トルネードキャッシュに対する最近の米国政府の制裁は、Web3のプライバシーに対する「危険な前兆」となり、最終的には業界全体を「無意味なもの」にしかねないという懸念が高まっている。

プライバシープロトコルのマンタ・ネットワークの共同設立者であるシュモ・チュー氏は、トルネードキャッシュに対する厳しい制裁がプライバシーを提供するものを含むすべてのWeb3プロトコルに影響を与える可能性があるとの懸念をコインテレグラフの取材で語った。

チュー氏は、分散型金融(DeFi)におけるプライベートトランザクションを可能にするレイヤー1プライバシープロトコルであるポルカドットベースの「マンタ・ネットワーク」の共同設立者の1人だ。

トルネードキャッシュは、コイン取引を匿名化するイーサリアム(ETH)のプライバシープロトコルだ。これらのプロトコルは、仮想通貨トランザクションの送信者と受信者のデータを匿名化するモネロ(XMR)やジーキャッシュ(ZEC)に類似したものだ。

米財務省は8月5日、米国居住者にトルネードキャッシュの使用を事実上禁止し、それに関連する44のETHおよびUSDコイン(USDC)アドレスを制裁対象リストに掲載した

チュー氏は、彼のような他のプライバシー・プロトコルが同じような規制に巻き込まれ、「本質的にWeb3空間全体を無意味にする」ほど検閲が強化されるのではないかと懸念している。

チュー氏は、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」が、盗んだ資金のロンダリングにトルネードキャッシュを利用することが知られているため、米国政府の禁止措置は国家安全保障のために行われたと認めている。

しかし、このプロトコルを禁止することで、チュー氏は、オープンソースコードに基づく分散型システムが、どのように運用されるのかに関する規制当局の理解に疑問を呈した。

「規制当局が分散型ブロックチェーン技術やオープンソースコードがどこにでもあることを理解していないだけという可能性も十分にあり得る。(規制当局は)トルネードキャッシュの開発者が意図的に北朝鮮のハッカーを助けたと実際に考えたかもしれない」

先週、オランダの規制当局は、マネーロンダリングに関与した疑いがあるとしてトルネードキャッシュの開発者を逮捕している

過去にもイーサリアム開発者のヴァージル・グリフィス氏のように仮想通貨開発者が逮捕された例があるが、プロトコルを禁止することは、政府がコードや数学そのものに規制をかけようとしていることを示す「新しいパラダイム」であるとチュー氏は付け加えている。

「一部の人ではなく、プロトコルを禁止しているのだ。本来これはイーサリアム・ブロックチェーンのコードの一部だ」

しかし、チュー氏は、最終的にはプライバシープロトコルの開発者が優位に立つと考えている。同氏は、プライバシー開発者は米国政府の手が届かない多くの管轄区域に分散しているため、次のように指摘する。

「米国がプライバシー開発者に対して強権的な手段を講じようとすれば、それは米国にとってあまり良いことではないだろう」

プライバシープロトコルの開発者であるチュー氏は、プライバシーは悪者だけが使うものだというストーリーが出来上がっていると指摘し、「普通の人々も使っている」と主張する。

さらに「システムの性質上、パーミッションレスであるため、システムを悪用する人が出てくる」ことから、良いユースケースを推進することも必要であると主張する。

チュー氏の考えでは、プライバシープロトコルは、普通の人が日常的に使えるように、参入障壁を低くする必要がある。しかし、プライバシープロトコルの制裁が進むと、彼の理想が脅かされる可能性がある。