著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。世界最大級のDEXであるdYdXのガバナンスをサポートしている。

2023年も終わりに近づき、多くのリサーチ機関がその年の振り返りと2024年の展望に関するレポートを発表しています。これらのレポートは、ソラナの復活や、MonolithicなL1チェーンがL2一辺倒のナラティブを変える可能性、米国の大統領選での上院の議席数の重要性、ビットコインETFを含む次の相場のテーマなど、様々な視点から分析を行っています。中でも、「DAO(自律分散型組織)」はMessariやa16zなどのリサーチに長けた米企業が注目する分野の一つです。特筆すべき点は、これら米企業のDAOへの注目の仕方が日本とは大きく異なることです。すなわち、彼らは「DAOとは一体何なのか?」という概念レベルでの整理に注力しており、「民主主義でもコーポレートガバナンスの枠組みでもない、DAOのユニークさ」に正面から直面しています。

MessariのCEO、ライアン・セルキス氏は、彼の年間報告「Crypto Theses for 2024」で、DAOが伝統的なコーポレートガバナンスの枠組みには収まらない可能性を提起しています。DAOは設立が早く、安価で、管理や資金援助、Exit、清算が容易ですが、規制面では国境を越える性質があり、管轄が曖昧で、規制のアービトラージが存在します。また、プロトコルの合併など、新たなコーポレートアクションの可能性も指摘しています。

一方でa16zは、DAOのデザインにマキャベリ的なアプローチが必要と論じています。彼らは、知識量と自由時間の不均等分配、コーディネーションの欠落、リーダーの不在といった問題を指摘し、直接民主主義的なデザインではなく少数の意思決定リーダーが必要かもしれないと提案しています。権力のチェック体制についての概念レベルでの議論も始まっているのです。

さらに、MetagovのEllie Rennie教授は、DAOやバリデーター文脈のGovernatorsの統治が民主主義やコーポレートガバナンスと異なるシステムをもたらす可能性について言及しています。

「理論的には、もしGovernatorsが成立するのであれば、そこには民主主義と小ーポレートガバナンスの双方から異なるシステムを見出すことができるだろう。」

これらの分析から、DAOはまだテスト段階にあり、そのユニークな特徴や従来のガバナンスモデルでは語れない点を明らかにするための実験が続いています。日本においては、会社法やコーポレートガバナンスの文脈でDAOを理解しようとするのは時期尚早かもしれません。

トレジャリーデータ

DeepDAOによると、12月25日時点でDAOトレジャリーの総額は290億ドルと前週比で19.34%増加した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が253億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が40億ドルだった。

ガバナンストークン保有者は970万人で、アクティブDAOユーザーは290万人だった。

※ 上記はdYdX Community JapanのWeekly DAO Reportを要約・編集したものです。