先日、仮想通貨取引所QUOINEを傘下に抱えるリキッド・グループは、新たな資金調達の結果、企業価値が10億ドル(約1110億円)を超えたと発表した。日本で2社目のユニコーン企業(非上場で時価総額10億ドル越えのテクノロジー企業)になったリキッド。調達資金の使い道の1つとしてあげたのは、セキュリティートークンだ。日本で新たな仮想通貨規制が進む現在、改めてこの分野に将来性を感じる理由とは何なのだろうか?コインテレグラフ日本版がQuoineの代表取締役Head of CEO Officeである紺野 勝弥氏に聞いた。

セキュリティートークンのビジネスチャンス

セキュリティートークンは、一般的に株など既存の金融商品を紐づけたトークンで、ブロックチェーン上で流通される。ビットコインなど仮想通貨と異なり、最初から金融商品関連法に従って発行される金融商品と定義される。「既存の金融の世界とブロックチェーンの世界を融合させるのがセキュリティートークン」(紺野氏)だ。

セキュリティートークンは、同じネット取引とはいえ、オンライン証券が販売する金融商品とも大きく性質が異なる。オンライン証券の場合、既存の金融商品を実店舗での対面販売ではなくネット販売にすることで、手数料を削減することなどが特徴だ。一方、トークン化された証券の場合、証券会社という仲介なしで取引したい相手と相対でトレードできる。例えば、取引相手が米国など海外に住んでいて、既存の金融機関にとっては時間外である土日であっても、取引できるのが特徴だ。「相手先がグローバルに広がる」(紺野氏)というわけだ。

また、「簡単に分割できる」こともセキュリティートークンの魅力の一つだ。現在、一株を分割することはなかなか難しい。ただトークン化することで、例えば「この株の10円分だけ欲しい」というトレードが技術的には可能だ。紺野氏は、少額で取引できるから特に若い世代を中心に新たな投資層を形成するチャンスがセキュリティートークン市場にはあるとみている。

セキュリティートークンにビジネスチャンスがある理由は他にもある。

既存の金融市場に流動性をもたらす上で重要な役割を果たすヘッジファンドやグローバルな投資銀行などが参入しやすいのが、セキュリティートークン市場だ。紺野氏は、セキュリティートークンによって「既存の金融システムで使われているサービスが、トークンの世界に持ち込みやすくなる」と解説。とりわけ顧客の資産が信託管理されていることの重要性を強調した。

紺野氏は、海外のヘッジファンドから次のようなことをよく言われるという。

「商品として仮想通貨は面白いからトレーディングしたい。しかし『カストディ (資産管理)がないだろ?』とよく言われる(中略)いくら日本でライセンスがあるとは言っても『君たちのところには預けられないんだ』と言われる。」

ヘッジファンドの背後にはたくさんの投資家がいる。預かっている多額の資産を、信頼できるところに保管できるのか。ヘッジファンドが気にするのはこの点だ。では、仮想通貨業界はどうすれば良いのか?紺野氏は、信託銀行などが仮想通貨業界に入ってきて顧客資産を管理できるようになれば、「大きく変わる」と話した。

(セキュリティートークンについて語るQuoineの代表取締役Head of CEO Office紺野 勝弥氏)

「日本の規制が世界をリード」

仮想通貨業界における顧客資産の管理で前進が見られたのが、先月15日に閣議決定された資金決済法と金融証券取引法の改正案だ。紺野氏は「顧客財産の信託化が定義されたのは大きい」と高く評価している。

(規制面で)日本が世界に先駆けて一番リードしていると思う。国レベルで一番に規制を入れたのは2017年4月(改正資金決済法)。そこからコインチェック事件が起きて細かく事業者をモニタリングする中で、顧客保護とは何かを、日本政府、金融庁が考えた結果が今回の法案だと思っている(中略)今回の法案は厳しいという見方もあるが、金融事業なら当たり前であるとともに、暗号資産を株式やFXといった既存の金融サービスと同様、主要なアセットクラスの一つとみなした、と受け止めている」    

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信託保全があると、万が一、取引所が破綻したりした場合、利用者の保有する仮想通貨が保証される。ビットコインなど「ピュアな」仮想通貨の場合、「財産」としてまだ認定されていないことなどから、信託で利用者の通貨を保証する仕組みを構築するには「ステップが必要」(紺野氏)。しかし、セキュリティートークンは、既存の金融商品としての枠組みがある。

2017年、三菱UFJ信託銀行が2018年4月にビットコイン信託を始める計画と報じられたが、実際にはまだ始まっていない。

セキュリティートークンの信託管理をする場合、売買で使われる日本円に関しては信託銀行に信託することになるが、紺野氏はトークンの部分はまだ不透明だと指摘。先月15日に閣議決定した法案を「素直に読んだ場合」、オフライン上での資産管理であるコールドウォレットで管理するケースか、株式や債券などの決済業務を行う証券保管振替機構(ほふり)で管理するケースが考えられるという。

ただ紺野氏は、ほふりのケースに関して、次のように付け加えた。

「規制も整備されたばかりで、ほふりでトークン化された有価証券を管理できるキャパシティーがあるかどうかは不透明。そこがどうなるのかはまだ分からない。今後法案が通ったら、自主規制団体が出て来ると思う。『セキュリティー・トークン協会』みたいなものが出てきて、必要な自主規制についてしっかりとした議論がなされていくだろう。」

楽天とかSBIなどすでに金融業を手がけている会社が運営する仮想通貨取引所は例外だが、2014年頃から交換業を手がけるスタートアップにとって、投資家や利用者から「クレジット(信用)」をきちんと得られないことが課題となっていた。今回の改正案によって顧客資産の信託化が定義されたことにより、「我々のクレジットではなく、信託銀行のクレジットで仮想通貨のトレーディングができるようになる」(紺野氏)。紺野氏は「すごく大きな一歩だ」とみている。

紺野氏は、セキュリティートークンが仮想通貨市場をリードしていくとみている。

アジアが世界をリード

最近、アメリカではネガディブなニュース流れる一方、日本や中国、韓国などアジアでは明るいニュースが多い。

米国では市場関係者待望のビットコインETF(上場投資信託)は延期され続け、ニューヨーク証券取引所の親会社が手がけるバックトのビットコイン先物もいまだに開始していない。ゴールドマンサックスの仮想通貨トレーディングデスクも立ち消えになった感がある。そんな中、2日付のニューヨーク・タイムズは、「賢いマネーは仮想通貨市場がまだ準備できていないことを知っている」と報じた。

一方、日本は大手企業による仮想通貨業界への参戦が相次いでおり、日本の投資家心理は改善したという見方が出ている。韓国でも厳しい規制緩和を訴える声が高まっている。また、先週のビットコイン高騰の際、中国人トレーダーがビットコインOTC取引に殺到したという。

紺野氏も「アジアが中心で世界のマーケットが動いているのではないか」とみている。先週のビットコイン急騰も日本やアジアの時間帯で始まっていると指摘した。

リキッドは今後、各国で必要なライセンスを取得し、「グローバルでどこにいっても、リキッドのサービスを使えばセキュリティートークンが買える」という仕組みづくりを目指す。「日本、アジアを中心にアメリカとヨーロッパは最低限おさえたい」と紺野氏は話した。

バブルが崩壊したと言われて久しい仮想通貨市場。日本、アジアが中心となって巻き返しをはかれるのか、注目だ。