今月20日、ブロックチェーン関連のセキュリティ情報収集・分析を行うNeutrino(ニュートリノ)を買収したコインベースに対する風当たりが強くなっている。ニュートリノのCEOをはじめ幹部が悪名高い「ハッキング・チーム」のメンバーだったことが明らかになり、コインベースに対する規制当局の見方が悪くなるという懸念や評判が悪くなるという声が米メディアを中心に上がっている。仮想通貨業界からは「コインベースでの取引をやめよう」と呼びかけるインフルエンサーも出てきている。

「ハッキング・チーム」

コインベースのニュートリノ買収後、すぐにニュートリノ幹部連の経歴について気づいたのがアナリストのアルジュン・バラージ氏だ。

「参考までに、ニュートリノのCEOであるジャンカルロ・ラッソ氏はハッキング・チームの元COO(最高執行責任者)だ」と述べたあと、ウィキペディアのリンクを貼り付け、ハッキング・チームについて「攻撃的な立ち入りや監視能力を政府や法執行機関、企業に売っていた」と紹介した。

一体、ハッキング・チームは何をしてきたのか?様々な疑惑が明らかになってきた。

仮想通貨メディアBreakermagによると、ハッキング・チームはもとも犯罪やテロと戦うための監視ツールの開発企業。しかし、バーレーンやカザフスタン、スーダンなど世界の弾圧的な国が彼らのツールを使ってジャーナリストや活動家、反体制派を弾圧してきたことでも知られているそうだ。

例えば、ハッキング・チームは、サウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏をトルコのサウジアラジア総領事館内で殺害したとされるサウジの政府機関と一緒に働いたことがあると報じられた他、ハッキング・チームが開発したソフトウェアがエチオピアの反体制派監視のために使われていたことなどが報告されているそうだ。

また、国境なき記者団 (RSF)は、2013年「インターネットの敵 企業トップ5」にハッキング・チームを選出した

コインベースが買収したニュートリノのCEOは、このように悪名高いハッキング・チームの元COOであるほか、ニュートリノのCTOや他の幹部もハッキング・チームのメンバーだったという。

Breakermagによると、コインベースはこの件に関して「ニュートリノの共同創業者が以前ハッキング・チームで働いていたことは知っている」と回答。ただ、ニュートリノがもたらすセキュリティ対策やリスク管理を評価していると強調した。

Breakermagは、元ハッキング・チームの面々を獲得することは、コインベースに「弾圧的な政権に協力する余地があること」を示唆し、仮想通貨が掲げる個人の自由、反検閲などが基本的な価値に反するのではないかと批判している。

また、仮想通貨業界のインフルエンサーの中からは、ニュートリノは政府にビットコイナーの追跡をさせるのではないかという懸念の声も出ている

相次ぐ幹部退社

ニュートリノ買収の直前、コインベースから相次いで経営幹部が退社したと報じられた

The informationによれば、昨年11月から今年1月までに少なくとも3人の幹部が退社。そのうち2人は、コンプライアンス担当だったマイケル・ロジャー氏とマネーロンダリング対策専門家のワデーハ・ジャクソン氏。「元ハッキング・チーム」というニュートリノ幹部の経歴について、敏感に反応しそうな役職の人々だ。

また3人が退社する前の昨年11月には、規制問題に対応していたマイク・レンプレス氏が、投資会社アンドリーセン・ホロウィッツに移籍したと報じられた。

米国最大の仮想通貨取引所と言われるコインベース 。ブライアン・アームストロングCEOは昨年9月、仮想通貨版のニューヨーク証券取引所を目指すという野心を語っていた。日本進出も視野に入れており、「2019年中にライセンスを取得する」と当時の幹部が自信を見せていた

自由や匿名性を大切にする仮想通貨のコアファンに対する裏切り…今回のニュートリノ買収がそのように解釈されてしまえば、コインベースが失うものは大きいかもしれない。