日本で初開催されたイーサリアム開発者向けの大型カンファレンスDevcon5が11日に閉幕した。大阪の中心部から電車で30分ほど離れた大阪湾沿いの大型商業施設には、4日間、イーサリアム関係者であるなしに関わらず、仮想通貨・ブロックチェーンに夢を見る人々が世界中から集まった。

今後の仮想通貨・ブロックチェーンに関して語り合える素晴らしい機会であったのは間違いない。しかし、一部では「カンファレンスの内容が技術的すぎる」という声が聞こえた他、開催中にイーサリアムに批判的な記事を書いたレポーターが「ステージ上で名指しされて批判された」と明かし、「まるでトランプの集会に参加するレポーターの気分だった」と皮肉を述べる事態も起きた。

確かにイーサリアム共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏の「クリプトエコノミックス」に関する基調講演は、暗号技術やブロックチェーン技術の知識なしでついていける内容ではなかった。ただ、元々は開発者向けのカンファレンスだ。10万円以上のチケット代を払いながら「講演内容は一切聞かずにネットワーキングに時間を費やした」という強者もいた。

また、イーサリアムコミュニティーは排他的という批判の声が高まる中、トランプ集会のレポーター気分を味わったレポーターは「ほとんどの人々は歓迎してくれた」と火消しにかかり、「お互いに学ぶ機会にしよう」と提案した。

コインテレグラフ日本版も、世界中の才能あふれる人々と対話できる機会をくれたDevcon5に感謝する一方、今後のために課題を指摘して今後もお互いに学ぶ機会へとつなげたい。

ずばり、「イーサリアムが牽引するウェブ3.0は、なぜ必要なのか」が十分に理解できなかったことだ。

コインテレグラフ日本版は、3日目の基調講演の後にイーサリアム共同創設者のジョセフ・ルービン氏に直撃。ウェブ3.0について説明を求めた。

ウェブ3.0はなぜ必要なのか?

ルービン氏によると、「ウェブ3.0は分散型で世界中に広がったウェブ」であり、インターネットプロトコルの「自然な進化」。ウェブ2は、フェイスブックやグーグルに代表される「壁に囲まれた庭(閉ざされたプラットフォーム)」であり、利用者が持つデータを一元管理して営利目的で「搾取」する。一方、ウェブ3.0は、中央集権的な企業の支配下に完全に置かれることはなく、利用者が様々なデータ・資産を所有、共有して管理することができるシステムだ。

ウェブ3.0の構想の下、イーサリアム上にはパーミッションレス(許可が不必要)な支払いシステム、IDシステム、保険システム、トークン発行システムなどが構築されつつある。

ルービン氏は基調講演で、ウェブ3.0の開発を加速させるため、来年までにイーサリアムの開発者を100万人に増やそうと呼びかけた

だが、ルービン氏が説明したのは、「ウェブ3.0で何が実現されるか」であり「なぜウェブ3.0が必要なのか」という点ではない。つまり、ウェブ3.0が実現したら人々の生活はどのように変わるのか?そして変化した生活は、グーグルやフェイスブック時代より良くなるのか?それはいったいなぜなのか?こういった疑問点に対する回答ではなかった。

例えば、ビットコインが変えようとしている世界は、政府や中央銀行のみがマネーの発行権を握っている世界。では、なぜ変えるのが必要なのか?インフレという名の税金、資本規制、金融政策失敗による通貨の暴落などに憤りを覚える人々が世界中に多数いるからだろう。これらはすべて、リアルに人々を苦しめている問題だ。

「アルトコインの罪とは、間違った馬に乗ったことではない。不十分な信念のもとで行動を起こしたことだ。彼らは、本当は自分たちで信じていない夢を売っている。

コインメトリックスの共同創設者ニック・カーター氏は、先月、ブログで上記のように指摘。業界内で大きな反響を呼んだ。

ビットコインと他のブロックチェーン・クローンは似たような構造を持っているが、「一番の違いは魂」。ビットコインの代替チェーンが劣っているのではなく、「基本的に虚無的なところが問題」(カーター氏)という。

Devcon5で浮き彫りになったのは、カーター氏が指摘した点と似ているだろう。

「何が技術的に可能になるか」という話だけで人間の心は動かされるだろうか?開発者であるならそうかもしれない。だが、専門外の人々の無関心を動かすために必要なのは、「実際に彼らの実生活には解決すべき問題があり、それをウェブ3.0なら変えられる」というロジックだろう。

ルービン氏の100万人開発者計画。この計画自体は素晴らしいことであるし、待ち遠しい。ただ、「この技術クールだよね」のみで思考停止してはだめだ。イーサリアムには、開発者だけではなく、「魂」の部分を語れるストーリーテラーも必要なのではないだろうか。

ウェブ3.0までのロードマップは…

では、現在のウェブ3.0の進捗状況はどうだろうか?ルービン氏は、DeFi(分散型金融)のほか独立したジャーナリズムのためのコミュニティプラットフォーム「シビル」などを例に上げた。

「ひとたびファイナンスのレイヤーが構築してうまく機能するようになれば、さらに多くのプロジェクトを引き付けるようになるだろう」

「ゆっくりだが、確実に進んでいるよ」と付け加えた。

ただ、ウェブ3.0がメインストリームになるまでどのくらいかかるか?と質問したところ、ルービン氏は困惑した表情で次のように答えた。

「では、ウェブ2.0はどのくらいかかったんだ?たくさん時間がかかっただろう。10年、20年かかった(中略)今からどれくらいかかるか?誰もわからない。90%の人々がウェブ3.0を利用したアプリを使う時はいつになるか?分からない

一方で、とりわけアルゼンチンやベネズエラにおいては、ウェブ3.0のファイナンスレイヤーに構築される様々な資産が人々の生活を助けると見込んでいるようだ。アルゼンチンではすでに一部で普及しているとし、「このスペースの発展は早いので1年か2年で多くの人を助けられるようになるだろう」と述べた。

アルゼンチンやベネズエラは、自国通貨に対する信用が薄れてきている国だ。そこには暗号技術やブロックチェーンが経済を救うのに使えるのは確かかもしれない。

さらにルービン氏は、ビットコインのゴールド2.0と比較して、イーサを「分散型アプリのプラットフォームで使えるトークン」と表現。そのプラットフォームとは「全ての金融機関とそれらに付随する全ての企業にパワーを与えるためのフィールド」と解説した。

ただ、これは比較としては成り立っていないようだ。ゴールド(金)は装飾品として重宝されるている他、「有事の際の安全資産」として昔から投資家の需要もひきつけてきた。しかし、「分散型アプリのプラットフォームで使えるトークン」とは、初めて聴く人にはいったい何なのかが伝わらず不明瞭だ。また、現在で言うところの何に取って代わろうとしているかも分からない。

この問題を解決できない限り、ブロックチェーンがしばしば揶揄される「Solutions looking for problems(解決策が問題を探す状態)」を抜け出せないだろう。繰り返しになるが、何ができるかだけではなく、どの問題を解決したいのか?具体的には、アルゼンチンやベネズエラで蔓延する社会問題を解決する上で、ビットコインだけではなくウェブ3.0の技術が必要な理由は何なのか?ここでもやはり語り部、日本で言えば文系の力が必要なのではないだろうか。

マネーとしてのイーサ

ウェブ3.0に期待する投資家も多い。

ギャラクシー・デジタルのマイク・ノボグラッツ氏は、「世界を変えるのはビットコンではなくウェブ3.0」と予想する。一方で同氏は今年5月、ウェブ3.0の分野でイーサリアムが現段階では一番強固であるとしつつも、「今後3ー4年で全ての面で勝利しなければならない」と述べた

その上でノボグラッツ氏は興味深いことに、「イーサリアムはマネーとして見られなければならない」と付け足した。

この点、ルービン氏はどのように考えているのだろう?基調講演では、トークンが成功するための一つの要素として「投資家を引き付けるために価格が上昇する必要性」を指摘。その条件をクリアしているのは、ビットコインとイーサのみであると誇った。

同氏はコインテレグラフ日本版に対して、マネーとしてのイーサについて次のように解説した。

「価格は、供給と需要に影響される。ビットコインは発行量のスケジュールが決まっているが、イーサはスマートコントラクトの運営のため、かなりすぐにバーニング(焼却)される。おそらく、今から1年後の発行量から増えることはないだろう」

しかし、これは同氏も指摘するように、あくまで需給の話だ。イーサという資産に備わる固有なポテンシャルの話ではない。

ウェブ3.0とイーサ価格の関係について聞いたところ、ルービン氏は次のように回答した。

「プラットフォームがより多くの人々や会社に使われることになれば、イーサへの需要は高まる。スマートコントラクトを運営するための支払い(ガス代)や取引を承認するために必要なイーサのステーク、DeFi(分散型金融)で使われる担保として需要が高まる。(中略)イーサは、プラットフォームにある唯一のパーミッションレスな資産になる。ハイパワードマネー(マネタリーベース)みたいなものだよ

どこか総花的な印象は拭えない。

マネーとしてのイーサが普及するためにも、ストーリーが必要だろう。賛否両論はあるものの、「避難通貨やリスクヘッジ手段としてビットコインの価格が上がっている」というのは最近のアナリストの決まり文句だ。イーサのケースでも、そういったストーリーが形成できるのか。今後の課題になるのではないか。