日本は、国民全員が公的医療保険に加入しており、世界最高水準の医療を安価で受けられ、社会保障が充実していると言える。

民間の保険会社で、医療保険やがん保険などに加入する場合、公的医療保険の給付を理解したうえで契約内容を選ばなければ、保障に過不足が生じる恐れがある。場合によっては、余分な保険料負担が家計を圧迫しかねない。

職業や年齢などによって加入している公的医療保険や、給付内容が異なる。本記事では、医療保険制度の仕組みや保障内容、保険料負担などをわかりやすく解説する。

社会保険5種のうち医療保険について解説


医療保険制度とは

日本は「国民皆保険」を導入している。国民皆保険とは、相互扶助の精神にもとづいて国民一人ひとりが保険料を出し合い、病気やけがになった人の医療費を支え合う仕組みのことだ。

国民皆保険により、日本に住んでいる人は公的医療保険への加入が義務付けられている。公的医療保険には、自営業やフリーランスが加入する「国民健康保険」や、会社員や所定の要件を満たすパート・アルバイトなどが加入する「健康保険」などがある。

公的医療保険に加入する人は、受診する医療機関を自由に選ぶことができ、低い自己負担で高度な医療を受けられる。たとえば病気を治療するために病院を受診した場合、「療養の給付」が適用されて窓口で支払う金額が実際にかかった医療費の3割となる。ただし年齢によって自己負担割合は、以下のとおり異なる。

医療費の自己負担割合

6歳まで(義務教育就学前)

2割

小学校〜69歳

3割

70〜74歳

2割(現役並み所得者は3割)

75歳以上

1割(現役並み所得者は3割)


では残り7〜9割の医療費は、誰が支払うのだろうか?それは、公的医療保険に加入している人が保険料を支払っている健康保険組合や市町村などの「保険者」である。

医療保険の仕組み

病院をはじめとした医療機関は、医療保険の加入者に医療行為を提供したあと、審査支払機関に医療費の残りの7〜9割を請求する。問題がなければ、保険者から審査支払機関を通じて医療費の7〜9割が医療機関に支払われる仕組みだ。

海外では、国民皆保険を導入していない国が多数ある。日本では数万円の自己負担で受けられる手術が、海外で受けると100万円以上の自己負担となることもあるのだ。

医療保険制度には、ほかにも医療費の自己負担金額が高額になった場合に負担を軽減する給付や、出産・死亡の場合に受けられる給付などがある。

なお差額ベッド代や入院時の食事代などは、療養の給付が適用されず全額自己負担である。
差額ベッド代とは、入院する人が希望して1〜4人部屋に入室した際にかかる費用である。

医療保険制度は3種類

医療保険制度は、大きく分けて以下の3種類があり、職業や年齢によって加入先が異なる。

  • 被用者保険(職域保険)
  • 地域保険
  • 後期高齢者医療制度

それぞれの特徴について解説する。

保険の種類

保険者

主な被保険者

健康保険(被用者保険)

1 .全国健康保険協会(協会けんぽ)
2. 健康保険組合(組合健保)

1. 中小企業の従業員とその家族

2. 大企業の従業員とその家族

国民健康保険(地域保険)

市区町村 or 国民健康保険組合

自営業者やその家族、フリーター

後期高齢者医療制度

後期高齢者医療広域連合

75歳以上

被用者保険(職域保険)

被用者保険とは、企業や個人事業主などに雇われる人を対象とした公的医療保険のことである。会社員が加入する「健康保険」や、公務員や教員などが加入する共済組合が行う「短期給付事業」、船員が加入する「船員保険」などがある。

また健康保険は「全国健康保険協会」や、民間企業が加入する「健康保険組合」などが運営している。全国健康保険協会が運営する健康保険を「協会けんぽ」、健康保険組合が運営する健康保険を「組合健保」という。

被用者保険の保険料は、一般的に加入者と事業主が折半して支払う。ただし事業主が半分以上の保険料を負担する場合もある。

被用者保険には扶養の仕組みがあるため、被保険者が養っている配偶者や子どもを被扶養者にすると被保険者とほぼ同様の給付が受けられる。また被扶養者の保険料を支払う必要はなく、被扶養者の有無によって保険料負担は変わらない。

退職や離職などで被用者保険を脱退した場合、所定の要件を満たすと最長2年にわたって「任意継続」できる場合がある。任意継続をすると、引き続き家族を扶養に入れることも可能だ。ただし保険料は、全額自己負担となる。

地域保険

地域保険は、自営業者や農林水産業者、無職の人など、被用者保険や後期高齢者医療制度に加入しないすべての人を対象にした国民健康保険のことである。国民健康保険は、自治体(都道府県および市町村)や、同種同業による組合員で構成された国民健康保険組合(国保組合)が運営している。

自治体が運営する国民健康保険の保険料は、前年度の所得に応じて決まる「所得割」や、加入する人の人数に応じて決まる「均等割」などの合計値で決まる。所得割を算出する際の料率や均等割の金額、保険料の上限額などは自治体によって異なる。国保組合で加入する国民健康保険の保険料は、組合が定める規定によって算出される。

なお国民健康保険は、自治体と国保組合のどちらで加入しても、配偶者や子どもを扶養に入れることができないため、加入する人数ぶん保険料が発生する。

退職や離職をした場合、被用者保険の脱退から原則として14日以内に国民健康保険へ切り替え手続きをする必要がある。ただし任意継続被保険者となる場合や、他の健康保険に加入する場合、家族の被扶養者となる場合は国民健康保険への切り替え手続きは不要だ。

後期高齢者医療制度

後期高齢者医療制度とは、75歳以上の人や一定の障害状態にある65歳以上の人が加入する公的医療保険だ。都道府県ごとに設定された「後期高齢者医療広域連合会」が運用している。

後期高齢者医療制度に加入する人は、医療費の自己負担が原則として1割となる。ただし現役並みの所得がある人は、3割負担だ。

後期高齢者医療制度の保険料は、加入する人の所得に応じて決まる。また保険料は、市区町村が徴収する。

医療保険の保険料

ここでは、以下のモデルケースで医療保険の保険料をシミュレーションする。

  • 年齢:32歳(男性)
  • 居住地・勤務地:東京都江戸川区
  • 家族構成:本人、配偶者(30歳)、子ども(1歳)の3人
  • 本人の年収:500万円(平均月収:35万円、賞与:年間80万円)

※年間を通じて月収や賞与に変動はないものとする
※賞与は年2回支給された金額の合計値とする

  • 協会けんぽに加入

協会けんぽの場合、標準報酬月額や標準賞与額に所定の保険料率をかけて計算した保険料を、加入者と事業主(勤務先)が折半して支払う。

標準報酬月額は、4〜6月の平均給与(報酬額)に応じた等級によって決まる。標準報酬月額を決める際の平均給与には、基本給だけでなく住宅手当や残業手当なども含まれる。標準賞与額とは、支給された賞与額から1000円未満の端数を切り捨てた金額だ。

協会けんぽの保険料率は、都道府県ごとに定められている。保険料率は協会けんぽのサイトで確認が可能だ。

まず、毎月の給与から差し引かれる健康保険料を計算する。モデルケースの男性の平均月収は35万円であるため標準報酬月額は25等級の36万円となる。 東京都の健康保険料率は、9.84%だ。よって健康保険料は、標準報酬月額36万円×保険料率9.84%=3万5424円(月額)となる。

算出された保険料を加入者と事業者が折半するため、モデルケースの男性が納める健康保険料は1万7712円(月額)である。

次に賞与から差し引かれる健康保険料を計算する。

賞与額は、年2回の80万円であるため、1回あたりの支給額は40万円だ。標準賞与額は、賞与額から1000円未満の端数を切り捨てた金額である40万円となる。よって賞与から差し引かれる健康保険料は、標準賞与額40万円×保険料率9.84%=3万9360円。加入者が自己負担する保険料は、3万9360円÷2=1万9680円だ。

モデルケースの場合、年間で自己負担する健康保険料は、1万7712円×12+1万9680円×2=25万1904円となる。

医療保険料はいくらか具体例で解説


主に大企業に勤めている人が加入する組合健保の場合、協会けんぽよりも保険料率が低い場合がある。たとえば、日本郵船健康保険組合の場合、保険料率は6.0%であり、被保険者(従業員)の負担率は1.5%だ。

医療保険制度の保障内容

ここでは公的医療保険の加入者や扶養に入る家族が受けられる給付のうち、上記で説明した療養の給付以外の代表的な以下4点について解説する。

  • 高額療養費制度
  • 出産育児一時金
  • 出産手当金
  • 傷病手当金

高額療養費制度

高額療養費制度とは、同じ月(1日〜月末)まで同じ医療機関で支払った自己負担額が、一定の限度額を超えた場合に、超過分を払い戻してもらえる制度だ。自己負担上限額は、公的医療保険制度に加入する人の年齢や所得水準などに応じて決まる。

○70歳未満

区分

所得区分

ひと月の上限額

年収約1160万円〜

25万2600円+(医療費-84万2000)×1%

年収約770万〜約1160万円

16万7400円+(医療費-55万8000)×1%

年収約370万〜約770万円

8万100円+(医療費-26万7000)×1%

〜年収約370万円

5万7600円

住民税非課税世帯

3万5400円

出所:厚生労働省
※実際の所得区分は、健康保険の加入者は標準報酬月額、国民健康保険の加入者は旧ただし書き所得(前年の所得から住民税の基礎控除43万円を引いた金額)で決まる

○70歳以上

区分

所得区分

ひと月の上限額

現役並み

1.年収約1160万円〜

2.年収約770万〜約1160万円

3.年収約370万円〜

1. 25万2600円+(医療費-84万2000)×1%

2. 16万7400円+(医療費-55万8000)×1%

3. 8万100円+(医療費-26万7000)×1%

一般

年収約156万〜約370万円

・5万7600円(外来+入院)

・1万8000円 (年144000円)(外来のみ)

Ⅱ住民税非課税世帯

-

・2万4600円(外来+入院)

・8000円(外来のみ)

Ⅰ住民税非課税世帯

年金収入80万円以下等

・1万5000円(外来+入院)

・8000円(外来のみ)

出所:厚生労働省
※実際の所得区分は、健康保険の加入者は標準報酬月額、国民健康保険の加入者は旧ただし書き所得(前年の所得から住民税の基礎控除43万円を引いた金額)で決まる

たとえば年収500万円である先ほどのモデルケースの男性(32歳)が病気で入院し、ひと月に100万円の医療費がかかったとしよう。療養の給付により医療費の自己負担は、3割である30万円となる。自己負担上限額は、8万100円+(100万円-2万6700円)×1%=8万7430円だ。よって30万円から8万7430円を引いた、21万2570円が高額療養費として払い戻される。

ひと月の医療費上限額を具体例で解説
高額療養費をあとから申請する場合、3割負担の金額を立て替えなければならない。そこで事前に申請して「限度額適用認定証」を交付してもらっていると、医療機関の窓口で支払う金額が自己負担限度額までとなる。

同一世帯で過去1年以内に、高額療養費制度を3回使用した場合、4回目以降には「多数回該当」が適用されて、ひと月あたりの自己負担上限額が引き下げられる。多数回該当が適用されたあとの自己負担上限額は、以下のとおりだ。

年収約1160万円〜

14万100円

年収約770万〜約1160万円

9万3000円

年収約370万〜約770万円

4万4400円

〜年収約370万円

4万4400円

住民税非課税世帯

・なし(70歳以上)

・2万7600円(70歳未満)

※70歳以上は「住民税非課税世帯」に多数回該当の適用なない
※実際の所得区分は、健康保険の加入者は標準報酬月額、国民健康保険の加入者は旧ただし書き所得(前年の所得から住民税の基礎控除43万円を引いた金額)で決まる

同じ世帯である複数の方が、同月内で病院やクリニックなどを受診したり、同じ方が複数の病院を受診したりすると、自己負担額を世帯で合算できる場合がある。世帯合算した自己負担額が上限額を超えている場合、超過した金額が高額療養費として払い戻される。

ただし高額療養費制度から払い戻される金額を計算する際、差額ベッド代や入院時の食事代など、3割負担の対象外である費用は除外される。

なお一部の健康保険組合は、独自の付加給付制度を実施しており、ひと月あたりの自己負担上限額がさらに引き下げられる場合がある。たとえば、関東ITソフトウェア 健康保険組合では、ひと月の自己負担上限額は2万円である。

出産育児一時金

出産育児一時金とは、妊娠4カ月(85日)以上で出産したとき、1児につき42万円が支給される制度だ。妊娠カ月以上であれば、出産だけでなく流産や死産も支給の対象となる。ただし産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産した場合、出産育児一時金の支給額は40万4000円となる。

自然分娩の場合、出産費用は療養給付や高額療養費の対象外となるため、全額自己負担しなければならない。そこで出産育児一時金が支給されることで、出産にともなう自己負担を軽減できる。

「直接支払制度」を利用すると、出産をした医療機関に出産育児一時金が直接支払われるため、高額な出産費用を立て替える必要がなくなる。もし出産費用が42万円未満であった場合は、協会けんぽや健康保険組合、市町村などに請求すると差額を払い戻してもらえる。

出産手当金

出産手当金は、産休中の給料を保障する制度だ。出産で会社を休んだことにより給料が支払われない場合に支給される。支給額は過去12カ月間の標準報酬月額の2/3である。支払期間は、出産日以前42日間(双子など多胎妊娠の場合は98日間)と出産日の翌日以降56日間で計98日間だ。出産予定日を過ぎて子どもが生まれてきた場合は、その日数が支給期間に加算される。

なお、出産手当金は健康保険の制度であるため、自営業者など国民健康保険の加入者は受給できない。


傷病手当金

傷病手当金とは、病気やけがなどが原因で4日以上連続して休んだ人が受けられる手当だ。受給できる金額は、標準報酬月額の最大2/3。受給期間は最長で1年6カ月だ。

傷病手当金は、病気やけがを療養するために働くことができない人を対象とした手当だ。そのため病院に入院している人だけでなく、自宅で療養している人も傷病手当金を受給できる場合がある。

ただし傷病手当金を受給するためには、連続した3日間会社を休んでいなければならない。また傷病手当金の支給開始日以降に出勤した日について、手当は支給されない。

なお傷病手当金を受給できるのは、健康保険に加入する会社員や公務員などである。自営業やフリーランスなど地域保険に加入する人は、原則として傷病手当金を受給できない。

公的医療保険まとめ

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