マルタは「ブロックチェーンの島」を目指すことを明確にしている。取引量で世界最大の仮想通貨取引所であるバイナンスは、日本、中国、香港から警告を受けた後、新しい本拠地にマルタを選んだ。12日には、大手取引所OKExもマルタに拠点を設置すると発表した。これはマルタが分散型台帳技術(DLT)の規制に関し、良い方向に向かっていることを示す例だろう。

 「CZ」として知られるバイナンスの趙長鵬CEOは、トロン等のその他のプロジェクトもマルタへと招き入れた。

 CZ @cz_binance ジャスティンはどこが盛り上がっているか知っている。マルタへようこそ

 マルタ首相府内の金融サービス・デジタル経済イノベーション担当政務官のシルビオ・シェンブリ氏は本件に関し、コインテレグラフに次のように語った。

「バイナンスの決定は、この業界において私たちが国として、そして政府として提示しているもの、つまり、この場所における法律的な確実性に対して信任を示すものだ。CZとの会談の中で、私は2月にローンチされた政策文書「マルターDLT規制のリーダー」に示された我が国の長期的ビジョンを説明した。私たちは敬遠するのではなく、イノベーションを抑え込まずに業界を規制することでチャンスを解き放ちたいのだ。究極的には、我が国のビジョンはマルタをブロックチェーンの島にすることだ」

バイナンスはなぜマルタに移転したのか?

 バイナンスは、法定通貨と仮想通貨の預金・引き出しのサービス提供を目指している。流動性を高め、法定通貨購入で参加してくる新しい投資家をプラットフォームに呼び込むためだ。現在、このオプションを提供する取引所はほとんどないため、投資家は安定したトークンのテザーを使うなどし、ボラティリティなどから身を守っている。バイナンスは近日中に地元マルタの銀行と連携し、同オプションを開始する意向だ。

 バイナンスのマルタでの2つ目の目標は、中央集権型システムのもたらすリスクを軽減し、顧客に分散型でトラストレスなソリューションを提供することだ。それは究極のセキュリティーと透明性に対する要求の高まりに答えるだけではなく、中央集権型プラットフォームが直面する、ポルカドットやコスモスネットワークのようなプロジェクトと競争するためでもある。

 これら相互運用性のある新規参入者は、「ペギー」(イーサリアム・ペッグ・ゾーン)等のソリューションを実行することで、例えば0xプロトコルをベースにした新しいタイプの分散型取引所を台頭させ、トークンだけではなく、ブロックチェーン間の価値交換を可能にするかもしれない。

 さらに、これらの取引は近い将来、完全な匿名性を備えうる。例えばZCashとそのZk-STARKs、センチネル・セキュリティとその内蔵型コインミキサーといった相互接続されたプライバシー重視のチェーンがあるからだ。

 そのため、マルタにおけるバイナンスの目標の1つが独自の分散型取引所の開発であることは、驚くようなことではない。来たるイノベーションや潜在的な競争相手についてバイナンスは理解しているためだ。

 首相府内の国家ブロックチェーン戦略特別委員会に法律専門家として参加するイアン・ガウチ氏は、バイナンスのマルタ移転の決定についての見解をコインテレグラフに次のように語った。

 「通常マルタで事業を始める事業者は、エコシステム全体を見て、その角度から我が国の可能性を評価する。DLTの分野では、マルタはゲーム、海事、金融サービスにおいて優れた評判と実績を有する。つまり、私の考えでは、価値はすでにそこにある。我が国のDLTとイノベーションに対する姿勢と、最近表明されたこの業界における法的枠組みの計画により、その価値はさらに高められている。このことはバイナンスを惹きつけるのに不可欠の要素であったと感じているし、おそらくその他のDLTや仮想通貨業界のチームもバイナンスと考えを共にし、同様にマルタにやってくるかもしれない」

 また、ブロックチェーン・マルタ協会の創設メンバーであるレオン・ジークムント氏は、マルタにおけるDLT規制の最近の動向に関する自身の見解を次のように語った。

「ブロックチェーン業界の起業家は、ビジネス環境と長期的に保証されている明確でシンプルなルールを必要としている。バイナンスは世界中の何百万人ものユーザーに信頼されているサービスを提供し、マルタ経済が恩恵を得ることのできる質の高い雇用をもたらす。結局のところ、ブロックチェーンとビットコインは、過剰宣伝されたものや、何百万人が投資する地下実験という段階を超えていること、何十年にもわたる繁栄をもたらすものであることは間違いなく明らかである」

マルタのブロックチェーン規制

 マルタはDLTに対して法的枠組みを与えるため、積極的で効率的な努力を行ってきた。3つの法案の制定に関する諮問文書は、3月初旬までフィードバックを受け付けていた。これら3つの法律の要旨は以下の通りである。

  ー MDIA(マルタ・デジタル・イノベーション当局)法

 まず、MDIA法は、MDIA当局の設立を基盤とする。デジタルエコノミー担当大臣が、MDIAの委員長と理事会を選出する。MDIAによってさらに共同調整委員会も設置され、その業務範囲は、テクノロジー利用の分野でMDIAとその他の国家所轄当局(NCA)間の効果的な協力を確保することにある。
さらに、MDIA法によって国家テクノロジー倫理委員会(NTEC)を設置し、同委員会は関連するテクノロジー・アレンジメントの利用に適切な倫理基準が反映されるように考慮し、マルタのその他のNCAを指導する。

 ー テクノロジーアレンジメントおよびサービスプロバイダー(TAS)法

 2つ目の法律は、テクノロジーサービス・プロバイダー(テクノロジーアレンジメントの監査役と管理者)の登録と、テクノロジーアレンジメント(DLTプラットフォームと関連するスマートコントラクト)の認証のための体制を敷くTAS法である。
MDIAはそれらの登録と認証を担当する国家管轄当局となる。提案では、誰でもが自発的にテクノロジーアレンジメントを認証したり、テクノロジーサービスプロバイダーを登録するようにMDIAに要請できる。

 ー 仮想通貨(VC)法

 最後にVC法は、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)と、VCに関連する特定のサービスの構築のための規制体制と枠組みを提供する。この体制はVCを取引する仲介業者、取引所、ウォレットプロバイダー、アドバイザー、資産運用家、マーケットメーカーを対象とする。

 上述の法案の実際的な応用の例としては、DLTプラットフォームの認証やICOの認可が挙げられる。提案された枠組みは実用的で、既存の欧州連合(EU)やマルタの金融サービス法の範囲から漏れた際に、仮想通貨関連のビジネスの継続を規制するための適用を意図している。

 マルタ内もしくはマルタから行われるICOの発行者および、もしくは提供者には、ICO/VCが金融商品市場指令(MiFID)等の既存の投資サービス法の観点から、金融商品として分類されるかを決定するために「金融商品テスト」が課される。

 この「金融商品テスト」には2段階ある。第1段階は、特定のVCがEUもしくはマルタの既存の法律の適用を受けるかを決定する。第2段階では、VCがVC法の下で資産として見なされるかを決定する。第1段階での肯定的評価が下された場合、テストを受ける者は第2段階に進む必要はない。

 マルタのジョゼフ・ムスカット首相と首相府内の金融サービス・デジタルエコノミー・イノベーション担当政務官シルビオ・シェンブリ氏は、その情熱、指導力、マルタ移転を希望するDLT業界の業者との絶え間ない会談についてツイートした。

 シルビオ・シェンブリ @SilvioSchembri  今日私たちはマルタでのゲームでのDLTと仮想通貨の利用に関する指針となる文書を発行した。

さらなる普及に向けて

 マルタを拠点とする台帳プロジェクトは、公証手続きを容易にする所有権移転管理システムで構成される最初のDLTアプリケーションLP 01を生み出した。このプラットフォームは、当局にとってマルタでの不動産販売に関するリアルタイムのデータにアクセスするのに便利な道具となりうる。

 マルタの大手ブティック型法律事務所E&Sは、ICOのセットアップ、法律サービス、トークノミクスといったICOに関連するサービスを提供する。マルタではすでにいくつかの企業がビットコインでの支払いを受け付けており、ビットコインのATMも存在する。このことはマルタ社会でのDLTの利用の広がりを示している。

 タイムズ・オブ・マルタ、ラビン・マルタ、マルタ・インデペンデントの最近の記事に見られるように、地元のマスコミもDLTの問題を頻繁に論じている。規制、プライバシー保護、イノベーションを巡る摩擦は続いている。しかし、対話をしたり、既存の法律を改定、改善することで画期的なDLTイノベーションを受け入れることを選択しない国がある一方で、マルタのように先駆的なリーダーとなる勇気とイニシアチブを持った国もある。法案とバイナンスによる本社移転の発表によってマルタは、真の「ブロックチェーンの島」になるための立場を素早く確固たるものにしている。