世界最大のステーブルコイン発行企業テザーが、カナダの上場金ロイヤルティ企業エレメンタル・アルタス・ロイヤルティーズへの出資を通じて買収攻勢を継続している。
テザー・インベストメンツは6月13日、エレメンタル(ELE)の普通株7842万1780株をラ・マンチャ・インベストメンツから取得したと発表した。これはエレメンタルの発行済株式の31.9%に相当する。
取引は6月11日に完了し、1株あたり1.55カナダドル(1.14ドル)で実施された。エレメンタルの発表によれば、テザーによる総投資額は約8940万ドルに上る。
この投資は、テザーが「金やビットコインのような長期的かつ安定した資産をエコシステムに統合する」戦略の一環と位置づけられており、インフレヘッジであると同時に、強固なデジタル経済インフラの構築を目指す姿勢を示している。
金採掘リスクを避けた形でのエクスポージャー
エレメンタル株の取得によって、テザーは金の採掘そのものを伴わずに、金鉱山から得られる収益(ロイヤルティ)や金の引き取り権(ストリーミング)を通じて世界的な金生産への分散投資を実現する。
テザーは「このモデルは、現実世界の資産に対する戦略的かつ低リスクのエクスポージャーという当社の方針と一致しており、デジタル金融商品の透明性と安定性の向上につながる」と説明している。
テザーの最高経営責任者(CEO)であるパオロ・アルドイノ氏は、同社がビットコインや金への投資を強化していることについて、次のように述べた。
「ビットコインが金融インフレに対する究極の分散型ヘッジとなるように、金は時代を超えて価値を保ち続けてきた」
「これは単なる投資ではなく、次の世代に向けた金融インフラを構築する取り組みだ」とアルドイノ氏は強調している。
テザーは金担保型コインも展開
インフレ対策としての意義に加えて、テザーがエレメンタルを通じて多様な金ロイヤルティにアクセスできるようになることで、同社のエコシステムの裏付け強化や、金担保型ステーブルコイン「テザー・ゴールド(XAUT)」の推進にもつながる。
テザーが2020年に発行したXAUTは、現在市場で最大の金担保型仮想通貨に成長しており、コインゲッコーのデータによれば、2025年4月には時価総額が8億5400万ドルに達した。
XAUTの拡大は、過去1年間での金価格の急騰とも連動している。現物金価格は年初来で約30%上昇し、4月には一時3500ドルに到達し、その後はやや反落している。
テザーの積極的な投資攻勢
今回のエレメンタル株取得は、テザーによる積極的な投資活動の最新事例になる。同社は2024年に過去最高の130億ドルの利益を記録し、ステーブルコイン以外の領域にも本格的に進出している。
2025年5月には、テザーが出資するビットコイン投資企業トゥエンティワン・キャピタルのために、ビットコインを4億5870万ドル分購入。この企業は現在、カントール・エクイティ・パートナーズとのSPAC(特別目的買収会社)合併を進めている。
6月初旬にはさらに39億ドル相当のビットコインがトゥエンティワン・キャピタルに移管され、ストラテジー社とMARA社に次ぐ世界第3位のビットコイン保有企業となった。
そのほかにも、2025年3月にはイタリアのメディア企業ビーウォーターの株式30%を取得し、2月にはサッカークラブ「ユヴェントス」への出資や、自主管理型の仮想通貨ウォレットZengoへの支援も実施している。