著者 川本 栄介(株式会社アヤナス代表取締役兼トークンエコノミーエバンジェリスト)
日本におけるブロードバンド黎明期の頃からインターネット事業を生業とする。DMM、楽天、サイバーエージェント、SIer、スタートアップなどで主に新規事業を中心に携わる。DMMではオンラインサロンやブロックチェーン関連の事業部長を歴任。現在は独立してトークンエコノミーエバンジェリストとして、世界中のあらゆる業種で一般の人達に身近な事業においてのトークンエコノミーの実現の可能性を追求している。
LOUDはアーティストとファンに焦点を当てた新しい音楽コミュニティのあり方を提案する。今まではアーティストから不特定多数のファンという構図のコミュニケーションが用いられてきたが、LOUDによってファンと一体感のある音楽活動が可能になる。
新たな経済圏、トークンエコノミー
トークンエコノミーはブロックチェーンを活用して個人に帰属する社会と経済を作る為のフレームワークである。現在ではLINEやGMOなどの大手企業が自社トークンエコノミーの普及に努めている。
この経済圏ではブロックチェーンの分散型台帳システムによって改ざんされにくく、透明性が高い取引が可能になる。そのため、個人間の取引が可視化され実績として蓄積されていく。その実績をポートフォリオとして公開することで個人間でも安心して取引することができる。
今はインフルエンサーの台頭に代表されるように各個人に焦点を当てる時代になってきている。その中でトークンエコノミーはバウンティ(仮想通貨を循環するための活動)などインセンティブ設計されたイベントに参加することで個人が信頼を蓄積し、ユーザー同士が不正なく取引できるシステム作りを目指している。また、それぞれが利害関係を明確にした上で活動を行うためフェアな取引が可能になる。
昨今の仮想通貨市場には実体のない期待値で成り立っている仮想通貨が溢れているが、今後はトークンエコノミーに信用と実用性が求められるようになるだろう。
LOUDはアーティストとファンの関係性を再構築する
今回新たにローンチするLOUD(https://ayanasu.co/result/
これまでアーティストからファンに対するコミュニケーションは不特定多数に向けてのものだった。しかし、LOUDを使ってファン個人の活動が可視化されるようになると個人を認識した上でコミュニケーションを行えるという利点がある。
メタル業界に精通する音楽プロデューサーの小杉 茂氏もLOUDへ参加している。
小杉 茂(株式会社ハウリング・ブル・エンターテイメント 代表取締役)
Metal、Hard core、Punkを専門に1990年、
小杉氏はLOUDについて以下のように語る。
音楽というコトはCDによってモノとして流通していた。それがライブやイベントなどによってモノをモノとして経済活動できるようになった。これを定量化するために今までとは違う物質経済を作らないといけない。
今回のコロナ騒動で仕事や私生活がうまく行かなくなり、命を断つことを考えていた人がいたとする。しかし、この人が一曲の曲を聞いて前向きに生きようと思えたならそこに莫大な価値が生まれる。今のシステムではこの価値をアーティストに直接的に還元することはできないが、LOUDでそれを実現できるようにしたい。
LOUDはローンチから当面はメタルというジャンルに絞って進めていく。メタルを選んだ理由について小杉氏は次のように説明する。
メタル業界は狭い世界なので新しいことをやろうとした時にスムーズに進められそう。メタル人口は意外と多く社会的な地位のある人もファンだったりする。メタル好きの多くはメタルを聞かなければ音楽自体聞かないというようなコアなファンなのでコトを定量化するのに向いていると思った。
LOUDという名前の由来に関してはすでに「メタル」という名のブロックチェーンが存在したことを踏まえて「派手、うるさい」という意味を持つ名前にしたという。
LOUDトークンがファンとアーティストの関係性を見直すことによって新しいサービス設計が可能になるのではないだろうか。
誰もがバウンティを立てられるシステム作り
LOUDではアーティストはもちろんファンもバウンティプログラムをローンチすることができる。トークンエコノミーの参加者が行う取引のうち報酬対象となるアクションがバウンティプログラムで指定される。
例えばあるバンドのライブに参加してくれたファンが次回友人を連れてくるというバウンティを立てるとする。実際にライブに友人を連れていき、バウンティを達成したファンには報酬としてLOUDトークンが配布されるという仕組みが実現できる。
小杉氏は他にもアーティストの地元を掃除するバウンティなども面白いのではないかと話す。ファンがアーティストのために活動をすることで一体感が生まれ、フェスやライブなどのイベントがより一層もりあがることだろう。
普通であればそういった活動もボランティアのような形で終わってしまうが、バウンティとして行うことで記録に残し、正当に評価することができる。
バウンティの企画は今までにないファンの活動のあり方を模索するということになるだろう。そのため最初はどのように良いバウンティを企画するかという部分が課題になってくる。
LOUDトークンでのみ購入できるライブチケット
LOUDトークンの使い道としては楽曲データやライブチケット、グッズなどとの交換が可能になる。また、LOUDトークンでしか交換できないライブチケットや投げ銭としての機能も面白い試みとなるだろう。
LOUDはブロックチェーンを活用しており誰もがトークンの流通経路を追うことができる。そのため、ただLOUDトークンを取引所で購入してチケットと引き換えたファンと地道にバウンティプログラムで貯めたファンとで席順など待遇の差別化ができる。
アーティストへの投げ銭も誰が投げたかブロックチェーンで追跡できるため、ただの募金に終わらない。アーティストは投げ銭をくれたファンを個人として認識できるようになる。
貢献度というパラメーター
LOUDには単純な残高とは別に「貢献度」というパラメーターが存在する。取引所でトークンを購入した場合は貢献度0だが、バウンティなどの活動によって得たLOUDには貢献度が付随している。
この貢献度を獲得するためにユーザーはLOUDトークンをホールドするのではなく、トランザクションを生成し結果として高い流動性が保たれる。LOUDでは単純にウォレットに何LOUDあるかではなく、どのようにしてそれを手に入れたかというプロセスが重要になってくる。
そのためLOUDがもし仮想通貨取引所に上場するとなった場合には価格決定のプロセスが従来の仮想通貨と変わってくるかもしれない。これまではトークンを売りたい人と買いたい人の需給のバランスによって価格が決められていたが、LOUDではプロジェクト自体の本質的な部分が価格決定のプロセスに関与してくるのではないか。
しかし、LOUDはトークンの価格上昇を目的としてプロジェクト設計していなく、主にアーティストとファンのつながりのため設計されているので上場すら意味がないのかもしれない。
2つのトークンが混在する経済圏
LOUDの経済圏にはLOUDトークンの他にもう一つセキュリティトークンが存在する。これはアーティスト毎に発行できるトークンで極端に言えばアーティストの株式のようなものになる。セキュリティトークンは活動資金が足りないアーティストが出資金を集めるプロセスとして活用できるようになる予定だ。
アーティストの活動が軌道に乗ればホルダーに配当という形でLOUD収入の一部を分配する。
セキュリティトークンは投資の小口化にも繋がり、今までは100万円単位で行っていた投資が数百円から可能になる。そしてファンは、アーティストを投資家として従来とは異なる視点から見れるようにもなる。
ブロックチェーンを用いた経済圏では一つのトークンに二つ以上の意味を持たせるのは難しい。現在主流になっているのはユーティリティトークン(有用性のあるトークン)、セキュリティトークン(デジタル証券)、ノンファンジブルトークンの(代替不可能なトークン)三つだがユーティリティトークンにセキュリティトークンの役割を持たせるとユーザーはトークンをホールドするようになるだろう。
ユーティリティトークンとセキュリティトークン、二つのトークンの住み分けをし相互に作用しながら流動性のある市場を築くことが可能になる。
LOUDが生み出す新規事業
LOUDの作り出すトークンエコノミーは様々な新規事業へと繋がっていく可能性を秘めている。
まずアーティストとファンの音楽活動を根本から見直すことによって、新しい形のフェスが生まれるのではないか。ファンはフェス開催日の数ヶ月前からバウンティに参加し、実績を積み上げていく。フェス当日にもっとも頑張ったファンが良い席順などで他の人とは違う待遇を受けられるようになる。
ただチケットを購入して当日を待つだけではなく、当日に最高の体験をするためにバウンティをこなしていくのである。そして、フェス後も余韻に浸るようにバウンティを継続することができる。
また小杉氏はLOUDの活用方法についてコトの演出に使える可能性があると話す。
フェスでのアーティストの出演順序をファンの活動によって決める仕組みがあっても面白い。バウンティに貢献したファンがもっとも多いアーティストが大トリを務めるなどコトの演出にも活用していきたい。
さらに、LOUDはeコマース(電子商取引)のあり方にも影響を与えるだろう。現在の市場ではアーティストの私物を本物がどうか見極めることが難しく、適性な価格で取引されているとは言い難い。そこでブロックチェーンを活用して流通経路を可視化することで真贋の証明が容易になる。このシステムを活用することが二次流通における価格の安定化に繋がる。
メタル専門誌「BURRN!」の有効活用
メタル業界で1984年から発行されている権威ある雑誌がある。もともとは紙媒体で発行されていたBURRN!だが、現在は試験的にオンラインでの運用が始まっている。
LOUDは最初にメタルにフォーカスを絞るにあたり、業界屈指のメディアを最大限に活用していきたい。今までは一方的に情報を流していたが、トークンエコノミーと組み合わせることにより、ファンも参加できるメディアになるのではないか。
例えばバウンティプログラムのレポートやファンが執筆するライブレポートが実現する可能性がある。読者は執筆したファンのポートフォリオを閲覧できるため、執筆者のバックグラウンドを知ることで信憑性の判断も容易になる。
また、スポンサーが記事に広告をつける際にもライターを比較して選びやすくなり、コンバージョン率の向上が期待できる。
LOUDトークンが社会に与える影響とは?
トークンエコノミーはマイナスの経済圏ではなく、プラスの経済圏である。何かをプラスした時にそこに価値が生まれる仕組みが従来の使えば使うほどマイナスになる物質経済とは異なる。
頑張れば頑張った分だけ評価されるということは、逆を返せばサボっているうちは評価が上がらないということになる。誰もが良い待遇をうける為に努力を繰り返す。そして、ランク上位に位置する人たちのトランザクションは可視化されているため、再現性が保たれている点も公平を期すのに一役買っている。LOUDコミュニティにおけるランキングはいわばわかりやすい競争だ。
ファンがコミュニティにとって良い行動を取った分プラスで評価され、他の人との待遇が差別化されることでモチベーションにも繋がる。将来的には活動履歴をまとめた個人のポートフォリオを見て評価される時代になるのではないか。その時に人々が評価されることにネガティブなイメージを持つのではなくポートフォリオを公開して評価されるからこそ良いサービスが受けられるという認識を持って欲しい。
LOUDのコミュニティ内においてはユーザー同士が名刺代わりにポートフォリオを見せ合う習慣が根付いて欲しいと考えている。相手のトランザクションを見ることでその人がどういう活動をしてきたのかが一眼でわかる。また現状のSNSであるような「友達が繋がっている知り合いだから信頼できるかもしれない」という曖昧な人物評価するような仕組みとは違う。LOUDのトークンエコノミー内においてはLOUDのポートフォリオが評価という面で重要視される。
LOUDのゴールは仮想通貨取引所への上場ではない
多くの仮想通貨が取引所に上場することを一つの大きな目標としている中、LOUDはそれを重視していない。明確なゴールは設定していないがファンとアーティストの関係性を変えていく中で次の目標が見えてくるのではないだろうか。
小杉氏はアーティストが音楽活動に専念すればするほど良い結果がついてくるようになって欲しいと話す。
例えば活動資金が足りていないアーティストらが資金集めに時間を割くのではなく音楽活動に専念できるようにLOUDのサービスを提供していきたい。投資されたLOUDは誰から送られたのかがわかる上、ファンも投資金の使い道が把握できるため透明性が保たれる。アーティストに責任感が生まれ本質的にやらなければいけないことに専念できるようになって欲しい。
まずはいくつかのアーティストとそのファンに絞ってLOUDを試験的に展開していく予定だ。アーティストが困っていることやファンにして欲しいことをバウンティという形にし、事例を作っていく。そこから成功事例が生まれれば自ずと他のアーティストにも興味を持ってもらえるはずだ。
なんで日本のメタルバンドはあんなに盛り上がっているんだと思われたい。それがLOUDを知るきっかけになって欲しい。そしてLOUDが広まる過程をBURRN!を使って広めていきたい。
今後は日本国内での基盤をしっかりと固めて日本で成功しているという事例作りに着実に取り組んでいき、数年後には日本から世界に発信していくことを視野に入れている。
アメリカやヨーロッパなどのメタル先進国よりもまずはインドネシアや中南米など新しいものを柔軟に受け止めてくれる地域から開拓していく。
LOUD(ラウド)トークンエコノミー
https://ayanasu.co/result/
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