手当金の支給額は、過去1年間で勤務先から受け取った給与平均の2/3が目安だ。たとえば過去1年の平均給与が30万円である場合、受給できる傷病手当金は月額約20万円である。


傷病手当金の支給要件

傷病手当金を受給できるのは、会社員や所定の要件を満たすパートなどを対象とした「健康保険」に加入する人だ。また公務員や教職員など「共済組合」に加入する人や、船員を対象とした「船員保険」に加入する人も、要件を満たせば傷病手当金を受給できる。通常「国民健康保険」「後期高齢者医療制度」の加入者には支給されない。

傷病手当金の受給要件は、以下のとおりだ。

  1. 病気やけがで療養中である
  2. 療養のために仕事に就けない
  3. 連続した3日間を含む4日以上仕事に就けない
  4. 休業した期間中に給与が支払われていない

傷病手当金が支給されるのは、仕事を休んでから3日間の「待期期間」が過ぎたあとだ。ただし3日間仕事を休んでも、連続していなければ傷病手当金は支給されない。

傷病手当金の待機期間の数え方具体例


なお傷病手当金を受給できるのは、健康保険の加入者(被保険者)本人のみである。扶養に入れている家族は、病気やけがで働けない状態となっても傷病手当金を受給できない。また業務中や通勤途中で負った病気・けがは、傷病手当金ではなく労災保険の給付対象となる。

自営業やフリーランスなど国民健康保険、後期高齢者医療制度の加入者は、これまで傷病手当金を受給できなかった。ただし勤務先から給与を得ている加入者は、新型コロナウイルス感染症やその疑いがある発熱などで仕事が就けなくなり、給与の一部または全部が受け取れなくなった場合は、所定の要件を満たすと傷病手当金を受給できる場合がある。

傷病手当金の支給期間

傷病手当金の支給期間は、最長で1年6カ月だ。1年6カ月を超えると、仕事に就けない状態が続いていても傷病手当金の支給はストップする。

また1年6カ月の支給期間には、職場復帰をした期間も含まれる。たとえば傷病手当金を受け取り始めてから1年後に、2カ月だけ復職したとしても、支給開始から1年6カ月が経過すると支給停止となる。

退職後も傷病手当金の継続給付が受けられる

病気やけがによる休業が長期にわたる場合、勤務先を退職する人もいるだろう。傷病手当金を受給できるのは基本的に在職中のみだが、退職をして健康保険の加入資格を失ったあとでも、以下の要件を満たすと傷病手当金を受給できる場合がある。

  • 資格喪失日の前日まで健康保険の被保険者の期間が継続して1年以上である
  • 資格喪失日の前日に傷病手当金を受給している、あるいは受給要件を満たしている

なお、加入する健康保険が組合健保の場合、付加給付として独自に支給期間を延長している場合がある。たとえばNTT健保組合では、法定給付満了後もさらに1年6カ月間同額が支給される。

傷病手当金の支給期間具体例


傷病手当金の支給額

傷病手当金の支給額は、正確にいうと休業1日あたり「月給(標準報酬月額)÷30日×2/3」である。標準報酬月額とは、簡単にいえば平均給与だ。標準報酬月額は、傷病手当金の支給額だけでなく「健康保険」や「厚生年金保険」などの保険料計算にも用いられる。 

傷病手当金の受給額は、過去12カ月の標準報酬月額の平均で計算をする。たとえば年収が500万円、過去12カ月の月収がすべての月で35万円、賞与が年2回で計80万円あった場合、協会けんぽが作成した標準報酬月額表によると標準報酬月額の平均は25等級の36万円となる。よって傷病手当金の受給額は、1日あたり「36万円÷30日×2/3=8000円」だ。賞与は支給額の計算に含めず、休業中に賞与が支払われた場合も支給額は減額されない。

仮に待期期間がすぎたあとの休業日数が180日(6カ月)であった場合、傷病手当金の支給額は、合計で「8000円×180日=144万円(月額22万円)」となる。なお休業日数には、土日祝日も含まれる。

被保険者期間が12カ月に満たない場合は、以下のいずれか低い額になる。

  ・支給開始日を含む月より以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
 ・30万円(協会けんぽの場合)

なお、加入する健康保険が組合健保の場合、付加給付として独自に支給金額を上乗せしている場合がある。たとえば富士通健保組合では、標準報酬月額の8割が受給できる。


傷病手当金の申請方法

傷病手当金の申し込み書

傷病手当金は、加入している健康保険を運営する「保険者」に申請する。健康保険の保険者には、全国健康保険協会(協会けんぽ)や、民間企業が加入する健康保険組合(組合健保)などがある。

傷病手当金を申請するときは「傷病手当金支給申請書」を記入し、マイナンバーカードをはじめとした本人確認書類を添付して提出する。申請書は、勤務先を経由して提出するのが一般的であるが、休職した本人が直接提出することもできる。

傷病手当金支給申請書は、被保険者本人が記入する箇所だけでなく、事業主(勤務先)や療養担当者(医師)に記載してもらう箇所もある。事業主には勤務状況や賃金支給状況などを、療養担当者には傷病名や発症の年月日、労務不能であると認めた期間などを記入してもらう必要がある。


傷病手当金は事後申請  受給できるまで時間がかかる

傷病手当金の支給が承認されると、申請書を提出してから1カ月ほどで指定の口座の傷病手当金が振り込まれる。ただし組合健保によっては、申請から手当金が振り込まれるまで2〜3カ月ほどかかることがある。

傷病手当金の申請書には、勤務状況や労務不能と認めた期間などを記載する箇所があるため、基本的に事後申請となる。あらかじめ向こう2カ月間は休業すると予測できても、申請できるのは実際に休業した後だ。

傷病手当金を受給するまでの間、自分自身の貯蓄から生活費を補填することになるため、貯蓄が少ない場合は、できれば毎月申請するのがおすすめだ。毎月申請することで、傷病手当金を給与のように受け取ることができる。

傷病手当金は、数カ月や1年分をまとめて申請できるが、仕事を休んだ日の翌日から2年で時効を迎えてしまうため、早めに申請しよう。

傷病手当金を受ける際の注意点

病気やけがで仕事を休んでも、以下に当てはまる場合は傷病手当金の支給額が調整される。場合によっては、傷病手当金がまったく支給されない可能性がある。

  • 勤務先から給与を受け取っている
  • 所定の障害状態であり「障害厚生年金」や「障害手当金」を受け取っている
  • 出産のために仕事を休んでおり「出産手当金」を受け取っている
  • 別の原因ですでに労災保険の「休業補償給付」を受け取っている

会社を辞めて失業しているときに、病気やけがで働けない状態となった場合は、傷病手当金を申請できない代わりに雇用保険の「傷病手当」を申請できる。傷病手当は、ハローワークで申請する。

また、健康保険の保険料は、通常は労働者と事業者の双方で負担しているが、休業期間中は労働者の全額負担となるため、生活費の管理には注意を払おう。もし事業者が休業中も保険料を負担する場合は、その金額は給与とみなされ、傷病手当金の支払い額が調整される。

傷病手当金とは まとめ

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