インドの税務当局は、仮想通貨を調査するために職員を密かに訓練している。税務当局内部のガイドブックでは、仮想通貨やその特性、および税務当局の調査方法について説明している。

インド政府は、仮想通貨を支払い手段としてとらえていないが、一方で完全に違法なわけでもない。したがって、インドの仮想通貨投資家は毎年の所得税の申告書にどのように仮想通貨投資の利益を書くのか頭を悩ませている状況だ。つまり、仮想通貨による収益は、インドの仮想通貨コミュニティの中ではグレーゾーンにある。

今年初め、所得税局は、一部の仮想通貨投資家に詳細な通知を送っている。過去3年間の所得税の申告状況、クレジットカードおよびデビットカードの取引、そしてビットコインやほかの仮想通貨への投資に関する詳細を情報提供するよう求めた。

通知の中には、合計26項目の質問事項が並んでいたが、そのうち21項目が仮想通貨関連だ。使っている仮想通貨取引所や仮想通貨ウォレットの種類、仮想通貨関連の有料サービスの利用などだ。たとえば以下のような質問があった。

  • ローカルビットコインからビットコインまたはほかの仮想通貨を現金もしくはピアツーピアのとr引きで購入・売却しているかどうか。
  • 自ら物理的な装置に投資するか、もしくはクラウドマイニングを通じてマイニングを行っているか。
  • 何らかの製品・サービスの対価としてビットコイン/過疎通貨を受け取ったか?以前の所得税申告でその収入について報告しているか。

2017年と18年にも、税務当局は数千人の仮想通貨投資家やトレーダーに通知を送っている。また主要な仮想通貨取引所を調査して、個々の仮想通貨トレーダーの情報を収集している。

税務当局で仮想通貨調査手法を訓練

それでは、これらの詳細な質問はどのように設計されているのか? 

その答えは、インドの直接税中央委員会が作成した「仮想通貨入門とビットコイン取引のフォレンジック調査について」というタイトルのガイドブックだ。これをもとにインドの税務当局は、仮想通貨関連の調査をするために職員の訓練を行っている。

Introduction to Crypto-currencies and Forensic Examination of Bitcoin

このガイドブックでは、最初の4つの章で仮想通貨、公開鍵暗号、ビットコインの基礎、マイニング、51%攻撃、ブロック報酬などについて解説している。ガイドブックの中では、仮想通貨は価値のデジタル表現であるが、どの法域においても法定通貨としての地位はないと説明している。

またこのガイドブックの中では、インドのビットコイン市場がここ数年で着実に成長していると述べている。複数の投資オプションを提供するウェブサイトがいくつかあると指摘しているほか、ソーシャルメディアカウントを介したダークウェブ上の取引もあると書いている。

ガイドブックによれば、インド全国でビットコインが取引できる297のアクティブな場所がある。これらの取引は追跡することができると、ガイドブックは述べている。仮想通貨と現金へのトランザクションは、計9408の都市で行われているという。

Introduction to Crypto-currencies and Forensic Examination of Bitcoin

偽アカウントを作成し、調査

関係者によると、インドの税務当局は、仮想通貨トレーダーを調査するためにいくつかの偽アカウントを作成しているという。ガイドブックの中でもこの手法について解説しており、ローカルビットコインのプラットフォームでトレーダーを調査する方法の実例を紹介している。

また税務当局は、 Blockexplorer.comやBlockchain.infoといったサイトを使っている。これらのツールは、公開台帳やブロックチェーン取引を追跡するための検索機能を提供している。これにより、ユーザーのIPアドレスを取得し、ユーザーの所在地に関する情報が得られるという。ガイドブックには、こういったブロックチェーン情報サイトでのビットコインアドレスの検索方法を詳細に説明している。

インドで2016年に行われた高額紙幣廃止とビットコインとの関係についても分析している。この高額紙幣廃止によって、人々がビットコインなどの仮想通貨に交換する動きがあったという。

証拠の収集

ビットコイン取引所や仲介業者などは、トレーダーの身元情報や取引情報、関連する銀行口座などの重要な証拠を集める情報源になる。税務当局は、このような取引プラットフォームを追跡し、ビットコインなどの仮想通貨取引をしている人々を発見しようとしている。

さらにブログやオンラインフォーラム、メッセンジャーアプリなどのソーシャルメディアプラットフォームも調査して、より多くの手がかりを得ようとしている。ガイドブックによると、仮想通貨ユーザーにはいくつかの特徴があると指摘している。

  • ハイテクに精通した個人。スマートフォン、タブレット、ラップトップなどのガジェットを活用
  • 18~40歳の年齢層が仮想通貨に投資する可能性が最も高い
  • プロゲーマー、もしくはオンラインゲームを長時間プレイしているゲーマー
  • 富裕層の個人

Introduction to Crypto-currencies and Forensic Examination of Bitcoin

またガイドブックでは、個人投資家、サービスプロバイダー、取引所、マイナーなどに対する法執行措置についても説明している。

仮想通貨の押収

ガイドブックの最も興味深い部分は、投資家が仮想通貨ウォレットで不規則な活動を発見した場合、当局が禁止命令を発効するべきだと述べているところだ。調査の結果、出所が不明な収入があるとわかった場合、取引所などの仲介者に対して、仮想通貨をインドルピーに交換するよう指示し、押収あsれる可能性がある。

もし仮想通貨がオンラインもしくはオフラインのウォレットにある場合

  • 秘密鍵が見つかった場合、仮想通貨をルピーに交換するよう求め、ルピーを押収することができる。
  • 秘密鍵が見つからず、調査対象者が協力的でない場合、権限のある当局者は対象者に禁止命令を出す必要がある。10BTCを所有していて、協力的でないと仮定する。当局はその10BTCをルピーに交換し、その価値に相当するほかの資産を押収することができる。

また税務当局は、押収した仮想通貨を保管するため、独自の仮想通貨ウォレットを持っているべきだとしている。

長期間の準備重ねる

2018年4月6日、インド準備銀行は国内の銀行に対して仮想通貨に関連する個人や企業にサービスを提供しないよう通知した。しかし、税務当局はその前から仮想通貨をターゲットにして準備を進めていた。

所得税局は、17年12月13日に印刷・出版関係で公開入札を通知した。その出版物のタイトルは「仮想通貨入門とビットコイン取引のフォレンジック調査について」だ。

Directorate of Income Tax

このガイドブックは、仮想通貨関連調査を訓練するためのものであったことから、税務当局は内容を公開しないことを決定した。2015年情報権利法を通じて、このガイドブックの存在について質問した際、当局はこの本が配布されていることは認めたが、コピーの提供は拒否した。

税務コンサルタント企業Quagmire Consultingの創業者、アノシュ・バシン氏は、ビットコインが過去10年間で生み出した価値の大きさを考えれば、世界中の税務当局が関心を集めているだろうと指摘する。同氏は「インドに関する限り、既存の直接税法は仮想通貨取引に完全に適用される」と述べ、これに沿ってインド人が所得税規制に順守するために仮想通貨を処理する必要があると語っている。

 

著者はインドの大手ビジネスメディアのジャーナリストと勤務している。今回のガイドブックは、彼の情報源を通じて入手することができた。