著者 中村 孝也(なかむら たかや)Fisco 取締役(情報配信事業本部長・アナリスト)
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、(仮想・暗号)通貨などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。
(出典:Zaif「ビットコイン/円」)
ビットコイン テクニカル
ビットコイン価格は、115万円から46.5万円の下げ幅の半値戻し(80.7万円)を明確に突破し、90万円強となる「抵抗線A」も上方にブレイク、一時100.9万円まで上昇した。テクニカル的には「抵抗線B」115万円までの全値戻しも視野に入るということになる。
一方、ここで跳ね返されるようであれば、従前の抵抗線であった90万円強となる「抵抗線A」から80万円強までのボックス推移、もしくは90万円強となる「抵抗線A」から70万円強となる「抵抗線1」とのボックスになる。
半減期の影響なのか、過剰流動性相場の前触れなのかは、判然としない。半減期の影響なのであれば、前回より遥かに遅い上昇ということになる。ざっくり計算するとであるが、半減期を意識した値動きは過去、安値から2~3倍という数値が意識されたということになる。今回はどこを安値とするかが難しいところだが、年初の安値で約80万円、3月の安値で約46万円である。後者を元に計算すると、90万円強~135万円近辺となる。「抵抗線B」115万円、従前の抵抗線であった90万円強、いずれも良い値段である。
過剰流動性相場の前触れという説はどうだろうか。足もとのビットコイン価格は株価に1~2週間先行して上げ下げしていることは事実であり、ビットコインにやや遅れて株価も堅調推移となっている。大恐慌時において米国株価指数の下落第一波からの戻りは約50%であるが、足もとNYダウは当該数値を上回り、日経平均も当該数値並みまで回復した。ただ、ビットコインのようにテクニカル的に全値戻しと言われても、現在の経済情勢と先の見えなさを考慮すれば、株価が元に戻る(全値戻し)という違和感を、まだ受け止められないことも事実だろう。
ファンダメンタルズ
中国から感染が拡大した新型コロナウイルスだが、日韓にも拡がり、今では欧米が感染拡大の中心地になっている。東アジアにととまらず、全世界的にヒトやモノの流れが遮断されたと格好だ。1ヵ国の感染が沈静化しても、他国からの再流入があり、抑え込みは簡単ではない。グローバルに張り巡らされたサプライチェーンは大きく寸断され、そしてその寸断も早くて数ヶ月、1年単位で続くと考え、行動する必要が出てきている。 企業業績への影響も大きいものがある。日本の上場企業で利益額の多い企業の中にはトヨタ、ソニー、日立製作所、本田技研工業などグローバルに部品を調達し、そして製品を販売している企業が多くある。
サプライチェーンに関わる企業のみならず、新型コロナウイルス対策によって、観光、小売、外食、旅客運送業界などが深刻な影響を受けていると報道されている。航空業界コンサルティング会社のCAPA航空センターは、運航停止や搭乗客の大幅な減少で多くの航空会社の手元資金が急速に枯渇しつつあり、5月末までに経営破綻に追い込まれる可能性に警鐘を鳴らしている。航空各社では、減便、無給休暇などリストラの動きが急ピッチで進められている。国際航空運送協会(IATA)は、新型コロナウイルスの影響により、世界で1,130億ドル(11.3兆円)の需要が失われると試算している。ANAホールディングス、日本航空の売上高合計が約3.5兆円であり、その影響の大きさがうかがえる。イタリアでは生活に必須でない工場や事務所が原則として全て閉鎖され、北米では自動車の生産休止が一斉に発表された。3月末にかけてアメリカでの自動車生産は約8割減るという見方もある。中国の生産が復調してきたとしても、欧米休止の影響をカバーできないだろう。中国においても再感染を警戒しなければならない状況にあり、すぐさまフル生産という訳に行かない。グローバルな販売が通年で3割程度の水準ということになれば、トヨタ、ホンダとも数兆円規模の営業赤字に転落する可能性もある。
新型コロナウイルスでヒトとモノの流れが止まった今年2~3月のような状況が1年続いたとしたら、日本の上場企業全体としても数兆円の赤字の赤字になろう(前期は約30兆円の黒字)。雇用不安が高まれば、内需企業にも影響がおよび、消費の減退が企業業績の悪化を招くバッドサイクルが循環し始める。その時点で日本の上場企業の赤字は数十兆円になる。企業の倒産が相次げば金融システムの破壊も進み、リーマン・ショックをはるかに上回る事態に陥ることになる。日本の上場企業の赤字は100兆円に迫るかもしれない。 日本の上場企業の純資産は約550兆円。PBR1倍となる株式時価総額550兆円は、日経平均にして2万円くらいの水準をイメージして頂ければ良い。日本企業の赤字が50兆円だとして、赤字額を差し引いてPBR1倍となる株式時価総額500兆円は、日経平均にして1.8万円。リーマン・ショック当時のPBRは0.8~0.9倍程度であり、日経平均で1.4万~1.6万円程度を下値のめどとして考える必要がある。日本企業の赤字が100兆円だと、日経平均で1.3万~1.4万円。それが2年続いたらどうだろうか。日経平均で0.8万~1.2万円になる。秋に新型コロナウイルスが再燃し、再びパンデミックとなったら、そのようなところまで織り込むことも想定しておく必要がある。
既に世界はその影響に身構えており、株価は大幅に調整している。世界的な量的緩和、財政出動も観測されおり、アメリカは2兆ドルと過去最大の経済対策で与野党が合意した。日本も100兆円を超える経済対策を用意する見込みだ。株価は一時的にリバウンドしており、ビットコインにもプラスとなる環境である。
ただし、新型コロナウイルスの感染拡大がどの程度となり、現状の金融・財政政策で足りるのかということは見極める必要がある。まだそれが分からない状況下においては、影響が長期に及び、株価も一段安が見込まれると見られてしまうだろう。足もとのビットコイン価格は株式市場に連動していた。ビットコイン価格には危機がプラスに働く訳でなく、危機による流動性の大幅な供給、それによる市場の落ち着きと過剰流動性相場が価格にプラスへ働くということなのだろう。この点、株価が一段安となれば、ビットコイン価格も影響を受けることが予想される。マーケットの波乱で相対的にリスク逃避的な資金がビットコイン相場に流入し、その後の過剰流動性がビットコイン相場を更に押し上げることになるのは、新型コロナウイルスの感染拡大の歯止めに、ある程度のめどが立った時期の後である
ファンダメンタルズ2
BTC半減期について前回は、2016年1月から5月下旬まで、BTC価格は350ドルから450ドル水準でもみ合いが続いていたが、5月27日以降に出来高を伴い上昇。6月13日に700ドル台に到達した後、瞬間的には777ドル(18日)まで上昇した。半減期を迎えた7月9日以降は10月中旬まで600ドル前後で推移したが、10月下旬辺りから出来高が増加してじりじりと上昇し、2017年1月1日には1,000ドル台に到達した。
半減期を織り込む動きは過去、今回のように直前でなく2~3ヶ月前となることが多い。実際に2月は年初来高値115万円を付けている。ただし、年初の安値から比べて4割程度の上昇にとどまり、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界的な株価急落に先行する形で調整した。
ざっくり計算するとであるが、半減期を意識した値動きは過去、安値から2~3倍という数値が意識されたということになる。今回はどこを安値とするかが難しいところだが、年初の安値で約80万円、3月の安値で約46万円である。