2023年3月の11日間で、米国の銀行4つとスイスの銀行1つが破綻した。ファースト・リパブリック銀行も5月に追随した。これまでに起こった最大の米国の銀行破綻の3つは、この2ヵ月間に発生した。銀行が大きなリスクを抱えており、その影響が他の業界に波及することを痛感させられた。

皮肉なことに、仮想通貨業界が伝統的な金融を脅かす存在だと主張されていたはずが、我々が直面したのは、銀行の破綻が仮想通貨業界に対する重要な安定性リスクとなった事態だった。

金融規制の目的は、何よりもまず金融安定性のリスクを緩和し、可能な限り伝染リスクを制限して更なる損害を防ぐことであり、伝染の方向性に関わらずそうあるべきだ。

現在、規制されたステーブルコイン発行者は、法定通貨を通じた発行と償還を果たすために銀行パートナーに頼ることを余儀なくされている。間接的な法定通貨決済へのアクセスは、欧州委員会が支払いサービス指令(PSD)の評価で指摘するように、欧州連合(EU)の電子マネー機関(ステーブルコイン、いわゆる電子マネートークンの将来の発行者)を過剰なコストとカウンターパーティリスクにさらす。結局のところ、これは決済市場におけるイノベーションと競争を制約していることになる。

したがって、規制された法定通貨ステーブルコイン(EU内の電子マネートークンや米国の決済ステーブルコイン)に中央銀行口座へのアクセスを許可することは、インターネット上の法定通貨の安全性だけでなく、大きな意味での決済イノベーションのための重要なステップとなるだろう。

これにより、発行者は保険未加入の預金に関連するリスクを排除し、ステーブルコインでの高速決済活動を銀行の貸出ポートフォリオの非流動性から分離することが可能となる。

EUでの画期的な暗号資産市場(MiCA)規制は、欧州に大きな機会をもたらす。しかし、これは、銀行リスクが顕在化する前の2022年6月末に合意されていたものだ。MiCA規制では、電子マネートークン(EMT)発行者がその準備金の少なくとも30%を信用機関に預けることを義務づけている。これは本来、EMT発行者の流動性とリスク露出を改善するための措置であったが、最終的にはEMT活動に銀行リスクとカウンターパーティリスクを負わせることになる。最近の銀行危機は、情報の流れがソーシャルメディア中心になり、銀行がモバイルベースになった時代に、不動産資産に裏打ちされた流動性負債についての私たちの仮定を変える必要があることを教えてくれた。

 

この問題への解決策は決して新しいものではない。EMT発行者、そしてすべての電子マネー機関は、中央銀行口座に直接アクセスできる能力を持つべきだ。中央銀行口座へのアクセスを提供することにより、EMT発行者は法定通貨資金を直接中央銀行に移すことで、EUの顧客を民間銀行の信用リスクから保護できる

英国では、電子マネー機関は2017年以来、イングランド銀行の決済レイヤーに直接アクセスできるようになった。これは「決済市場における競争とイノベーションを促進する」とし、「より多様な支払い状況を生み出し、単一障害店を少なくする」とイングランド銀行は指摘している。イングランド銀行の元総裁マーク・カーニー氏は、この措置を「決済の清算、期間変換の実施、リスクの共有、資本の配分といった銀行の中核機能への大きな解体をもたらす可能性がある」と述べている

しかし、EUでも、中央銀行で電子マネーの準備金を保護することは、すでに1つの加盟国、リトアニアで一般的に行われている。リトアニア中央銀行は、電子マネー機関と決済機関に決済口座を開設し、決済システムへ直接アクセスすることを許可している。2022年末時点で、リトアニアで規制された電子マネー機関84件のうち、63%が顧客資金を中央銀行に預けている。全体として、リトアニアの電子マネー準備金の三分の二以上がリトアニア中央銀行に預けられている。

今こそ、全てのEU各国の電子マネー機関に対してこの可能性を開放し、競争の場を公平にする時である

これを実現するための立法の機会は今まで以上に大きい。必要なのは、決済ファイナリティ指令の対象となるレビュー、もしくはPSDまたは即時支払い規制(IPR)のレビューだ。

IPRの交渉は既に、このようなレビューが必要であり、決済への直接アクセスを解決することが、EU内での即時支払いの展開を支援し、加速させることにもつながるという政治的な合意を形成している。

PSDの評価は、決済市場における銀行とノンバンク間の競争環境を公平にする必要性については明確だ。2023年の銀行の脆弱性は、既に理解されているEUの議論に追加的な論拠を提供する。

ノンバンク金融機関の安全性と流動性への恩恵は明らかであり、また、世界的に重要な銀行の間でますます集中化している金融システムにおける大きなイノベーションにもつながる。電子マネー機関に中央銀行口座へのアクセスを許可することは、これらの課題を解決するための明確な方法の1つだ。EUはその金融システムをより競争力のある、レジリエントなものにするためのこの一世一代の機会を逃すべきではない。

パトリック・ハンセン氏(Patrick Hansen)は、サークルのEU戦略および政策のディレクターだ。彼は以前、仮想通貨ウォレットのスタートアップUnstoppable Financeの戦略・事業開発の責任者、そして欧州最大のテクノロジー業界団体Bitkomのブロックチェーン政策の責任者であった。彼は、ビジネスと政治学の修士号を取得している。

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