専門家の寄稿では、仮想通貨業界内外のオピニオンリーダーがその見解を示すと共に、経験を共有し、専門的な助言を与える。ブロックチェーン技術やICOの資金調達、税金、規制、さまざまな経済分野での仮想通貨の採用事例まで、あらゆる話題を提供する。

 

 銀行が革新を起こすのを放棄してしまった時期を正確に特定するのは難しいが、顧客に価値のある革新をもたらして久しい。銀行は10年前に世界経済を破滅させかけたが、その大半が救済措置を受けた。

 なぜ何千億ドルもの税金を使ってまで彼らは救われたのだろうか。それは彼らが大きすぎてつぶすことが出来ず、崩壊したらシステミックリスクをもたらすから恐れがあったからである。

 当時、銀行や法定通貨に代わるものはなかった。しかし、2009年の1月3日、経済危機の真っ只中に、新しく革新的な通貨がひっそりとローンチされた。ビットコインである。史上初の仮想通貨の誕生であった。

Can you spot the industry that has not innovated in decades?

 何十年にもわたって革新を生み出していない業界を見抜くことができるだろうか。18年の現在、アメリカ国内のどこかに実際の手紙を送ったり、玄関口まで食料品を届けてもらう方が、電子的にお金を送金するより速いなんてどうかしていないだろうか。

 さらにばかげたことに、週末には電信送金が出来ない。なぜなら、銀行が閉まっているから。明らかに人間を介さないプロセスのために、なぜ銀行が開いている必要があるのだろうか。銀行業界は何十年にもわたって職務を果たさずに来た。そして今や変革の機は熟している。

 

現在のシステムは25億人を排除している

 つい最近まで、銀行は仮想通貨というアイディア自体を退けていた。「どうやって機能するんだ。間違いなく、ただの一時的な流行だ。仮想通貨はいかなる中央銀行の裏付けも受けていないのだから」。中央銀行の裏付けを得ていないからこそ、仮想通貨には成功の可能性があるのだ。世界中の銀行の過去1世紀の業績はひどいもので、大半の法定通貨は1〜2世代で役に立たなくなり、その価値をすべてでは無いとしても、ほとんど失ってしまう。アメリカドルでさえも、過去40年間で購買力を80%失った。

 パラダイムシフトはあまりにも甚大で、銀行にとってブロックチェーンがどれほど破壊的技術なのかは理解しがたいものであったし、いまだにそうである。ネットフリックス(Netflix)がブロックバスターのようなビデオレンタル企業にもたらしたこと、コダックに対してデジタルカメラがもたらしたことを考えてみてほしい。

 現在の銀行システムの主要な問題点は、25億人の人々を排除してしまうことにある。彼らは銀行が興味を示すにはあまりにも貧困で、金融システムは彼らにいかなるサービスを提供することにも関心がない。彼らはキャッシュのみに頼ることを余儀なくされ、その結果として、防衛手段を取ることもできず、どんな金融サービスも利用できないため、彼らの蓄えはインフレによって長期的に破壊されることになる。

 銀行がいまだに認識していないのは、銀行はこれらの人々を失ってしまっているということである。彼らは銀行口座を持つことは決してなく、仮想通貨に一足飛びでいく。世界中の発展途上国で、ますます多くの人がスマートフォンを持つようになっているが、それさえあれば仮想通貨を所有できる。銀行が仮想通貨が彼らの存在そのものを脅やかすものであると気付くのに伴い、そのことを年次報告書で開示することが法的に義務付けられている。

 

「金融機関やノンバンクの競合企業は、仲介を必要としない仮想通貨のようなテクノロジーによって、支払い処理やその他のサービスが無用にされるリスクに直面している」

JPモルガン 2017年の年次報告書

 

 最近まで、ビットコインは発展途上国の人々にとって非常に強力な価値提案を持っていなかった。今日ビットコインで支払いをすることは、電信送金のようなもので、比較的遅く(10分ごとに1ブロックで、あなたの取引が次のブロックに含まれない可能性もある)、いまだにお金がかかる(1月の20ドル強から下がって現在は約1ドル)。

 1日に5ドルを稼ぐとしたら、モノやサービスの売買のために取引ごとに1ドルの手数料さえ支払うことはできない。先進国においては、業者が電子支払いを受け入れるために利用できる代替策が今のところないために、クレジットカード会社に5〜7%の手数料を支払うことが当然になってしまっている。

 

 

ライトニングネットワークの登場

 イーサリアムが、ウォール・ストリートが提供するサービスの多く、そして契約を履行するのに信頼される第三者の仲介を必要とする基本的にすべてのサービスを標的にしているのに対し、ビットコインは旧来の支払いシステムに挑戦しようとしている。ライトニングネットワーク(LN)の来たるべきローンチが発表されたばかりである。現在のビットコインブロックチェーンの上に築かれた史上初のレイヤー2ソリューションとなる。LNの基本原理は、すべての取引、特に少額の取引がネットワーク全体に送信される必要はない、というものである。

 ある意味では、それは現在の銀行システムで起こっていることを再現したものである。クレジットカードを利用するときには、請求書の支払い時に多くの取引を一度に決済する。いくつかの小さな買い物をするのに現金を使うのも同じことである。銀行システムが認識するのは、ATMからの一度の現金の引き出しだけである。電信送金でコーヒーを買おうなんで夢にも思わないのではないだろうか。ではなぜビットコインを使うのだろうか。

 ネットワークの容量を直線的に増やすこと(ビットコインキャッシュの場合は8倍で)は、幾何学級数的に成長する必要のあるネットワークにとってなんの解決にもならない。すべての小さな取引でビットコインの分散台帳に負荷をかけることは理にかなわない。毎週何百万もの取引を記録して、軽快さ、効率性、中央集権型を保つことは不可能である。ブロックチェーンには大きな取引だけを記録することだけが理にかなっており、小さな取引の大半はオフチェーンで処理すればいいだけのことである。

Breakdown of non-cash payments in 2015 in the US

 LNにウォレットを持ち定期的にビットコインを補充することは、ユーザー間に開かれた二者間の支払いチャンネルを通じてLNウォレットに支払いを送金することを可能にする。

 その他のユーザーに署名入りの取引を送るが、それらの取引はLN上のマルチ・シグ・ウォレットに保管され、ビットコインネットワークに送信されることはない。どの時点でも、どのユーザーでも、支払いチャンネルをクローズし、LN上で起こった何十万もの取引をビットコインブロックチェーン上の1つの取引で決済することが可能である(この時点ですべての取引は相殺される)。これが拡張の適切な方法である。

 なぜならこのようなソリューションではネットワークの容量は直線的ではなく、 幾何学級数的に増加するからである。

 

How to pay

 LN上の取引は即座に承認され、手数料はほとんどないも同然である。このテクノロジーの公開により、有数の仮想通貨を使った代替策では処理にほとんどお金がかからない中、業者に対する5%強のクレジットカード取引手数料の請求を正当化することはますます難しくなる。

 しかしこのソリューションで解決できない大きな問題が1つある。人々がビットコインを使わずに保有していたいと思う可能性がある、という点である。しかし、その点を論じるのは別の記事に譲りたい。

 

 

当記事で示される見解や解釈は著者のものであり、コインテレグラフや世界銀行の見解を必ずしも反映してはいない。

ヴィンセント・ローネーはワシントンD.C.の世界銀行の金融スペシャリストである。HEC経営大学院とCFA協会で金融学修士号を取得している。