DeFiレンディングプラットフォーム「Aave」とは

Aave(アーベ)は、分散型金融(DeFi)に分類されるレンディングプラットフォームの最大手プロジェクトだ。Aaveを利用することで、普段あまり使用していない仮想通貨を貸し出すことにより利子を稼げる。

また、たとえば、ステーブルコインのDAIを担保に預けることでETHの借り入れができる。これにより、取引所で購入することなく自身の保有する仮想通貨とは異なるものを入手可能だ。

Aaveは2017年にETHLendという名称でスタートし、ICOで1620万ドルを調達していた。2018年にAaveとしてリブランディングを行い、2020年1月にイーサリアムのメインネットにローンチしている。現時点(2021年5月)でバージョン2が公開されており、Aaveにロックされている総資産額は11億ドルを超える規模にまで拡大した。

Aaveのレンディングアルゴリズムは、貸し手と借り手を直接マッチングさせるのではなく、資産を貯めておく「プール」を仲介させる仕組みとなっている。これは、前身のETHLendで貸し手と借り手を直接マッチングさせていた結果、需要と供給のバランスを維持することができなかったことに起因する。

プールを仲介させることで、需要と供給のバランスが崩れている場合でもマッチングを成立させることができ、プラットフォームを持続可能なものにしている。

Aaveはプールを介して貸し借りする仕組みを採用。需給のバランスが崩れている時でも対応できる。ユーザーはAaveのプールを仲介して貸し借りを行う 出所:Aaveの開発者ポータル 

Aaveの仕組み 2種類の仮想通貨「AAVE」「aToken」とは

Aaveで仮想通貨を貸し借りする際の利率は、プール内の資産がどれだけ使用されているかによって変動する。

たとえば、プール内の資産が多く使用されている場合、貸し借りの金利は高く設定される。反対にプール内の資産があまり使用されていない場合、貸し借りの金利は低く設定される。

Aaveでは、プールに対して仮想通貨を貸し出すと、貸し出した資産と同額分の「aToken」が付与される。aTokenは、イーサリアムの共通規格ERC-20によって発行される独自の仮想通貨だ。ステーブルコインのダイ(DAI)を貸し出せばaDAI、テザー(USDT)を貸し出せばaUSDTを受け取れる。付与されたaTokenを保有するウォレットには、利子がリアルタイムで付与されていく。

付与されたaTokenは、貸し出した仮想通貨と同額分で交換できる。そのため、結果的にAaveに資産を貸し出すことで付与されたaTokenの利子分を、収益として稼ぐことができるのである。

aTokenとは別に、Aaveには「AAVE」という独自の仮想通貨も存在する。AAVEを担保にAaveで仮想通貨を借り入れる場合、通常よりも手数料が割引される。

AAVEは手数料の割引以外にも、ガバナンストークンとしての役割を持つ。AAVEをガバナンストークンとして発行することで、通貨の保有者による分散型の運営体制を実現している。

具体的には、MakerDAOにおけるMKRやCompoundにおけるCOMPと同様、AAVEを使ってAaveにおけるプロジェクトの意思決定に対して投票できる仕組みだ。

AAVEは、前身のETHLendの際に発行されていた独自の仮想通貨「LEND」を同じくリブランディングすることで誕生した。LENDの保有者は、100LEND:1AAVEの割合で交換することができるようになっている。


無担保で借り入れができる「フラッシュローン」

Aaveにはいくつかのユニークな機能が実装されている。最も特徴的なのはフラッシュローンだろう。

フラッシュローンとは、借り入れと返済が1つの同じトランザクション内で行われる場合に限り、担保資産を必要とせずに借り入れができる仕組みだ。つまり、無担保ローンが可能となる機能である。

Aaveでは、基本的に借り手の需要よりも多くの資産がプールに存在している状態を維持できるよう設計されている。超過供給の状態を維持することにより、フラッシュローンの仕組みを実現できるのだ。

フラッシュローンの用途としては、裁定取引(アービトラージ)を実行する場合などがあげられる。フラッシュローンを活用することで、手元に資産がない場合でも裁定取引を行うことが可能だ。

フラッシュローンは、ブロックチェーンの特性をうまく活用した仕組みと言える。Aaveはイーサリアム上で開発されているが、そのイーサリアムは約13秒に1度ブロックが生成され、トランザクションが承認される仕組みだ。

つまり、フラッシュローンはこの13秒の間に行われるものであり、スマートコントラクトによる自動実行の仕組みならではのものだと言えるだろう。

また、仮に1つのトランザクション内で借り入れた資産が返済されなかった場合、そのトランザクション自体を無効にする仕組みも実装されている。これもスマートコントラクトだからこそ実現できる仕組みであり、これによりAaveはリスクを負うことなくフラッシュローンを提供し手数料を徴収することができるのだ。

フラッシュローンの使用例
フラッシュローン使用例。この一連の取引を1ブロックが生成される13秒以内で行う。出所:Aave HP


Aaveを使った稼ぎ方

AaveのようなDeFiレンディングプラットフォームを使用するメリットの1つは、従来の一般的な金融サービスと比べて非常に高い金利を得られる点にある。

記事執筆時点でステーブルコインをAaveに貸し出す場合、DAIで11.84%、USDコインで7.15%、テザーで3.28%の年利となっている。これは、銀行口座の普通預金とは比べ物にならない高利率だと言えるだろう。

AaveなどDeFiのレンディングでは高い金利が得られる出所:Aaveマーケット

Aaveを使って利子を稼ぐには、Aaveマーケットに対してMetaMaskなどのウォレットを用意する必要がある。Aaveに対してウォレットを接続すると、ウォレットで管理している資産が自動的に検出されるため、Aaveに入金する仮想通貨を選択することで主に次の3つのことができるようになる。

  1. プールに資産を貸し出して利子を稼ぐ
  2. プールから資産を借り入れた後、借り入れた資産を使って外部でレバレッジ取引などを行う
  3. AaveSwapを使用してAave内で仮想通貨をトレードする

Aaveでは、通常のレンディング機能に0.25%の手数料が設定されており、フラッシュローンには0.09%の手数料が設定されている。徴収された手数料は、ガバナンストークンAAVEのバーン(焼却)や貸し手への利子、アフィリエイトへの報酬などに使用される。


AaveとCompoundの違い

DeFiレンディングプラットフォームには、Aaveの他にCompound(コンパウンド)が人気を集めている。Compoundでは、AaveのaTokenと同様に資産の貸し手に対してcTokenが付与され、利率に応じて利子を獲得することが可能だ。

Compoundは、現時点でイーサリアム(ETH)やダイ(DAI)、USDコイン(USDC)、ベーシック・アテンション・トークン(BAT)、ユニスワップ(UNI)といったものを中心に9つの仮想通貨に対応している。

これに対してAaveは、上記の仮想通貨以外にテザー(USDT)やカイバーネットワーク(KNC)、チェーンリンク(LINK)、バイナンスUSD(BUSD)といった計25の仮想通貨に対応済みだ。より多くの仮想通貨に対応することで、流通額を拡大させることに繋がっている。

CompoundとAaveの違いとしては、金利の種類が異なる点があげられる。Compoundをはじめとする多くのDeFiレンディングプラットフォームでは、アルゴリズムによる変動金利のみを提供するのが一般的だ。

これは、需要と供給のバランスを維持するために金利を使用しているため、変動する需給に応じた金利が必要となることに起因する。

これに対してAaveは、変動金利に加えて固定金利でも利率を設定することが可能だ。固定金利の場合、変動金利と比べて借り入れ時の金利が高くなるものの、ユーザーは変動金利と固定金利を自由に切り替えることができるようになっている。

これにより、たとえば需要が高い時は変動金利を使用する一方で需要が低い時は固定金利を使用するなどして、利回りを最大化することができるのである。

なお、CompoundでもAaveにおけるガバナンストークンAAVEと同様のCOMPが存在している。このあたりの仕組みは両者に類似する点が多いと言えるだろう。

Aaveの特徴まとめ

Aaveはレンディング以外にもエコシステムを拡大中

DeFi市場を牽引するAaveは、レンディング以外にも順調にエコシステムを拡大している。Aavegotchiという収集ゲームでは、aTokenを担保にゲーム内で使用可能なNFTが発行される。

Aavegotchiのトップページ出所:Aavegotchi

預け入れた資産の対価としてAaveから発行されるaTokenを担保にNFTが発行されるため、そのNFTには最低でも預け入れた資産と同額分の価値が生じることになる。レンディング以外にもAaveのエコシステムが拡大している良い例だと言えるだろう。

Aaveの課題は過剰担保の解消

Aaveは、エコシステムの拡大に伴い基盤システムのアップデートも随時行ってきた。Aaveはイーサリアム上に開発されたDeFiプラットフォームだが、イーサリアムの抱えるスケーラビリティ問題の影響から、ガス代の高騰などに悩まされている。

Aaveでトランザクションを実行するたびにイーサリアムの高いガス代が発生するため、少額でAaveを使用することが難しい状況となっていた。たとえば、Aaveで500円分の資産をプールから借り入れる際に、1000円分のガス代が発生するといった具合だ。

この問題に対して、AaveはMatic Networkが提供するPolygonに対応することで問題の解消に取り組んでいる。Polygonは、イーサリアムのセカンドレイヤーソリューションの1つであり、安価なガス代で高い処理性能を実現する仕組みだ。

通常のマーケットとは異なり、Polygonに対応したマーケットでも順調にプールを拡大しつつある。現時点では、マティック(MATIC)やダイ(DAI)、ラップドETH(WETH)といった計7つの仮想通貨をサポート済みだ。

レンディング領域に限らずDeFi市場全体を牽引するAaveだが、大きな課題も残されている。Aaveが直面する大きな課題の1つは、プールから資金を借り入れる際に過剰な担保が必要になる点だ。

AaveのようなDeFiレンディングプラットフォームの場合、従来の金融サービスとは異なり借り手の信用を評価する仕組みが存在しない。これは、DeFiには特定の管理者が存在しないことによるものである。

従来の金融サービスでは、事業者が利用者の学歴や職歴、決済履歴などを参照することで信用度を評価していた。DeFiには信用度を評価するシステムが存在しないため、貸し倒れなどのリスクに備えて過剰担保を設定しなければならないのだ。

これは、DeFiの資本効率が従来の金融サービスと比べて明らかに低いことを意味している。資本効率の低い経済圏は、資本効率の高い経済圏と比べて成長スピードが遅くなるため、AaveだけでなくDeFi全体にとっても課題であると言えるだろう。

また、多くの担保が必要になるということは利用者を制限してしまうことにもつながる。DeFiの本質は、管理者を排除することで利用者を制限しない金融包摂の実現にある。しかしながら、現状は元手に限りがある低所得層には適した状態にはなっていないのだ。

今後は、Aaveだけでなく全てのDeFiレンディングプラットフォームにおいて、過剰担保の状態を解消する仕組みの開発が必要になってくるだろう。

【関連記事】
既存金融システムを刷新する『分散型金融(DeFi)』とは
DeFiプラットフォームのAvalanche(アバランチ)とは 仕組みやユースケースについて詳しく解説
高スケーリング性能のブロックチェーンSolana(ソラナ)を解説