オラクル問題を解決するChainlinkとは

Chainlink(チェインリンク)は、分散型のブロックチェーンオラクルネットワークである。ブロックチェーン上のスマートコントラクトとオフチェーンの外部システムとをつなぐ、ミドルウェア機能を持つプラットフォームだ。

チェインリンクは、ブロックチェーンのオラクル問題を解決する役割を担っている。ブロックチェーンにおけるオラクルとは、スマートコントラクトに外部データや情報を提供する第三者システムまたはサービスを指す。ITにおける一般的なオラクル社のリレーショナルデータベース製品のオラクルとは無関係である。

通常、ブロックチェーンおよびスマートコントラクトは、オフチェーンの情報、すなわちオラクルからの情報を参照することは難しい。たとえば、仮想通貨の市場価格を外部情報から参照したいスマートコントラクトがあった場合、その外部データの真正性をどう担保するかは極めて難しい問題なのだ。これをブロックチェーンのオラクル問題という。

チェインリンクは、ブロックチェーン技術に固有のセキュリティと信頼性を担保しつつ、現実世界のデータへのアクセスやオフチェーンでの計算を可能にすることで、スマートコントラクトの機能を大幅に拡張することができるブロックチェーンオラクルネットワークなのである。

Chainlinkがブロックチェーンと外部情報をつなぐ

Chainlinkはブロックチェーンの強固なセキュリティや信頼性を保ったまま、外部の情報をブロックチェーンに取り込むことができる。 出所:ChainLink HP


Chainlinkのネイティブトークン「LINK」

チェインリンクは、ネイティブトークン「LINK」を持つ。LINKは、イーサリアムの共通規格であるERC-20を拡張したERC-677に準拠して発行されたトークンだ。ERC-677は、ERC-20の規格を保持しながら、データペイロードとして機能する。

LINKはチェインリンクのノードの運営を維持するための報酬や、スマートコントラクトが参照する外部データを収集して提供するノードオペレーターへの支払い手段など、主にチェインリンクエコシステムの維持に使用される。

データペイロードとして機能するLINKは、オフチェーンソースから必要なデータをスマートコントラクトに供給する。スマートコントラクトはLINKから提供されたデータに応じて動作することが可能になる。

ERC-677トークンのもう一つの特徴は、ERC-20の規格を包括していることからイーサリアムのERC-20に対応したウォレットによって利用可能である点だ。なお、LINKは、メッセンジャーアプリのLINEグループが開発したLINE BlockchainのネイティブトークンLINK(LN)と同名だが、チェインリンクのLINKとLINEのLINKはまったく異なる仮想通貨であることに注意したい。

チェインリンクは、米国・サンフランシスコを拠点とするSmartContract社のセルゲイ・ナザロフ氏によって開発が進められたオープンソースソフトウェアである。2017年9月4日にホワイトペーパーが発行され、ICOによる資金調達が行われた。

2017年9月19日、SmartContract社はハードキャップ(上限調達額)3200万ドル相当のLINKトークンでICOを実施した。ICOではイーサリアムが使用され、1ETH=2600LINKのレートで、1ETHから参加することが可能となっていた。

LINKの総供給量は10億LINKとなっており、ICO参加者に総供給量の35%を付与している。さらに35%は、エコシステム維持のためにノード向けの報酬として提供され、残りの30%は開発とスタッフへの支払いのために使用される。


​​Chainlinkの仕組み

Chainlink(チェインリンク)の主要目的は、オンチェーンとオフチェーンという2つの異なる環境の橋渡しをすることにある。チェインリンクは、オラクルからのデータとそれに続くスマートコントラクトの出力データを認証する分散型ソリューションを提供する。

開発当初は、イーサリアム上のスマートコントラクトをターゲットとしていたが、チェインリンクのオラクルネットワークは、主要スマートコントラクトネットワークを対象に、オフチェーンとクロスチェーンの相互作用を支援することを目的として拡大している。

チェインリンクが登場する以前のスマートコントラクトは、ブロックチェーン上のセキュリティで保護されていた。ブロックチェーンベースの取引データに基づいてマイナーがコンセンサスを得る方法を採用しているため、スマートコントラクトはデータフィードやAPIなどの外部リソースと接続ができない仕組みになっている。

ブロックチェーンはネットワーク外のデータに直接アクセスできないため、オラクルが必要になる。しかし、オラクルはブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムの一部ではなく、オラクルの多くは中央管理された第三者サービスであるため、オラクルから受け取ったデータが信頼できるかどうかといった、いわゆるオラクル問題が生じるのだ。

オラクルコントラクトで外部情報を取得する


出所:ChainLink HP

スマートコントラクトは一定の条件に基づいて自動実行されるため、オラクルが正確で信頼できる情報を提供していることが必須となる。例をあげるならば、外部の資産データを参照するスマートコントラクトがあった場合、スマートコントラクトはオラクルのデータが信頼できなければ、正しく機能しない可能性がある。

これまでのオラクルには、データを検証するために公証に頼っているものもあれば、非構造化データを人間が手入力することに頼っているものもあった。しかし、前者は検証の必要性があり、後者はコストやリソースがかかるため、リアルタイムのデータを提供することが難しい。

チェインリンクでは、データフィードやその他のAPIを持っている人は、チェインリンクのLINKトークンと引き換えに、それらをスマートコントラクトに直接提供することができる。この提供者をチェインリンクではノードオペレーターと呼んでいる。


ノードオペレーターとしてデータを提供するデータプロバイダやサービスプロバイダは、APIベースのサービスをスマートコントラクトに直接販売し、​LINKトークンを報酬として受け取る​仕組みになっている。


Chainlinkのネットワーク構成

Chainlinkのネットワーク解説

出所:ChainLinkブログ

Chainlink(チェインリンク)ネットワークは、チェインリンクノードによって構成される分散型ネットワークである。チェインリンクノードは、中央集権的なオラクルのフィードが単一障害点であるという問題を特定し、特定のデータフィード、API、さまざまなオフチェーンの決済機能の利用をスマートコントラクトに直接販売する仕組みを持っている。

チェインリンクネットワークは、オンチェーンおよびオフチェーンの独立した要素で構成されており、サービスを提供するために相互に作用している。ネットワークはアップグレードが可能なように構築され、より優れた技術やテクノロジーが誕生すれば、それらをコンポーネントとして交換することができるよう設計されている。

オンチェーンコンポーネント

ネットワークのオンチェーンコンポーネントは、「レピュテーションコントラクト」「オーダーマッチングコントラクト」「アグリゲーションコントラクト」の3つの要素で構成されている。

これら3つのコンポーネントにより、複数のソースから提供されたオラクルデータを集約することで、提供されたデータをより正確に把握することが可能だ。また、単一オラクルへの依存度を低減することもできる。さらに、報酬駆動型のレピュテーションシステムを通じて、オラクルの精度を管理するためのレピュテーションコントラクトにフィードバックしている。

具体的には、これらのメトリクスを用いて、チェインリンクはオラクルに対して情報をリクエストする。リクエスト後、オラクルのレスポンス(外部データ)を収集し、スマートコントラクトにて実行可能な結果として情報を提供する。

オフチェーンコンポーネント

ネットワークのオフチェーンコンポーネントは、イーサリアムネットワークに接続されたチェインリンクノードで構成されている。チェインリンクノードは、オラクルに対するリクエストを独自に収集するオラクルノードとして機能する。

イーサリアムネットワークに接続された チェインリンクノードがオラクルに対するリクエストを独自に収集するオラクルノードとして機能する
出所:ChainLink White Paper

たとえば、ニューヨーク証券取引所が運営するオラクルノードは、リアルタイムで正確な取引情報をチェインリンクネットワークに提供する。チェインリンクノードには、こうしたオフチェーンのオラクルノードが多数存在するのだ。

チェインリンクは、さまざまな業界のオラクルノードをネットワーク内にて一要素とすることでネットワークを構成している。チェインリンクは、オラクルノードから受け取った結果が正確であることを保証するとともに、オラクルノードが提供するデータに関連して独立性を保つことを可能にする。

データ、決済などのAPIを提供可能な企業や個人の開発者は、従来のAPIをチェインリンクネットワークに接続することで、簡単にオラクルネットワークに参加することが可能だ。APIがチェインリンクに接続されると、ユーザーはオラクルノードオペレーターとなり、そのAPIがチェインリンクネットワークに接続された状態を維持する責任を負うことになる。

API情報を提供するオラクルノードオペレーターは、オンチェーンリクエストを成功させるとLINKトークンを報酬として受け取ることができる。チェインリンクは、正確な情報を供給するオラクルへの報酬にLINKを使用しているのだ。

また、スマートコントラクト開発者などのサービスプロバイダは、オラクルから外部データを参照する際の手数料としてLINKトークンをオラクルノードへと支払う必要がある。オラクルノードは自動で選択したり自ら選択することもできる。

Chainlinkの不正対策

Chainlink(チェインリンク)には、レピュテーションコントラクトによって、正しい情報を提供したオラクルノードの評価スコアを上げていく評価システムが導入されている。評価は、ノード稼働時間や応答までの平均時間、完了ジョブの成功率などが対象だ。

オラクルノードは、評価スコアが高いほどスマートコントラクト開発者から選択されやすくなり、より多くのLINKを報酬として得ることができる設計となっている。

また、スマートコントラクト開発者は、オラクルノードに対して情報提供の条件として、正確性を担保するために任意のLINKを保証金としてデポジットすることを要求する。オラクルノードは、LINKトークンをデポジットしなければ情報提供することができない仕組みだ。

この保証金は、オラクルノードが不正行為や誤ったデータを提供した際、あるいはタスクが完了する前にオフラインになった場合などに、ペナルティとして没収されるようになっている。

こうした機能によってチェインリンクは、オラクルノードが提供する外部データの真正性を担保し不正を防止しているのだ。


Chainlinkのユースケース

Chainlink(チェインリンク)は、ビットコインやイーサリアム、ハイパーレッジャーに対応した完全に分散化されたオラクルのネットワークを提供している。

さまざまな外部データを参照できるようになったチェインリンクは、Webアプリケーションをはじめ、銀行決済やクレジットカード情報との連携も可能になる。それにより、金融・証券・保険・貿易などあらゆる分野のデータをスマートコントラクトに接続可能になる。

実際に、チェインリンクは2020年11月に77のユースケースをブログで詳細に説明した。その分野は、DeFi(分散型金融)、外部での決済、NFTゲーム、保険、サプライチェーン、公益事業、政府機関など、あらゆるジャンルに及ぶとされている。

たとえば、構築済みの「分散型価格フィード」は、非常に多くの仮想通貨取引所がオラクルノードとして参加し、主要仮想通貨の各種通貨ペアの市場価格データを提供している。それにより、分散型価格フィードはあらゆるDeFiアプリケーションに迅速に統合することができ、リアルタイムで仮想通貨の市場価格の変動に対応したアプリを構築できるようになった。

分散型価格フィードは、非常に多くの仮想通貨取引所がオラクルノードとして参加している

出所: ChainLink 価格データフィード

チェインリンクのオラクルは、金融関連データとりわけ為替レートや金利、資産価格、指数などの市場データに基づいて実行されるスマートコントラクトを構築する上で、今後はさらに重要な役割を果たしていくだろう。

具体例としては、レンディングプラットフォームの最大手プロジェクトAave(アーベ)では、チェインリンクの分散型価格フィードを使用して、プラットフォーム上でサポートされている約20種類の仮想通貨の市場データを取得するオンチェーンマネーマーケットプロトコルを実現している。

リアルタイムの価格データを参照し、Aaveプロトコルは各ユーザーの担保や負債の評価を計算することで、いつ清算を開始すべきかを判断することが可能だ。これによりAaveプロトコルは常に十分に担保されており、ユーザーの預金価値を保護している。


資産管理の自動化

スマートコントラクトは、取引戦略をあらかじめ設定することで資産管理を自動化することができる。しかし、取引が一貫して収益性の高いものであるためには、オラクルからの信頼性の高いリアルタイムデータが必要だ。

その一例に、イーサリアム開発者向けのトランザクション自動化プロトコルであるGelato(ジェラート)がある。ジェラートは、チェインリンクによるイーサリアムのGAS(取引手数料)価格オラクルを使用し、変動するGAS価格にリアルタイムでアクセス可能だ。それにより、ユーザーは特定の取引のGAS価格の条件を指定したり、GAS価格が急騰した場合に自動取引戦略の実行を停止することができる。

外部データをChainlinkネットワークに接続してオンチェーン価格フィードとして各DeFiプロトコルに持ち込んでいる

外部データをChainlinkネットワークに接続してオンチェーン価格フィードとして各DeFiプロトコルに持ち込んでいる。出所:ChainLinkブログ


サーキットブレーカー

伝統的な株式市場では、株価が歴史的な暴落を記録することで一時的に売買を自動停止する「サーキットブレーカー」機能が備わっている。しかし、仮想通貨市場にはボラティリティが高いにも関わらず、多くの場合サーキットブレーカーに類する機能が存在していない。

仮想通貨先物取引プラットフォームのDigitex Futuresは、内部の価格フィードとチェインリンクの分散型価格フィードとの乖離を監視しており、サーキットブレーカーを発動させることでユーザーを保護している。

チェインリンクのオラクルによってサーキットブレーカー機能を実装することができ、Digitex Futuresは取引や清算を一時的に停止させることが可能になったのだ。この仕組みは、将来的に多くのDEXやその他DeFiプロトコルにも採用されるだろう。


ゲームとランダム性

チェインリンクが提供するChainlink VRFは、検証可能なランダム関数(VRF)を利用することで、公正で安全な乱数発生器(RNG)に接続することができる。それにより、ブロックチェーンゲームやレイヤー2プロトコル、およびその他のさまざまなユースケースに焦点を当てたスマートコントラクトの開発を可能する。

Chainlink VRFは、安全で公正な乱数生成の仕組みであり、ランダム性が改ざんされていないことをユーザーに証明することができる。公正なランダム性は、アイテムの希少性に信頼性をもたらし、仮想メタバースのように、トークン化されたアイテム(NFT)の希少性を担保し、異なるゲーム間での使用を実現することができるのだ。

たとえば、既存ゲームのガチャシステムなどで問題になっているアイテム出現の確率は、Chainlink VRFによって公正かつ透明なランダム性が担保される。つまり、運営による不正操作などが不可能になるのだ。今後は、カジノゲームや宝くじのような公平性が必須のものも、スマートコントラクトによって実現可能になるだろう。


Chainlinkの今後

2021年4月、Chainlink(チェインリンク)はオフチェーン計算やステーキング、プライバシー保護機能など、チェインリンクネットワークの新機能を記載したホワイトペーパー「Chainlink 2.0: Next Steps in the Evolution of Decentralized Oracle Networks」をリリースした。

チェインリンクは、分散型オラクルネットワークを構築するためのフレームワークとして、実世界のデータやイベントに接続するために必要なツールを開発者に向けて引き続き提供していくという。また、前述のユースケースはオフィシャルブログに紹介されている例のほんの一部に過ぎない。

オフィシャルブログのその他のユースケースを見れば、チェインリンクの可能性が計り知れないことが理解できるだろう。スマートコントラクトと現実の外部データとのつなぎ込みは、オラクル問題を解決したことで、無限の可能性が広がるのではないだろうか。

ブロックチェーンおよび仮想通貨の成功は、オラクル問題の解決、すなわちチェインリンクの台頭にかかっているといっても過言ではない。

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