今月2日、台湾は仮想通貨取引所を対象としたマネーロンダリング防止(AML)政策を厳格化し、仮想通貨を使った違法取引の監視・防止を取引所に義務付けた。

今回立法院で成立したマネーロンダリング防止法およびテロ資金防止法によると、台湾政府の5つの部門の1つである金融監督管理委員会(FSC)が仮想通貨取引所に権限を行使し、不正な活動との関わりが疑われる取引を禁止することができるようになった。

台湾の法務部(MoJ)はAML法案の成立を受けて声明を発表。政府が「コンプライアンスの文化と姿勢」を醸成することを企業に促し、AMLの国際標準を満たすべく行動していくと強調している。

これまで台湾政府は、足元の仮想通貨取引市場やブロックチェーン分野の規制に懐疑的だった。

世界第3位の仮想通貨取引市場である韓国も今年まで、国内のデジタル資産市場に実際的で効率的な規制を課すのを控えていた。仮想通貨産業を正式に認める動きと投資家から見られるのを恐れたためだ。

だが今回成立したAML法案や、仮想通貨分野に対する国内の主な金融規制機関の方針に基づき、台湾は仮想通貨を使った不正行為や犯罪活動を抑止するため、国内の仮想通貨・ブロックチェーン空間を規制する方向へ動いていくと思われる。

中国と台湾の複雑な関係

周知のように、台湾は中国と数十年に渡り複雑な関係にある。台湾の正式名称は中華民国だが、中華民国が中国共産党が支配する中華人民共和国に中国本土を明け渡して以来、中国共産党は一貫して台湾の統治権を主張し、中華民国の存在は合法的なものではないと主張している。

台湾は中国の正統な政府であると主張しているが、1950年に海南島を失った際、台湾政府の統治権は台湾島および金門と馬祖という辺境の2島に制限された。

近年、米国からの支援強化を主な理由として、台湾と中国の緊張が高まり続けている。最近でも、米国が今年9月に台湾への3億3000万ドル規模の武器供与を承認した後、台湾が米国の武器や兵器をさらに購入する用意があることが10月22日、報道で明らかになった。

台湾や米国、中国の代表は米国から台湾への武器供与が増えていることについて、まったく異なる見解を示している。

台湾立法院の防衛委員会メンバーである与党議員の羅致政(Lo Chih-cheng)氏は、台中関係に関係なく、台湾政府は攻撃の可能性に備えて地域を守るため、確実な防衛力と十分な武器を有していなくてはならないと語った。

「最悪の場合頼れるのは自分たちだけだ。長期的には米国に依存し過ぎるべきではない。しかし依然として、米国から武器を購入し、能力を高めながら防衛力を確保する必要がある」

台湾の国防部から資金提供を受けている国防安全研究院は、米中間に見られる対立は、地域を守る強力な防衛システムを構築するための「台湾にとって絶好の戦略的チャンス」だと述べている。

当然、中国政府は米国から台湾への武器供与に激しく反対している。北京の外交部は昨年6月、14億ドル規模の取引は「中国の安全と主権を著しく脅かす」と述べ、台湾を「中国領土の不可欠な部分」と表現した。

この時、International Crisis Groupのマイケル・コブリグ氏は「実際にこのタイミングが意図的なものであるとすれば、それは姿勢の変化を示すものだ。米国側は中国を刺激することを明確に認識していただろう。中国側が体面を保つ余地を与えない動きだ」と語り、台湾へのさらなる武器供与は米台関係を悪化させる可能性があると付け加えた。

新たなAML法案に中国は影響力を行使したのか?

中国の主要メディアや国営新聞において、米国のドナルド・トランプ大統領が台湾支援という危険なゲームに興じているという非難が展開される中、3か国間ですでに高まっている緊張をあおるような動きがあれば、重大な国家紛争につながったり中国政府の言う「悲惨な結果」をもたらす可能性がある。中国日報は先月24日、以下のような社説を掲載している。

「ワシントンにいる軍部のタカ派は中国を脅かし、台湾を勇気づけようと躍起になっている。しかし彼らは、代償の高い対立に自国が引きずり込まれるという悲惨な結果について考慮すべきだ。そのような対立はそもそも不必要であり、かつ避けうるものだ」

台湾と中国の両政府が合意した数少ない分野の1つが、仮想通貨を含む電子決済システムの活用によるマネーロンダリングの防止だ。

最近、世界的な仮想通貨分野でのマネーロンダリングや不正行為の全面禁止を目指し、特にモネロやZキャッシュ、ダッシュといった匿名通貨に関して、日本政府も仮想通貨について標準化されたAML規制を確立するよう求めた。金融庁の職員は先月24日、次のように語っている。

「登録済みの仮想通貨取引所に対し、そのような通貨の使用を許可すべきかどうかについては真剣に議論するべきだ。日本だけでこの問題を扱うのは不可能に近い。取引が国内送金に制限されていたり、監視体制を強化したとしても、マネーロンダリングに対処するには十分ではない。20の先進国と新興国・地域(G20)が全体で、抑止のために同じ手順を採用するのがベストだろう」

ここ数か月、立法院議員のジェイソン・スー氏が先導する形で、台湾政府は、より積極的で柔軟なアプローチで国内の仮想通貨市場を規制していく姿勢を示している。

あるインタビューの中でスー氏は、仮想通貨取引所を対象とした一連の指針も含め、ブロックチェーンや仮想通貨の規制に重点的に取り組むために台湾で議員連盟が結成されたと説明した。同氏は台湾が日本や韓国、シンガポール、香港、その他のアジア諸国と協力し、国内の仮想通貨空間の成長を促していく、と付け加えた。

したがって、中国の台湾への直接的な影響よりも、国内の仮想通貨空間を規制しようという台湾の議員や立法院の集団的な努力が、新たなAML法案の修正につながった可能性が高い。

「私たちは立法院でブロックチェーンに関する議員連盟を結成した。業界の支援を目的とした超党派の連盟だ。また、ブロックチェーンおよび仮想通貨に関する自主規制機関も立ち上げ、取引所を規制する一連の指針を整備するために協力していく。これらの指針では、仮想通貨取引所やその他の課税体制の定義について基本的なパラメータを提示していく。今後数週間で指針が発表された際には、台湾や日本、韓国、シンガポール、香港、それに他のアジア諸国の地域的合意となるだろう」

台湾立法院議員ジェイソン・スー

中国もある程度においては仮想通貨を保護

中国は昨年9月、マネーロンダリングや資本規制に対する懸念を表明し、仮想通貨取引を正式に禁止した。政府は数十年に渡って中国元の海外市場への流出を制限しているが、禁止措置が導入される前、投資家は取引所を通じて国内市場から資本を持ち出すことができた。

コインテレグラフが詳細に報じたように、中国は仮想通貨に関連するイベントやメディア、店頭取引(OTC)など仮想通貨分野のほぼすべての領域について、政府は積極的な禁止策を適用した。中国で最も普及している決済サービスであるアリペイに対しては、仮想通貨取引所とのつながりが疑われる取引をすべてブロックするように要請している。

一方で先月25日、深圳国際仲裁院は、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨は資産と見なされるべきで、したがって中国でのビットコインの所有や送金は違法ではないと正式に宣言した。

「中国の法廷が、ビットコインは法律の保護下にあると確約した。深圳国際仲裁院が仮想通貨関連の事案に裁定を下した。裁定の内容:中国法ではビットコインの所有や送金を禁じていない。資産としての性質や経済的価値により、法律で保護されるべきである」

仲裁院の決定は、既存の規制に抵触しない形で、業者が決済手段として仮想通貨を受け入れることに実質的にゴーサインを出すものだ。

11月の時点では、中国で最も歴史ある技術誌「北京科技报」の購読や、いくつかのホテルやレストランが仮想通貨決済に対応している。

「北京科技报」は来年1月より、ビットコインでの年間購読(定価0.01BTC)を正式に開始する。しかし出版元は、統合の目的はブロックチェーンの実世界での可能性や使用事例を実証することにあると明言し、BTC価格が大幅に上がれば購読者に返金していくという。

仮想通貨取引は引き続き中国国内で禁止となるが、理論的には仮想通貨の所有や送金は違法ではないことになる。これを踏まえ、第4次産業革命の中核としてのブロックチェーン技術に対する政府の積極姿勢を考えると、一定程度、中国は仮想通貨を完全に否定しているわけではないと言えるだろう。

中国の習近平国家主席が主導して開発する「雄安(ションアン)新区」の整備を担っている地元政府では、ブロックチェーンを新区の主要素に据えている。イーサリアムの共同開発者ジョセフ・ルービン氏が率いる世界最大のブロックチェーンソフトウェアメーカーであるコンセンシス(ConsenSys)などのイーサリアム関連団体と提携し、政府向けのブロックチェーン基盤のツールを開発していくという。ルービン氏は7月に以下のように語っている。

「中華人民共和国における当社初のビッグプロジェクトの1つとして、イーサリアム技術により実現する信頼性の高いインフラから恩恵を受けるであろう、多くの『使用事例』を生み出すことに気持ちが高まっている」

次の仮想通貨ハブはどこだ

シンガポール、香港、韓国、日本。ジェイソン・スー議員が言及した4つの地域はすでに大きな市場へと進化している。

韓国第2位の仮想通貨取引所であるUpbitや世界最大の仮想通貨取引所であるバイナンスは、すでにシンガポールにオフィスを開設し、提携銀行を確保して取引プラットフォームのベータテストに入っているという。

日本と韓国は、アジア2強の仮想通貨市場として、規制や業界の成長という面で大きな進展を見せている。

これら4つの市場に対抗していくため、台湾は、仮想通貨取引所やブロックチェーン関連企業を呼び込むための強力なセールスポイントを確立していく必要があるだろう。

最近、韓国の金融委員会(FSC)は、銀行は仮想通貨取引所と自由に提携できると宣言した
またソウル中央裁判所は、国内取引所のコインイズと大手商業銀行である農協銀行との訴訟において前者に有利な裁定を下し、業界の先例を確立した。コインイズの代理人を努めたキム・テリム弁護士は、この事案は銀行が仮想通貨取引所を不公平に扱うことをやめさせるもので、仮想通貨分野にとって画期的だと語った。

「仮想通貨取引所は前提として、韓国の大手銀行に資金を自由に預けたり、引き出したりする権利を有する。十分な証拠や根拠がないのに銀行(今回の事例では農協銀行)が提携関係やサービスを突然中止することは、契約違反となる」

これまで台湾は、他の大型市場から最大規模の仮想通貨・ブロックチェーン関連企業を誘致するのに十分なイニシアティブを発揮してこなかった。しかしスー氏や議員連盟が台湾での仮想通貨導入を引き続き推進していけば、安定した銀行サービスや政府支援が保証されていることを考えると、中期的には企業が参入してくるだろう。