前回の記事ではトシムリン氏は10月中旬から11月にかけて目立った反発が起こる可能性があると予測し、その通りになった。その彼が新しい記事を寄稿した。
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前回投稿したコインテレグラフの記事では「ビットコインは10月中旬から11月にかけて目立った反発が起こる可能性がある」と記載したが、予測通り10月16日に大きく反発する展開となった。(図1参照)
(図1 10月の中旬にETF承認期待で上昇したビットコイン)
この上昇のキッカケとなったのはSECがグレースケールの主力投資信託GBTCを現物のビットコインETFに転換することをめぐる裁判の判決について上訴しなかったことだ。
同裁判においてはワシントンの連邦高裁は8月、SECがグレースケールの現物ビットコインETFの申請を却下したのは不当であるとの判決を下し、10月13日までに控訴の申請が可能だった。
これに合わせてブラックロック申請の「iShares BITCOIN SPOT ETF」承認のフェイクニュースが出たことが大きな上昇につながった。
しかし、ブラックロック関係者は「未だ審査中」と述べたことで、上昇は一時期にとどまった。
SECがグレースケールを上訴しなかったことで、市場ではETF承認への期待が一気に高まっている。
もちろん、その可能性も否定できない。特にブラックロックは政治家に影響力を持つ組織であるため、政治的圧力によりSECが承認せざるをえない状況に追い込まれていることは確かだ。
しかし、今回のフェイクニュースによりビットコインが上昇してしまったことはSECが承認を拒否している理由である「市場操作から投資家を保護できない」ということを裏付けることにつながってしまった可能性はある。今回の騒動で8100万ドル相当のショートポジションが、価格調整中に3100万ドル相当のロングポジションが清算された。
また、足元ではパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスがイスラエルに対し、前例のない大規模攻撃を行っており、暗号通貨が彼らの武器調達などの資金源となっていたことが明らかとなっている。
バイナンスの協力の下、イスラエル警察がそれらの口座を特定し、凍結済みであると発表されている。
資金のほとんどはTron上のUSDTで保管されていたようだ。
ハマスは今回凍結された以外にも口座も複数もっており、その中にはUSDT以外の暗号資産も保有しているだろう。その中にビットコインも含まれているに違いない。
とにかく、戦争で暗号資産が利用されていることは決して前向きな材料とは言えないだろう。
SECとしても今、ETFを承認してしまうと、暗号通貨の価格を押し上げ、テロ組織や権威主義国家などの戦費を増やしてしまうことにつながりかねないという懸念もあるはずだ。
従って、このようなことを背景にSECは「まだ暗号資産は十分な規制が整っていない」といったような切り口で承認を先延ばしにするのではないだろうか。
足元ではやや落ち着きを見せているものの、米10年債金利は4.7%台まで上昇しており、実質金利も2.3-2.4%台で推移している。(図2参照)
(図2 米実質金利とビットコイン)
こうなると、仮にビットコインETFが承認されたとしても金利や配当もつかないビットコインの価値は相対的に下がりやすくなる。
なぜならば、9月に発表されたFOMCの経済見通しを元にアメリカの名目経済成長率を算出すると約3.8%となっているからだ。
これに対して10年債金利は4.9%台となって名目経済成長率を上回っていることから伝統的な投資家はFRBの経済成長見通しにベットして米株やビットコインなどのリスクアセットに投資をするよりも債権やMMFに投資をした方が安全だと考える傾向があるからだ。
但し、ここ直近ではFEDの高官たちも現在の金利上昇自体が引き締め効果に繋がる可能性があると述べており、タカ派姿勢を緩めているため年内は現在の政策金利を維持する可能性はある。
そうなれば金利上昇は一旦落ち着き、ビットコインの上値も多少は軽くなるだろう。
実際、実質金利との乖離率は上ザヤ度合いが縮小している。(図3参照)
(図3 米実質金利とビットコイン乖離率)
しかし、民主党と共和党のつなぎ役ともいえる共和党のマッカーシー下院議長が解任されたことにより、次なるつなぎ予算案の期限である11月17日までに歳出法案を可決することが難しくなる可能性が高まったと言える。
こうしたことは財政リスクプレミアムの拡大につながる。
また、米中露などを中心とした大国の対立による新冷戦構造の深化から米国債の大口購入者が相対的に減っている。
さらには中東情勢悪化により原油価格の高止まりも見込まれ、インフレが粘着性を見せる可能性もある。
金利上昇は時間の経過と共に経済に悪影響をもたらし、徐々に景気後退の予兆が見えてくるだろう。
そうなれば、長期金利は下げに転じるだろうが、他方で上述したことが背景となり下方硬直性を見せることになりそうだ。
こうしたことを鑑みれば、利上げ打ち止めにより金利が頭打ちとなり、ビットコインにも多少の資金は流れてくる可能性はあるが、当面の間は大きな資金流入にはつながりにくいだろう。
ビットコインはこれまでインフレヘッジとして買われてきた側面もある。
経済成長期待に加えて、中東情勢悪化によりインフレの下方硬直が懸念されていることもあって足元では期待インフレ率が2.44%台まで上昇しており、乖離率は下ザヤを維持していることから、これはビットコインをサポートする要因になると言えるだろう。(図4参照)
(図4 期待インフレ率とビットコイン乖離率)
その一方でビットコインのネットワーク指標を利用して独自で算出している「ビットコインネットワークバリュー指標」は大幅に低下していることは気がかりだ。(図5参照)
(図5 ビットコインネットワークバリュー指標とビットコイン)
また米長短金利差は上昇しており逆ザヤ解消に動いており、これはビットコインにとってポジティブだと言えるものの、通常は短期金利が下がって逆イールドが解消されるが、現在は短期金利よりも長期金利が上昇することによって逆イールドが解消に向かうという異常事態が起きているのは懸念するべき点だ。(図6参照)
(図6 米長短金利差とビットコイン)
また米社債長短金利差はこれまでビットコインとある程度の相関性を見せているが、大幅に下落しており、2022年10月21日の安値を切っている。(図7参照)
(図7 米社債長短金利差とビットコイン)
現在は実質金利の頭打ち期待や期待インフレ率の上昇に加えて、ファンダメンタルズの観点からはETF承認期待でやや買われているビットコインだが、上述したようにネットワークバリュー指標や米社債長短金利差が大幅に下落していることはビットコインの足かせとなり、結局はどっちの方向にも強く進めないのが今のビットコインだと言えるだろう。
最後に独自で作成しているビットコインレンジを見るとしよう。
現在のアッパーバンド(U)が31500ドル、ローワーバンド(L)15766ドル、ミドルバンド(M)23633ドルとなっており、現在はアッパーとミドルの中間で推移している。(図8参照)
(図8 ビットコインレンジ独自指標)
ミドルからアッパーで推移しているということは買い圧力は強いということになるが約31500ドル付近を明確に超えてこない限りはビットコインも強い上昇にはつながりにくいということになる。
これらのバンドをチャート上にプロットすると以下の通りとなる。(図9参照)
(図9 ビットコインレンジバンドをチャート上にプロット)
現在は紫のチャネルラインより上を維持しており、一部CME勢は26435-26870ドルでロングを行っているため、ここを下抜けなければ引き続き底堅い動きとなりそうだ。
逆に紫のチャネルライン下限と26435-26870ドルを下回るとロンガーのロスカットが誘発されて、黒のチャネルライン下限とミドルバンド付近まで下落する可能性があるだろう。
とにかく、現在は日足の主要移動平均線もすべて横ばいとなっていることから方向感が出づらい。
年初から述べている通り、引き続き今年は3万ドル台が限界だという予測を堅持したい。
著者 トシムリン
トレード歴16年の現役為替トレーダー。20歳の頃から専業トレーダーとなる。6年間はトレードが上手くいかず一時借金を背負ったが、研究と分析を積み重ねて独自手法を編み出し、7年目からプラス収益となり、そこからは安定的に利益を出し続けている。一般投資家が持ちえないマーケットの内部構造を多角的に分析して市場を予測していくことが得意分野。分析能力と育成能力に定評があり、トレード教育によって多くの常勝トレーダーを輩出している。
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本記事の見識や解釈は著者によるものであり、コインテレグラフの見解を反映するものとは限りません。この記事には投資助言や推奨事項は含まれていません。すべての投資や取引にはリスクが伴い、読者は自分でリサーチを行って決定してください。