日銀の黒田東彦総裁は、フェイスブックが主導する仮想通貨リブラなどのグローバルステーブルコインが金融版の「共有地(コモンズ)の悲劇」を招く懸念があると指摘した。

黒田総裁は4日に金融情報システムセンター(FISC)の講演でステーブルコインについて語った。

黒田総裁はグローバルステーブルコイン(GSC)について、「法的な明確性や技術の安定性が確保されれば、多くの人が利用する便利な決済手段になり得る」と評価する一方で、マネーロンダリング(資金洗浄)やサイバーリスク、データ保護、消費者・投資家保護など様々な課題が解決される必要があると語った。

また金融の安定は「公共財」であると強調。グローバルステーブルコインが、各国の中央銀行や規制当局が構築している金融安定性を「過剰に消費する」懸念があると、釘を刺した。

「もし、グローバルステーブルコインの発行体が、国際金融の安定という公共財を過剰に消費すると――すなわち、発行体のリスク管理能力を超えて、業容を大幅に拡大させると――、リスクが顕在化したときに、急激な資本移動を誘発するなど、国際金融市場にストレスを及ぼす

さらに、グローバルステーブルコインの取引規模が拡大すれば、金融安定性という「公共財」が「共有資源」に変容すると指摘し、金融版の「共有地の悲劇をもたらす可能性がある」と警鐘を鳴らす。

「公共財の過剰消費によって、ステーブルコインの取引規模が拡大し、各国の法定通貨を代替するようになれば――すなわち、法定通貨とは異なる独自の通貨建ての取引が増えれば――、中央銀行の金融政策の波及効果が弱まります。そして、金融政策の効果が弱まれば、金融や通貨価値の安定という公共財の供給に支障を来すようになりますので、公共財を活用したステーブルコインの価値が不安定化するだけではなく、多くの経済主体の活動に負の影響が及ぶことになります。これは、金融版『共有地の悲劇』と言ってよいでしょう」

「CBDCは国民が求めていない」

CBDCについては、金融安定を目指す当局として、リテール決済の拡大を図るという側面で「非常に重要なテーマ」と強調した。

ただ、その中でも「現金流通高がなお増加していますので、現状、中銀デジタル通貨の発行を国民が求めているとは考えられない」と発言した。今後必要性が高まった場合に対応できるよう、引き続き調査研究を進めると述べた。