コインテレグラフは米国のベンチャー投資家であるティムj・ドレイパー氏にインタビューする機会を得た。トレイパー氏は、テスラやスカイプ、バイドゥ(百度)といった企業への投資で知られるほか、起業家向けのドレイパー大学の創設者でもある。
またドレイパー氏はいくつもの立場で仮想通貨と関係してきた。14年には政府が「シルクロード」から押収したビットコインを競売で落札し、17年にはテゾス(Tezos)のICOを支援した。またつい最近は、仮想通貨が2022年までに25万ドルまで上昇するとの予測も出している。
ドレイパー氏は、コインテレグラフとのインタビューで、ブロックチェーンの受容、米国や中国での規制、そして彼がカリフォルニアを離れたがっている理由などについて語ってくれた。
ブロックチェーンを必要としているのは誰か?
政府が最も必要としている。疑問の余地なしにだ。最悪のサービス、巨大な産業、高すぎるコストなど問題はたくさんある。政府とは、すなわち人だ。産業の大きさとは、関係する人々の多さということだ。政府は最も人々への影響力があり、最悪のサービスを高コストで提供している。そしてブロックチェーンは、ガバナンスのヴァーチャル・レイヤー全体を作り出すことで、政府を改善することがdけいる。
これは、政府が市民のために競争する初めてのケースになるだろう。サービスが提供できる数は増え、質も改善し、コストが下がるだろう。税金は下がり、教育や医療など様々な領域で良い方向へ進むだろう。
それに、企業も利益を得るだろう。個人データを扱うようなところならどこでもだ。だからこそ個人認証が非常に大事になってくる。データに影響を受ける誰しもにとって、状況はより改善したものになるだろう。なぜならブロックチェーン上にデータが記録されるようになり、個人と紐づけられるようになるからだ。ひとつでもモデルケースができたなら、それはほかのあらゆる業種へも広がるだろう。医療か、小売りの現場か、通販か。世の中にはたくさん個人のデータを扱っている業種があるのだから。
どうやってブロックチェーンを広めるのか?
業界にいる私たちが、可能な限り強く、そして素早く推進している。しかし、政府によってもたらされるたくさんの不確実性が存在している。政府を運営しているのは、新しい産業を作ろうとしている人々の祖父母くらいの世代だ。彼らは理解していない。それが、業界を創造している人々にとってフラストレーションになっている。
70歳や80歳の老人たちが規制を作り、20代の若者たちに何をすべきかと説いている。だがこの老人たちというのは、若者に多額の奨学金の借金を課し、教育を貧しくし、若者たちの労働環境に目を向けない連中と同じ人物だ。このような人々から、あれをするな、これをするなと言われている。これがニューエコノミー創造の実際のところだ。
もし私がミレニアム世代だったら、私は借金まみれで、職を得るにはまったく役に立たない教育を受けて、きっと私は路頭に迷っていただろう。しかし、そこに突然、大きなチャンスが降ってきた。ビットコインであり、仮想通貨であり、そこには全く新しい世界がある。その新しい世界が規制当局で破壊されようとしている。規制当局が入ってきたことは、とても大きな問題だ。
しかし、規制を厳しくした国は、より貧しくなった。そして自由な国はどんどん豊になっている。米国は、このことを理解しようとしていると私は思う。
異なる国々がどうやって仮想通貨を規制するのか?
日本は、「自由にすれば、豊かになる」ということを理解していると思う。日本は統制や規制をしなければいけないと考えているようだが。
中国は規制と統制を進め、大きな貧困を作り出しているところだ。それを止めるには20年くらいかかるだろう。中国はあまりにも多くのコントロールや制限、規制を行う行うことで、人々の生活を台無しにしている。
FDA(米食品医薬品局)やSEC(米証券取引委員会)、FASB(米財務会計基準審議会)を見てみればいい。この巨大な規制機関は大きな権限を持っている。成長の可能性や国の富を台無しにしている。
もしこの状況が続けばどうなるか。こういった規制当局が不確実性をもたらすことになる。進歩を遅らせ、創造性が開花するのを阻害することになる。こういった規制機関は、世界中の同様の組織と競争している。つまり、より規制が緩い国があれば、人々はそこへ移転しようとするだろう。
米国でのICO規制はどうあるべきか?
ICOはIPO(新規株式公開)と同じではない。IPOは数十万人の人々に影響を及ぼし、株式市場は何千億ドルもの価値を持っている。ICOは一般的に2人の女の子と1匹の犬が何かを始めようとするようなものだ。
私がSECにアドバイスするなら、もっとやれ、すべてを規制しろだ。誰でも記入できる1ページ紙の文書を作るべきだ。2人の女の子と1匹の犬が何か事業をスタートしようというときに、数百万ドルもかけて弁護士を雇って文書を作るなんてことはしなくていい。ナンセンスだ。女の子が何かをしたければただ登録させて、必要なデータを当局が得ればいい。もしその事業が成功して、多くの人々へ影響を与えるような事態にれば、女の子のところ行って「オーケー、君たちは次の段階の規制を受け入れなければならい」とか言えばいい。
何かが花開くのかどうか、見ていればいい。無数のICOの中で、どれから創造的なものが生まれるかどうかなんて、誰にもわからないのだから。
かつてインターネットが出てきたとき、政府はインターネットをシャットダウンしようと考えたことがある。しかしインターネットが何をもたらしたか。私たちの生活はより豊かになり、より面白くなり、よりダイナミックになった。昔は、道で車が壊れたら、何時間も道端でピックアップしてくれる人を待たなければならなかった。今ならウーバーですぐに車を呼べる。インターネットがなければ、こんなことはできなかった。インターネットを自由にしたからこそだ。自由に、より自由に、そして豊かに。自由とは繁栄であり、規制とは貧困だ。
このままでは米国から企業が流出
誰しもがカリフォルニアから出たがっている。企業はどこもだ。カリフォルニアの空は素晴らしい、友達もいるだろう。だがカリフォルニアにいるインセンティブは失われている。
これが、私がカリフォルニアから出たい理由だ。私はフレッシュなスタートを求めている。米国を離れたいとも思っているが、これはインセンティブの話とは別だ。
カリフォルニアは税金が高いが、サービスは悪いし、教育も悪い、道路も貧弱だ。もしテキサス州へ行けば、個人所得税はない。素晴らしい道路があり、イノベーションに親和的な自由な政府がある。
ニューヨークも、カリフォルニアと同じ問題がある。過剰な規制があり、屋上屋を重ねている。様式の整った書類を埋めない限り、何も前へは進まない。
だが連邦制度のいいところは、州同士が私たちのために競争してくれることだ。かつては、私たちに良いサービスを提供しようと、各州が競争していたものだ。役所の人間から、「あなたの生活をより良くするためにお手伝いできることはありますか?御社のビジネス環境を改善するために、私たちにできることはありますか?」と聞いてきたこともあった。
25年前まではそういう状況だった。私が父親と一緒に政府のオフィスへ行くと、役所の人から「ビジネス環境の改善で出来ることはありますか?住環境を改善するために何かすることはありますか?お子様の教育で改善すべき点はありますか?」と尋ねてきたものだ。
それこそが政府の姿勢だった。私の父が政府を尊敬していたのもそれが理由だった。しかし、いま私は父と同じ感情は持っていない。政府が変わってしまったからだ。「あなたのために何ができますか」という姿勢から、「私のためにあなたは何ができるんだ」という風に突然変わってしまった。
20年前からだろう。突然、次のような感じになってしまった。「12CBの書式で記入しましたか?」「すいません。別の規制当局とも話してもらわないといけません」「あなたがパーティを開くことは認めることはできないと思います」。
中国の政策はナンセンス
かつての中国政府は自由だった。彼らは、「あなたのうちの幾人かが最初に裕福になるだろう。調和の取れた環境を作り、成長させ、自由な市場を作ろう」と言っていた。素晴らしいことだったし、それが40年間の繁栄をもたらした。中国は世界の経済大国へと成長した。
今の中国政府は正反対だ。コントロール大好きの政府になっている。少なくともトップはその方針で、それを政府に実行させている。彼らは資本規制を行い、人々が仮想通貨を使うのは認めず、ビットコインで支払いすることを許さない。
そして何が起こっているか。最高の起業家を中国から追い出している。これは人々を制限し、国をより貧しくさせることだ。もし自分に移動の自由がなく、飢えていくだけとなったら、どう思うか。いまの中国は過剰な規制によって、このような状態になっている。
仮想通貨を規制してブロックチェーンだけを推進するのはナンセンスだ。ブロックチェーンで何かをしようとするならば、ビットコインが必要になる。ビットコインで何かしたいのならば、ブロックチェーンが必要だ。これらは相互に絡み合っている。
もちろん、新しいブロックチェーンが作られている。それは素晴らしいことだ。ブロックチェーン同士の競争こそ、私が信じるものだ。競争によって、消費者へより良いサービスが提供される。仮想通貨とブロックチェーンを分離して、新しいテクノロジーを推進しますというのは、おかしな話だ。「新しい技術を作ってください。でも使ってはダメです。お金を外に持ち出してもダメです」。彼が言っているのはこういうことだ。
そんな状況で起業家の利益とは何だろうか?だからこそ、中国人はパロアルトに家を購入しているのだ。中国人たちは、「しょうがない、そこから出るか」と言っている。日本へも多くの中国人が引っ越している。日本人も歓迎している。多くの中国人の若者が日本へ渡っている。
カザフスタンでのビジネスの計画
カザフスタンの首相と話す機会があった。私はエストニアの事例について話し、電子政府の取り組みがいかに興味深いことかを伝えた。「カザフ」とは自由という意味だ。自由の国になるべきだ。より豊かな国になるためには、自由化を進めるべきだと話した。
カザフスタンの首相は同意してくれたようだった。実現に向けて進むだろうと私は思っている。いま現場レベルでは、仮想通貨に対してより厳しい規制を課そうとしているようだ。首相がそれにストップをかけるのではないかと思う。
仮想通貨vs法定通貨
法定通貨のマーケットは100兆ドル(1京円以上)だ。つまり、仮想通貨がそこまで行くにはまだまだ長い道のりがある。仮想通貨はまだ数十憶ドル(数千億円)という規模でしかない。
ビットコインvsアルトコイン
私は競争が好きだ。素晴らしいと思っている。ビットコインは明らかにリーダーだ。ビットコインがほかの仮想通貨にとって競争するべきモデルとなっている。IT業界でのマイクロソフトのようなものだ。しかしグーグルの登場によって、ヤフーが終わってしまったようなことが起こる可能性もある。そういう事態は起こりえる。新しい技術が登場したならば、それを受け入れるだろう。
ビットコインが最大の仮想通貨になるだろう。ネットワーク効果があり、ネットワークが成長すれば、ビットコインもまた成長する。
普遍的な仮想通貨とボラタリティ問題
私は競争という概念が好きだ。そして様々な仮想通貨が交換可能というアイデアが好きだ。それに、今は仮想通貨と法定通貨とを交換することもできる。しかしそれは時間が経つにつれ重要度は低くなるだろう。より重要なことは、ケンタッキーをビットコインで買えるようになることだろう(今はカナダでしかビットコインで買えないけれど)。家でもヨットでも、何でもビットコインで買えるようになるだろう。これから、どんどんこれが進んでいくだろう。将来、コーヒーを法定通貨で買おうとしたら、笑われてしまう時がくるかもしれない。
ボラタリティの問題について聞かれると、1ビットコインは1ビットコインの価値があるだけだと私は考えている。それは非常に安定している。ほかの仮想通貨や法定通貨との関係で、ボラタリティがあるだけだ。時が経つにつれ、問題ではなくなる。
ボラタリティについて叫ばれるとき、人々はパニックになっていると思う。価格が上がった、下がった。しかし1ビットコインは常に1ビットコインだ。それは今後も変わらない。ボラタリティが問題だとは思わない。ビットコインを実際に決済に使うかどうか、それが問題だ。
このインタビューは、コインテレグラフが米国のサンタクララで開催されているグローバル・ブロックチェーン・フォーラムで行った。