2009年に始まったビットコインも誕生から10年が過ぎ、日本国内でも多くの仮想通貨取引所が運営されている。海外から新たに参入する取引所もある中で、国内でも最近はNFTや新たな注文方式、海外でのステーブルコインの発行など各社ともに独自色を打ち出してきている。

金融システム開発を手がけるCAICAは2月、これまで持分法適用関連会社だったZaifホールディングスを子会社化することを発表した。総額37億700万円を投下し、CAICAによるZaif株の保有比率を40.72%とした。Zaifホールディングスは仮想通貨取引所ザイフ(Zaif)を運営している。今回の子会社化は「上場企業が仮想通貨取引所を保有する」という点が特徴だ。

現在は情報サービスが収益の柱となっているCAICAだが、今回の子会社化は仮想通貨のセグメントが成長すると見込んだものだ。現在の売り上げ比率は金融や仮想通貨関連は10%ほどだが、今後3カ年で仮想通貨関連の売り上げ比率を50%まで引き上げる計画を明らかにした。

「怪しさ」からの脱却に上場企業という資金力

仮想通貨は現在でも「怪しい」というイメージは付いて回る。過去にハッキングを受けたZaifはなおさらだ。CAICA社長の鈴木伸氏はコインテレグラフジャパンのインタビューで「上場企業の子会社の内部統制が適用されることと、上場企業の資金力」によってユーザーからの信頼を獲得し、怪しさからの脱却を図るとした。

上場企業の資金力を得たのは大きい。日々ハッキングのリスクにさらされる仮想通貨取引所にとって、顧客保護のためのコンプライアンスやセキュリティへの費用は莫大だからだ。

さらに上場企業であれば、すでに投資家を抱えている。これまで仮想通貨に触れていなかったユーザー層を取り込むことにもつながる。実際、CAICAには4万4000人以上の投資家がいる。

「『株式には投資していたけども、暗号資産の世界は何か怪しいし、信用できない』と思っていた投資家が流入することによって新しい顧客セグメントができる」

CAICAはこれまでに株主に独自仮想通貨CAICAコインを株主優待として付与している。そのため、鈴木氏は、株価が上がることでCAICAコインの価値も上がり、株主も潤うという好循環が生まれると期待する。仮想通貨に対する「怪しい」というハードルが下がることも見込む。

「これまで取引所は『セキュリティが万全です』と言葉でいうだけだった」という鈴木氏。上場企業が取引所を持つことで投資家を巻き込みながら、エコシステムを構築できることが新たな金融企業としての立ち位置になるという。

しかし、セキュリティが万全であるというだけで、他社ではなくZaifにユーザーが流れてくるのだろうか。

そこで重要になってくるのが「個性」だ。鈴木氏は「個性」を出すことが、生き残る取引所に必要なものだと考える。

Zaifはこれまでに「大根カレー」をプレゼントするというユニークな施策を打ってきたことでも知られる。また、日本にもファンの多い、NEMの取扱量が世界一であり、ZaifはCAICAが発行するCAICAコインやフィスコのFSCC、ネクスのネクスコインなど、ユニークな仮想通貨を取り扱っている。しかし、こうした個性が実際にどれだけ収益やユーザー獲得に結びつくのかは、まだ手探り状態だろう。

Zaifはこれまでに業務改善命令などのためにマーケティング施策を打てていなかったことが、大きな痛手となっている。しかし2020年8月にZaifは業務改善命令の報告義務が終了し、ユーザー増加のためにマーケティング施策を開始できるようになった。

現在はテレビCMやタレント起用などの「派手めのマーケティング」を他社が打っていることにも触れ、自社ではそのような対策が打てていないことで「コアなユーザー」との接点しかないことが課題だという。今後は新規の仮想通貨ユーザーを取り込むことに力を入れていくと話した。

NFTにも参入

そして今後の取り組みとしてNFTトークンを使った「新たな金融商品」にも取り組んでいくという。

鈴木社長は主に「アートや不動産」を取り扱うプラットフォームを計画している。まずはアートからはじめ「仮想通貨を決済で使えるようにしたい」と意気込む。決済手段についても日本円やビットコインCAICAコインなどの支払いに使う仮想通貨の種類によって値段を変えたり、特典を付与するなど様々なサービス手法を検討している。

まずはデジタルアートではなく、現物のアート作品の所有権を分割することを始めたいと話した。