仮想通貨犯罪の最前線:米司法省・デジタル通貨担当法律顧問の戦い【専門家の寄稿】

【専門家の寄稿】では、仮想通貨業界内外のオピニオンリーダーが意見を述べ、経験を共有し、専門的なアドバイスを提供しています。専門家は、ブロックチェーン技術やICOによる資金調達から、税制や規制、仮想通貨の導入ケースなど、多岐にわたるテーマをカバーしています。

 米司法省による12人のロシア諜報機関職員に対する起訴は、「新たな予想外の方法で米国を攻撃」する目的で仮想通貨がどのように使われていたのか、最も鮮明に描き出しているかもしれない。しかし、「ダークネットは安全と考えている犯罪者は間違っている。我々はそのネットワークを暴くことができ、彼らに法の裁きを受けさせようと決意している」と、ロッド・J・ローゼンスタイン米司法副長官は語っている。同副長官は、市場の一体性と消費者詐欺に関するタスクフォースのトップも務めている。

「(仮想)通貨の出現は、世界を変える可能性を秘めており、それは前向きなものとなるだろう。しかし、詐欺を行ったり利益を隠す目的で仮想通貨を使う犯罪者たちも、徐々に増えている。…基本的に言える点は、デジタル世代の犯罪者たちに境界はないということだ」

 17年9月に米司法省初のデジタル通貨担当法律顧問に就任したたミシェル・R・コーバー氏は、就任以来、全米の検事局から寄せられる仮想通貨に関する問い合わせへの対応や、仮想通貨関連の訴訟や罰金手続きのガイドライン策定、仮想通貨絡みの国際的なマネーロンダリングや、国内・州内のマネーロンダリングの捜査をまとめる仕事に追われてきた。

 それらのマネーロンダリングの事件は、違法薬物の販売などと密接に関連している。仮想通貨は、暗号化されたダークウェブ上で提供される違法なモノやサービスのための、世界で最もよく使われる決済手段と考えられているためだ。ダークウェブは、仮想通貨犯罪者たちのためのシャドーバンキングシステムとして、ますます数が増加している。

 さらにコーバー氏は司法省マネーロンダリング及び資産回復部門(MLARS)に属している。彼女は、MLARSやコンピューター犯罪及び知的財産部門(CCIPS)など司法省犯罪局の他の部門、及び数え切れないほど存在する連邦法執行機関や規制機関に所属する、この分野における豊富な人材と接触することができる。

 コーバー氏は、多国籍犯罪組織を解体し、マネーロンダリングやテロ金融、違法物品の輸入、詐欺、脱税など、仮想通貨がもたらす国境を超えた脅威に対抗するため、13年から国際的な法執行機関や国土安全保障省、及び民間のテクノロジー企業と国際的な調査で協力を開始した。同じ年、国内外でのマネーロンダリングやテロ金融、その他の金融犯罪と闘うために金融取引に関する情報を収集・分析する、米財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCen)は、仮想通貨で送金を行うマネーサービス事業者(MSB)に登録要件を課した。そしてその初の仮想通貨関連事件において、司法省は60億ドル規模のコスタリカの仮想通貨取引所「リバティーリザーブ」を閉鎖させた。司法省はその後、マネーロンダリングを含むさまざまな連邦犯罪行為を理由に、12億ドル規模の薬物売買ダークウェブマーケット「シルクロード」も閉鎖させている。

 コーバー氏は世界中で仮想通貨犯罪を起訴する、パイオニア的存在となった。

薬物売買組織「イタリアン・マフィア・ブリュッセル」– 国際犯罪カルテルの摘発

 薬物売買組織「イタリアン・マフィア・ブリュッセル(IMB)」のような多国籍犯罪カルテルは、ウェブの最も暗い片隅を経由して違法薬物を販売し、さまざまなレベルの匿名性を使い仮想通貨と交換している。それらの組織は、世界中のさまざまな国で行っている違法行為を隠し、その資産を保管するために、顧客の本人確認(KYC)・マネーロンダリング対策(AML)規則に従う銀行や取引所を避け、しばしばウォレットを使っている。

 この組織は、EUで製造されたMDMAを、ヨーロッパの国々から郵便を使って米国に輸入し、様々なダークウェブサイトで販売して、ビットコインに変えていた。ダークウェブでエクスタシーを売ってビットコインに変えることで、フランス、ベルギー、ルーマニア、米国など、いくつもの国境を越え、ビットコインを仲間同士で秘密裏に移動させることができた。そして税金から逃れ、不法な利益を洗浄し、身元を隠そうとした。

 それにも関わらず、米国と欧州の法執行機関職員たちは、コロラド州にいるコーバー氏のチームの指揮の下、「さまざまな国で休みなく協力して働き、早朝の強制捜索を組織的に実施して、ベルギーとルーマニアのIMB組織のメンバー多数を同時に逮捕し」、国際的なダークウェブのエクスタシー売買組織を効果的に解体した。コロラド州地区に提出された裁判所資料によれば、IMBのボスであるフリップ・ルシアン・サイモン被告は、米国に規制薬物を輸入しようとした疑いと、マネーロンダリングの疑いで有罪を認めており、18年9月26日にデンバーで判決が言い渡される予定だ。

 この多国籍犯罪カルテルによる仮想通貨の悪用の全貌はまだ明らかになっていないものの、欧州連合(EU)のマフィア市場は約1110億ユーロ(約14兆円)と、EUのGDPの約1%に当たると言われている。これにはダークウェブマーケットを中心としたマネーロンダリング、MSB、カジノ、スロットマシン、ゲーム、賭博が含まれている。EUの金融犯罪・脱税・課税回避に関する特別委員会(TAX3)は、最近の報告書で、仮想通貨に関して取り組むべき主な課題として、その匿名性を指摘。法執行機関、規制当局、又は税務当局の仮想通貨取引に対する十分な監視を妨げていると言及しちる。

ダークゴールド作戦 – ダークネット仮想通貨マネーロンダリング業者の逮捕

 「19の州における65以上のダークネットベンダーを標的とした、初の全国的な秘密作戦において、ダークウェブの薬物売買に関与する40人以上の仮想通貨マネーロンダリング業者を、司法省による州を跨いだ掃討作戦の一環として、6月末に逮捕した」と、司法省は18年6月26日に発表した。米司法省のマネーロンダリング部門は、全国で40以上の米検事局と連携する全国的な捜査をまとめ、現在進行中の90以上の訴訟開始に繋げた。

 ダークウェブは、隠蔽されたIPアドレスと、大抵の場合は特定のウェブブラウザーを通した特別な方法でなければそこにアクセスできない、隠されたインターネットで構成されている。

 「昨年、(ダークネットマーケットサイトで米ドルを仮想通貨に交換するマネーロンダリング業者のふりをした)おとり捜査官が、特に麻薬売買に関与するダークネットベンダーに対し、マネーロンダリングサービスを提供してきた」と、ニューヨークから作戦を指揮した、国土安全保障捜査局(HSI)のエンジェル・メレンデス特別捜査官は述べている。彼らはニューヨークにいながら、大量の違法薬物を積んだ貨物から取引を追跡することができた。

 ダークゴールド作戦によって違法ベンダーたちを捕まえたことで、思わぬ大きな成果が得られた。この全国的な秘密作戦は、現金とビットコイン等の仮想通貨を2000万ドル(約22億円)以上を押収したのだ。また司法省は、360万ドル(約3億9000万円)相当の金の延べ棒も押収した。米麻薬取締局(DEA)のジェームス・J・ハント特別捜査官は次のように述べている。

「前例のない数の麻薬関連殺人事件が発生しているこの重大な時期において、我々が直面している最も大きな脅威の1つが、麻薬のサイバー取引である。ダークネットが我が国に犯罪者を呼び寄せ、違法な取引へ制限のないアクセスを提供しているため、法執行当局は関与する者たちを見つけ出し、逮捕するための対策を講じている。この画期的な捜査に参加した、全ての捜査官たちに称賛を送りたい」

 メレンデス特別捜査官は、当局がどのようにして顧客のウォレットと麻薬取引を結びつけたのかという質問に対しては、詳細を答えることを拒否し、単に「ブロックチェーンを分析するために法執行機関が利用するツールや技術が存在する」と述べるに止めた。

「ビットコインの達人」 - 違法交換所の運営者を起訴

 ロサンゼルスの連邦検事の18年7月9日の発表によれば、「ビットコインの達人(Bitcoin Maven)」との偽名で通っていたテレサ・テトリー氏は、法定通貨を仮想通貨と交換する違法な無許可送金ビジネスを3年以上運営し、カリフォルニア州中央地区における闇市場の金融システムを助長してきたという。この捜査は、DEAと米内国歳入庁犯罪捜査局(IRS-CI)により実施された。

 DEAの捜査官を含む顧客は、その資金の出処に関係なく、「ビットコインの達人」のサービスを利用して、ビットコインから現金、又はその反対の交換取引をしていた。彼らは高額な手数料と引き換えに、本来なら政府に報告を行うべき取引について、報告をしていなかった。

 ビットコンと現金を交換する無許可ビジネスを運営し、麻薬取引の利益であるビットコインをロンダリングしていたことを認めた「ビットコインの達人」ことテトリー被告は、連邦刑務所での懲役12ヶ月と1日、監視下での保釈3年、罰金2万ドルの判決を受けた

 「匿名性という特徴を持つ仮想通貨は、資金の流れに関する捜査を妨げ、規制の外で違法な取引が行われるのを許すことになる」と、組織犯罪麻薬取締タスクフォース部門のプネート・∨・カッカル連邦検事補は説明する。カッカル連邦検事補はテトリー氏を起訴し、この新しく複雑な刑法の分野に関して、コーバー氏から法的な助言と支援を受けている。

 「基本的なこととして、世界の金融システムの完全性と利用可能性を維持し、悪用から守る必要がある」と、金融犯罪取締ネットワークで取締部副部長を務めるトーマッス・オット氏は語っている。「技術は進化し、米国や世界の金融システムに今後も組み込まれて行くだろう。その技術が、金融システムを守るのに必要な透明性を確保する方法で、使われるようにしなければならない」。

 それ故に、「匿名性が強化された仮想通貨や、ブロックチェーン上の取引を見えなくするサービス(仮想通貨タンブラーやミキサーなど)、及び仮想通貨マイニングプールに関連する潜在的な課題に対処するため、さらなる法的措置や規制を検討する必要もある」と、検察局捜査部のロバート・ノーヴィ副部長代理は付け加える

 匿名性が強化された仮想通貨に関する技術的な課題により、国際的な法執行機関の最善の努力が妨げられており、また仮想通貨の不正利用に対する需要が高まっている中で、コーバー氏の仕事は今後も余人をもって代え難いものとなるだろう。

 

セルヴァ・オツェッリ氏は弁護士、公認会計士、国際税理士。Tax Notes、Bloomberg BNAなどの刊行物やOECDの刊行物に、税金、法律、会計に関する問題について多くの記事を書いている。