暗号資産古物商協会が10月28日に設立された。仮想通貨によるモノの売買を日本国内で普及させるための活動に取り組み始めた。投機的な資産としてではない、仮想通貨の実需を作っていくことが目標だ。協会代表理事の小宮自由氏は「仮想通貨の普及を図るための新しい活動につなげたい」としている。その活動内容について聞いた。
古物商とは、中古品を売買する事業者だ。警察への登録が必要となる。たとえば、古書店やリサイクルショップといったものも古物商にあたる。
「暗号資産古物商」は、仮想通貨を使ってモノの販売や買取をする事業者になる(中古品に限らず、新品のものでも取引できるが、医薬品など特別に規制されている物は例外となる)。
暗号資産古物商と取引をする一般ユーザーは、不用品を買い取ってもらうことで仮想通貨を手に入れたり、逆に仮想通貨でモノを買うことができる。
仮想通貨でモノを売買する規制は?
仮想通貨を実際の取引で使うこと自体には、特別なライセンスがいるわけではない。
資金決済法で規制されている仮想通貨交換業は、仮想通貨と法定通貨、仮想通貨同士の交換といった業務だ。仮想通貨とモノの取引については、特別なライセンスが必要ではない。
実際、ビッグカメラなど日本国内でビットコインなどの仮想通貨による支払いができる店舗があるが、仮想通貨交換業を取得しているわけではない。
もちろん何でも扱えるわけではない。前述の医薬品のようなケースのほか、換金性が高くマネーロンダリングで使われる恐れがあるもの、また記念硬貨のような金銭は、基本的に扱わない方針だ。
また協会メンバーが今年9月に古物商を管轄する警察庁に仮想通貨を使った売買について照会し、問題がないことを確認している。
暗号資産古物商協会の目的は?
なぜ日本円で買えるものを、わざわざ仮想通貨で支払うのか。
暗号資産古物商協会が目指すのは「経済活動の基本である物品の売買を通じて暗号資産の普及を図る活動だ」(小宮氏)。
従来アルトコインの場合、ユーザーはそのコインが上場され、上昇するのを待つという形だった。協会では、モノの売買で徐々にコインの相場を作っていこうというのが基本的な考えだ。投機目的よりもより健全なマーケットが作られるのではないかと考えている。
取引所で交換する以外の実際のモノの売買で使われるユースケースが増えれば、仮想通貨自体の価値も上がると見込む。
小宮氏は、今回の協会設立について、次のように狙いを述べている。
「暗号資産は本来、『誰にも管理されていない、誰でも使える通貨を作ろう』というモチベーションで発明された。投機的利用がほとんどである現状は望ましくないと考えている。暗号資産で一般の方がモノを買える/モノを売って収益を上げられる世の中の実現を目指す」
では実際にどのようなケースがあるのか。
既に暗号資産古物商の考えに賛同する事業者が、仮想通貨を使ったモノの売買に取り組んでいる。
たとえば、小宮氏は古物商のライセンスを取得した上で、不要となったゲームソフトなどの売買を行った。また協会メンバーの中では、コメの販売を仮想通貨を使って受け付けたケースなどもあるという。このような売買の際には、ALISといった日本のスタートアップが発行した仮想通貨が使われた。
暗号資産古物商は仮想通貨の「目利き」に
暗号資産古物商として、仮想通貨を引き受けるサイドにはどのようなメリットがあるのか。
暗号資産古物商が「これから伸びるだろう」と考える仮想通貨での支払いを受け付ける。いわば、古物商が目利きのような存在になり、仮想通貨の価値を自身で判断して、支払い手段として受け付けることになる。
これにより、もしそのトークンが未上場で将来的に日本の市場で上場すれば、古物商は利益を得ることができる。また少額のトークンを持っているユーザーにとっては、取引所で交換する以外にも、支払い手段として使えるようになるメリットがある。
もちろん、どのようなコインを受け入れるのかは、各事業者の判断だ。暗号資産古物商が、仮想通貨の「目利き」となり、自分の判断で取捨選択することになる。
協会では協会員となる事業者については「仮想通貨交換所と古物売買を行っている企業がメイン」(小宮氏)と考えている。また、仮想通貨の発行体などを協会員として想定している。発行体としても、自身の仮想通貨が実際にモノの売買で使われることでユースケースを生むこともメリットとなる。
多通貨オークションの仕組み
暗号資産古物商協会では、多通貨オークションの仕組みを提唱している。
これは日本円や仮想通貨など、複数の通貨を使ってモノのオークションをする仕組みだ。日本円と仮想通貨のどちらでも入札できるオークションを開催し、円と仮想通貨のいずれかの最高入札者を落札者として選ぶ。
円の最高入札額と仮想通貨の最高入札額を比較して、実際にマーケットでの仮想通貨の価値を測る狙いがある。
例えばあるモノのオークションで1000円と250ALISの最高入札額があった場合に、1ALISは4円というという風に、取引所以外のところで相場が形成されるのではないかという考えだ。
協会の具体的な活動は?
協会の会員規則によれば、多通貨オークションで形成されている円と仮想通貨の相場情報の共有や、税務や法律問題への対応を進めていくとしている。
一番大きい部分は、規制当局との調整やロビイングといった活動を進めることだ。
いまだ仮想通貨規制については、グローバルでも流動的な状況だ。税務面や法律面での規制問題に協会として対処していく考えだ。
また将来的には古物商のプロマーケットの創設も視野に入れている。
出典:暗号資産古物商協会
古物商同士がモノを売買するマーケットだ。古書など専門業者ごとにマーケットがあるが、仮想通貨を使ったプロマーケットを創設したいとしている。ここでトークンの流動性確保やマーケットでの相場形成を担う狙いだ。
まだ協会はスタートしたばかりだが、小宮氏は仮想通貨の新しいビジネスとして展開させていきたいとしている。「今後1〜2年程度で、ビジネスとして成立する程度には産業を成長させたい」と意気込む。