マネックスグループの松本大CEOは、コインテレグラフ日本版のインタビューに答え、4月にマネックスグループ入りした仮想通貨取引所コインチェックとマネックス証券との相乗効果について言及し、「個人投資家をアクティビストにする」という野望を語った。また、今後の仮想通貨業界の見通しについても触れ、トレンドの一つであるステーブルコインの普及について一筋縄ではいかないという見解を示した。
一筋縄ではいかないステーブルコイン
ボラティリティの高いビットコインなどの仮想通貨とは異なり、法定通貨との1対1と連動させることなどで安定した価値の提供を目指すステーブルコイン。最近、ステーブルコインの代表格であるテザーが信用問題で支配力を失いつつある中、ジェミナイ・ドル(GUSD)やパクソス・スタンダード(PAX)など新たなステーブルコインが次々に誕生している。11月のオンチェーンでの取引高は、9月と比べて1032%増加したというレポートが出たほか、大手仮想通貨取引所バイナンスも「ステーブルコインマーケット」という区分を新たに設けるなど、受け入れの準備を着々と進めている。こうしたトレンドについて、「2017年はICOの年だったが、2018年はステーブルコインの年だ」という見方も出ている。
松本CEOは、ステーブルコインの可能性を認めつつ、その普及は一筋縄ではいかないと指摘。とりわけ、ステーブルコインは銀行を通さないで決済することが可能なので、お金の流れを国が把握できなくなるとし、各国の政府にとっては税制面で仮想通貨より厄介な存在になるかもしれないと解説した。
「いわゆるKYC(顧客確認)に関しては、ステーブルコインもビットコインも同じだと思う。ただステーブルコインは、ボラティリティ(価格の変動率)がなくなるのでお金として使われるようになる。そうすると贈与とかに使われるようになる。これは国にとっては大問題だ。トランザクション・タックス、つまり消費税とか贈与税とかが取れなくなるのは大問題なので、今後、議論になるだろう」
現在、税制面で問題になっているのは、ボラティリティの高い仮想通貨で儲けた投機家に税金をかけそびれること。ただ「それは無かったものが生まれた話であり、税収が減る話ではない」。しかし、消費税や贈与税、相続税が取れなくなると「税収が減る」ことになる。
映画や音楽、書籍などに加えて3Dプリンター用の設計図など、今後も拡大を続けるデジタルコンテンツの市場。各国の政府は、NDC(ナショナル・デジタル・キャッシュ)を開発してステーブルコインに対抗するかもしれないと松本氏はみている。
(今後の仮想通貨業界について語るマネックスグループの松本大CEO)
ただ松本氏は、上から一方的に規制することが解決策にはならないだろうと指摘。「体制側とデジタル・コミュニティー側で一緒に考えていかなければならない」と話した。
例えば、インターネットのプロトコルは、政府が決めているわけではなく、ICANN(アイカン)などのエンジニアや学者集団であることを例に挙げた。ICANNは、インターネットのドメイン名やIPアドレスなどを管理する米国の非営利団体だ。同氏は、仮想通貨のルールづくりも各国の政府がバラバラのことをやるのではなく、ICANNのようなグローバルなコミュニティーが、自己規律していくのが最終的な形だろうとみている。税制面の課題も、「インフラを守る上で薄くタックスし社会に還元する」仕組みを作ることで、解決されるのではないかと予想した。
仮想通貨のイメージ刷新に必要なことは?
国内における仮想通貨のイメージは悪くなるばかりだ。1月にコインチェック、9月にZAIFで巨額ハッキング事件が発生し「仮想通貨=危険」というイメージがついた他、最高値から80%以上も下落したビットコインについては「もう終わりだ」という声が聞かれる。また今年の流行語大賞では、なぜか「仮想通貨/ダークウェブ」がセットで候補に選ばれた。
こうした現状を打破するためにはどうすれば良いのだろうか?松本氏はトレーディングの対象としての仮想通貨ではなく、実際の社会で有用な使われ方をするトークンやコインが出てきて、それが『実は仮想通貨なんですよ』という展開がないといけないと予想した。
「例えば、マーケティング用にコカ・コーラ社によって「コーク・コイン」が配られて、もらった人はコンビニやレストランでコーラが買える。コーラ以外に綾鷹などコカ・コーラ社の製品は買えるが、ペプシは買えない。一方、コインを受け取った店舗側は、そのコインでコカ・コーラ社の製品しか仕入れられない」
また松本氏は、政府などによる中抜きが問題となっている貧困国に対する寄付の現状にも言及。ブロックチェーン技術によって、資金の流れの透明性を担保し、寄付をしたい人に直接渡せるような仕組み作りも、社会的に有用な例の一つにあげた。このように社会にとってプラスとなるような実例が出現し、振り返ってみると仮想通貨やブロックチェーン技術だったという流れになることで、仮想通貨のイメージが変わるのではないかと松本氏は考えている。
マネックス証券×コインチェック 松本CEOの野望とは?
マネックスグループは12日、都内でメディア向け事業説明会を開催。松本氏は、米国事業、クリプト事業、日本事業について次のように説明した。
「USとクリプト事業が大変絶好調、あるいは大きな期待があるという中で、日本に関しましては残念ながらマーケットがなかなか拡大していかない」
「資本市場が常にしっかりしていて、色んなことが起きてもすぐに戻る」米国市場でのビジネスは、「絶好調」。仮想通貨ビジネスも、仮想通貨のトレーディングの他、「新しい資産クラスとしての仮想通貨、新しいペイメントとしての仮想通貨、新しいデータベースとしてのブロックチェーン技術の展開など多くのビジネス機会がある」。しかし、マネックスにとって「屋台骨」である日本でのビジネスには「逆風が吹いている」状況だという。
「逆風」の日本市場に対して、今後どのような姿勢で臨むのだろうか?また、コインチェックから入ってくる仮想通貨投資家は、どのように関わってくるのだろうか?松本氏に聞いた。
松本氏によると、新規口座の開設のペースで、実はコインチェックの方がマネックスをわずかに上回っている。コインチェックに関しては、全く宣伝していないにもかかわらずだ。またコインチェックは、金融庁に交換業者として登録を完了しておらず、「みなし業者」の状態が続いている。仮にコインチェックが金融庁に正式に登録されれば、伸び代はまだありそうだ。
さらに、マネックス証券のメインユーザーが40代や50代である一方、コインチェックの抱える170万人のユーザーの中心は20代から30代と若者が中心。松本氏には若い投資家を仮想通貨だけでなく株式の世界に引き込みたいという狙いがある。
そんな松本氏が一つの目標に掲げたのは、「個人投資家をアクティビストにする」ことだ。コインチェックから若い仮想通貨投資家が入ってくることについて、松本氏は「仮想通貨一辺倒でいいのか?」「分散投資もあるぞ?」というテクニカル面での教育だけでなく、株主になることの意義を啓蒙する機会と捉えている。
「株式って単なる値ざや取りじゃないんですよ。株は本来、会社の株主であり議決権があり会社に対して意見が言える。しかし仮想通貨はそうではない。(中略)仮想通貨から入ってきた人に、『株式っていうのは株主になることなんですよ』とちゃんと啓蒙活動していかないとだめだと思う。日本株がだめなのはそこがなっていない。いつまで経っても、株主に対するリスペクトが足りない」
資本市場の主役は個人投資家であると考える松本氏。昔、英国のサッチャー元首相がブリティッシュ・テレコムの民営化をした際、資本主義を生んだイギリス国民に資本主義を忘れさせないように電話代の請求書に切り取り線のような形でBT株の売り出しを行なった例をあげた。対照的に日本はそもそも「株式資本主義的な感覚は低い」。それにもかかわらずサッチャーのような啓蒙活動がされておらず、株投資は怖いものというイメージが先行。「貯蓄から投資」への移行は進まず、国民が株投資から遠ざかってしまっているのが現状だ。
「(資本主義が)行きすぎちゃった国がやるなら分かるんですけどね…。日本はそもそも株式カルチャーがない。まずはそれを広めないとだめですよね。そうしないと日銀ばかりが株を買っちゃって…」
(株投資の真髄について語るマネックスグループの松本大CEO)
啓蒙活動を通じて自立した個人投資家に対して松本氏が期待することの一つは、会社のチェック機能の強化だ。
「アクティビストっているじゃないですか?香港とかに。そうではなく、個人がもっとアクティビスト的に会社に対して『何やっているんだ』と言った方が良い」
松本氏は、例えば東芝の粉飾決算やオリンパス事件の際も、最初に問題に気づいたのは個人投資家であって機関投資家ではなかったと指摘した。
「個人の目の方が絶対しっかりしてるんですから。(中略)機関投資家もやっているのは個人なので。そうしたら1人の個人と100万人の個人だったら、100万人の目の方がはるかにいろんなものを見つけるんですよ」
コインチェックの金融庁登録に向けた機運が高まりそうな来年。12日の説明会でコインチェックの勝屋敏彦社長が「来年は決済や送金手段としての仮想通貨のニーズが高まるだろう」という見通しを語っていたが、コインチェック発で社会的に有用な仮想通貨の使われ方が登場する可能性があるだろう。そして、コインチェックをきっかけに仮想通貨投資を始める若者をアクティビストにする啓蒙活動。来年、松本氏の野望が本格的に動き出すかもしれない。
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— コインテレグラフ⚡仮想通貨ニュース (@JpCointelegraph) 2018年10月31日
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