著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。

「Decentralization(分散化)とは『Direction(方向性)』の話であって『Destination(目的地)』の話ではない」

4月に開催されたDAO Tokyoのとあるパネルディスカッションで印象に残った言葉だ。どこかに分散化という最終形態が存在するのではなく、常に分散化というベクトルで物事を進めていくことが求められている。完璧な分散化の状態は現時点では存在せず、未来永劫存在しないかもしれないが、その方向性は見失っては行けない。

先週、Trustless(トラストレス, 信頼しなくて良い状態)の文脈で上記の議論を思い出す出来事があった。ハードウェアウォレットのLedgerの騒動だ。

Ledgerを購入すれば、自分が秘密鍵を管理して自分の資産を自分のみが管理できる。その過程で誰も信頼(トラスト)しなくて良い。Ledger社でさえ自分の秘密鍵に手出しはできない。上記のように信じていたLedgerユーザーは多かったのだろう。

先週Ledgerは、Recoverという秘密鍵を暗号化された3つのシャードに分解して3つの異なる外部組織に預かってもらうという新たなプロダクトを導入した。Recoverはオプショナルであり、使いたくない人は使わなくてもいい。

しかし多くの人々が不安視したのは、ファームウェアのアップデート時にRecoverのオプションを追加することで、Recover の利用者じゃなくても秘密鍵が(たとえ暗号化されているとは言え)外部に送られてしまう余地を作ったのではないかというセキュリティ面での懸念だろう。そして議論は今、そもそもLedgerは、仮に悪意を持てば、利用者の秘密鍵を外に出せるようにファームウェアをアップデートできるのか?という展開になり、Ledgerの答えは、今も昔も変わらずという前置きで「Yes」だった。

クリプトのモットーは、「Don't Trust, Verify」だ。中央集権的な組織に左右されず、他の誰も信頼しなくて済むことはクリプト民にとって最上級の是だ。Ledgerはそんな原理原則の最大の味方だったはずだ・・・。多くのクリプトユーザーが裏切られたと感じても不思議ではない。

LedgerのCTOであるCharles Guillemetは、「Ledgerのことを少しは信頼する必要がある」釈明。また、Ledger共同創業者で元CEOのÉric Larchevêqueは、Ledgerのコミュニケーションで大きな問題があったとした上で、以下のように述べた

「人々はLedgerがトラストレスな解決策だと思っていたようだが、それは真実ではない。いくぶんかの信頼はLedgerに置かれなければならない。Ledgerを信頼しない、つまり悪意あるハードウェア製造者と認識するのであれば、Ledgerは使うべきではない」

たとえLedgerであろうと完璧なトラストレスを実現するのは不可能であり、何かしらのトラストが必要になるということだ。

次の5億人への普及に向けて

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