最近、最低でも3社の大手企業が、ブロックチェーン関連特許を申請しているとのニュースが持ち上がった。バンク・オブ・アメリカは、データの外部検証を可能にするブロックチェーンベースの自社システムを法的に保護しようとし、バークレイズは、デジタル通貨の送金とブロックチェーンのデータストレージに関する、2つの特許申請を提出した。マスターカードの申請は、ブロックチェーンと法定通貨のアカウント間で資産をリンクするための、公開ブロックチェーンをベースとした方法の一形式に言及したものだった。

 ブロックチェーン技術が18年も最大の話題の1つであり、普及の対象であり続ける中で、仮想通貨関連特許の数は確実に増加している。「特許ゴロ」もゲームに参戦し始めており、今後、ブロックチェーンを巡る法律戦争が起こるかもしれない。

なぜ企業はブロックチェーン特許が必要なのか?

 他のあらゆる特許と同様に、ブロックチェーン特許は公的権限(主権国家や政府間組織)により発行される、一連の独占権である。発明者や譲受人は、その発明の公開と引き換えに、この権利を取得する。例えば、米国において特許は、米国特許商標局(USTPO)により付与される。正確な意味で「国際特許」は存在しないものの、152ヶ国が署名する特許協力条約(PCT)によれば、PCTの下で1つの国際特許申請を提出することで、申請者は多くの国において、同時にその発明を保護することができる。

 ブルームバーグが説明するように、ビジネス上のブロックチェーン特許は「金融サービス業界を再形成しようとしたり、利益の上がる仮想通貨関連ビジネスを生み出そうとしている企業にとって、必要不可欠な要素である」。本質的に、企業は特許によって、投資を引きつけ、財産権を保護し、自らの発明を使用する他社から独占的な利益を徴収することができるようになる。

 USPTOのデータベースによれば、ブロックチェーン及び仮想通貨関連特許が最初に言及されたのは、2012年前後のことだ。12~15年の間に企業は、「仮想通貨」や「ブロックチェーン」という言葉を含む特許申請を、米国だけで最低でも83件提出してきた。その後、ビットコインが市場でお気に入りのバズワードになり、主流へと押し上げられると、その数はさらに増加した。フィナンシャル・タイムズによれば、17年中に米国で申請されたブロックチェーン特許は97件に上り、それ以前の特許申請数の合計を上回った。ブルームバーグ・ローのデータは、特許局が11年1月~18年4月の間に受理し、その後公開したブロックチェーン関連特許の申請は、約700件に上ることを示唆している。特許局が受理した申請を公表するまでに約18ヶ月かかることは、何の意味もない。

 ブロックチェーン特許申請に関して、18年はさらに実り多い年になるかもしれない。ブロックチェーンが現在最も話題の技術として、幅広く認知されるようになったためだ。事実、フォーチュン誌の情報源によれば、来年のブロックチェーン関連特許及び申請数は、全体で「約1245件と予測されている」。

 しかし、この分野におけるリーダーは、米国ではない。中国は17年中に、225件のブロックチェーン特許を申請しており(フィナンシャル・タイムズが引用する世界知的所有権機関のデータベースによれば、同年中に行なわれた全406件のブロックチェーン関連特許申請の半数)、世界の他の国を大幅に凌駕している。中国は特許取得を、国家的優先事項としているのだ。

TOP 10

時流に乗ろうとしている特許ゴロ

 bitcoinpatentreport.comが入手したデータによれば、国際的なブロックチェーン特許申請の大部分は、EITC(nChainに社名変更)、バンク・オブ・アメリカ、アリババ、コインプラグ、及びIBMにより行なわれている。

 おそらく一般読者にとっては5社の中で最も知らないであろうEITCは、ビットコインの発明者サトシ・ナカモトの偽物で、業界で物議を醸している人物、クレイグ・ライト氏の関連会社である。ライト氏は実際に使用する意図を持たずに特許を掻き集め、代わりに、事業で類似の技術が必要となるかもしれない企業に対し、巨額の特許料を要求しようとしていると言われている。米デジタルコマース協議会でブロックチェーン知的所有権評議会共同議長を務めるマーク・カウフマン氏は、フォーチュンに次のように話した。

「彼の戦術と活動は全て、特許主張団体、又は軽蔑を込めて特許ゴロと呼ばれる者の証である。彼の会社が持っている製品を、私は1つも知らない」

 事実、ブロックチェーンは、特許ゴロの新たな標的になってきた。起業家のエリック・スパンゲンベルグ氏は、技術特許に意義を申し立て、90年代に100万ドル(約1億1100万円)で購入した技術特許を1億5000万ドルに変えたことで、シリコンバレーでは軽蔑されている。そのスパンゲンベルグ氏が17年12月、フルタイムで働く20人の従業員と「コンサルタント」たちで構成される、IPweという名前の会社を作った。その目的は、「ブロックチェーン、人工知能、及び予測分析を適用して特許を改善」するためと、スパンゲンベルグ氏はCNBCへのコメントで述べている。同氏はさらに詳しく語った。

「はみ出し者のゴロ、マニア、おたくの集団がどのようにしてここに来たかは興味深いことだが、我々はそのような者たちに打ち勝ち、利益を上げようとしている」

 ボストン大学法学校で技術政策調査イニシアチブのエコノミスト兼事務局長を務めるジェームス・ベッセン氏は、「スパンゲンベルグ氏はうまいことやってきた」と、CNBCに話した。

 「ブロックチェーンのような新しい分野には、誰もが参入したがる。特許があまり存在しないからだ。また、元となるものもオープンソースだった」

 ソフトウェアが最初のブームを迎えていた時、さまざまなデジタル決済手法に多数の「クズ特許」が発行され、特許ゴロがソフトウェア業界に対する合法的な脅威であることが証明された。ゴロたちは、電子商取引を何らかの形で具現化した多くの企業に対し訴訟を起こし、裁判所は前者の味方をしたのだ。ベッセン氏は次のように指摘する。

「ゴロの中には、他人の弱みを食い物にする者たちがおり、数千通、時には数万通の手紙を送って、それぞれ数千ドルを要求した。そして多くの人たちが、その支払に応じた」

 幾分似ているのが、特許申請数の多い別の会社、バンク・オブ・アメリカだ。同社は、実際に使用する登録技術を持つことを優先しているようだ。バンク・オブ・アメリカのキャサリン・ベサント最高執行兼技術責任者はCNBCに対し、ブロックチェーン関連特許を持つことは、「どのように商業利用できるのかまだ分からない段階でも、自らの場所を確保しておくために非常に重要」と語った。特筆すべきは、バンク・オブ・アメリカが仮想通貨について肯定的ではないように見えることだ。例えば同銀行は5月、ビットコインを「厄介者」と呼び、顧客による仮想通貨の購入を禁止する決定をしている。

複雑な特許取得プロセス

 ベッセン氏によれば、USPTOの調査データベースを自ら確認したところ、17年末までに同局は、ビットコイン関連の特許265件、及びブロックチェーン関連の特許53件を与えており、最初のブロックチェーン特許が取得されたのは15年4月だったという。

 そのように、特許の取得は時間のかかるプロセスである。ウォールストリート・ジャーナルが書いているように、特許局は「受理後最長18ヶ月で申請内容を公表し、特許保護を与えるか決定するための審査には数年かかる場合もある」。ブルームバーグも同様の時間枠を引き合いに出し、バンク・オブ・アメリカによる、ある仮想通貨を別の仮想通貨に変換するための仮想通貨交換システムの特許申請を、例として挙げている。この特許申請は14年に提出され、15年に公表されて、17年に承認された。しかしブロックチェーン特許は、少なくともある程度は承認されている。例えば、バンク・オブ・アメリカは現時点で、2つの特許を持っていると言われる。

 それにも関わらず、ブロックチェーン特許申請の結果は、しばしば不明瞭である。拒否された申請の正確な数に関する情報はほとんど存在しないが、14年に米最高裁判所が、抽象的で新規性のないアイデアを扱うソフトウェアアプリは、既存の法律に基づき特許を受けることはできないとの判決を下した。その主な原因は、特許ゴロが引き起こした前述の失敗である。それ以来、ソフトウェア会社にとって、適格性試験を通過するのが大幅に手間のかかるものになった。

 また、ブロックチェーンの哲学にとってかつては極めて重要だった、そして潜在的な特許戦争を防ぐことのできたオープンソースモデルは、業界内であまり目立たなくなっているという。17年にデロイトとギットハブによって実施された、オープンソース ブロックチェーンの取組みに関する共同調査は、そのような実験の大部分が失敗だったことを示唆した。この調査報告書によれば、16年に2万6000件以上のオープンソース ブロックチェーン プロジェクトが開始されたものの、17年にもまだ活動しているプロジェクトは、その内のたった8%だったという。オープンソース ブロックチェーン プロジェクトの別の避難先となったR3コンソーシアムでは昨年、JPモルガンやゴールドマン・サックスなどの大手プレイヤーが脱退している。それでもなお、異なる例もある。例えばIBMは、リナックス財団が監督するオープンソース ブロックチェーンのフレームワークであるハイパーレッジャー プラットフォームを、国境を超えた決済からステーブルコインまで、その多くのブロックチェーン構想で利用している。