ここ数週間において、伝統的な金融業界から仮想通貨ベースの上場投資信託(ETF)に対する関心が急増している。ブラックロックはビットコインETFの新しい申請を提出し、フィデリティがビットコインベースのETFの申請をSECに提出するとの報道も出た。一方、HSBCは香港の顧客にビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)のETFを提供する最初の銀行となった

ビットコインの文脈では、一見するとポジティブなニュースが長期的には有害となり、逆に短期的なネガティブなニュースがビットコインの長期的な推進力を強化することがよくある。その代表例としては、2017年の「ブロックサイズ戦争」が挙げられる。当時、ビットコインコミュニティは、ビットコインキャッシュのフォークを発表したビッグブロック派と、ビットコインにセグウィット(Segregated Witness)のアップグレードを実施したスモールブロック派に分裂した。

結果として短期間では混乱したが、ビットコイン批判派たちがビットコインの墓の上で踊りたがった一方、分散型コンセンサスについての最も重要な教訓の一つとなり、現在我々が享受しているレイヤード・スケーリング、すなわちライトニングネットワークへの道を開いた。

良いニュースが悪影響を及ぼす例としては、あまり過去に遡る必要はない。2022年末までは、FTXがスーパーボウルの広告、スタジアムの命名権、有名雑誌の特集などを通じて、仮想通貨がメインストリームになる代表例とされていた。しかし最終的に、FTXは時限爆弾であることが判明し、全員の目の前で爆発し、業界の信頼性を何年も後退させた。

そして再び同様の事が起き、一見悪いニュースであるFTXの崩壊と、その利用者たちが多額のお金を失うという事態が、長期的にはポジティブとなるだろう。なぜなら、人々は今後自分のビットコインをより大切に扱うようになり、大規模な保管業者の崩壊によるシテミックリスクに備えるようになるからだ。

偽物を回避せよ

FTXの崩壊とその後の市場への影響を見ると、中央集権型の取引所は、ビットコインの膨大な可能性から恩恵を受けようとする一般の投資家にとって答えではなかった。ETFも同様だ。ビットコイン連動型のETFは、中央集権型の取引所よりもさらに悪いアイデアであり、基礎となる原資産、つまりビットコインを引き出す可能性がゼロだからだ。これは、ホルダーが誰も信用せずに自分の資金を管理するビットコインの最も重要な機能を活用することができないという意味だ。

市場全体にとっても危険が存在する。ETFの場合、「ペーパービットコイン」、つまり実際のビットコインに裏打ちされていない所有権が、市場を歪め、ビットコインの通貨政策を脅かすリスクがある。過去にペーパービットコインを発行した取引所、たとえばFTXなどは、出金ラッシュと最終的な崩壊によって制限され、その後、偽のビットコイン所有権が不幸な取引所とともに無に帰された。

しかし、ETFの場合、そうはならない可能性が高い。原資産を引き出す可能性がないため、ペーパービットコインは自由に印刷することが可能だ。もしビットコインのETFがビットコインへの投資の主要な方法となった場合、ビットコインの価格を抑制する数百万のペーパービットコインが市場に溢れる可能性がある。

ビットコインは保有こそが所有権

ビットコインの文脈では、所有権は特定のビットコインアドレスに関連する暗号鍵の制御と非常に密接に関連している。確かに、取引所のアカウントを所有していたり、ETFの株式を保有していたりすることで、直接的に鍵を制御せずにビットコインを法的に所有することが可能かもしれない。しかし、ビットコインの世界では、それは良いアイデアではない。

ビットコインのデジタル性、完璧な携帯性、世界的な流動性は、特に横領、盗難、または基本的な管理ミスに対して影響を受けやすくなっている。ビットコインを真に所有する唯一の方法は、鍵を制御することだ。

一部の人々は、主要なビットコインETF(例えばブラックロックのもの)の承認に伴う短期的な価格上昇を歓迎するかもしれないが、ビットコインの普及への長期的な影響は、おそらく否定的なものとなるだろう(ビットコインの長期的な価格を含む)。実際に問題となるのはセルフカストディの普及であり、それ以外のものは全て罠である。

ヨーゼフ・テテク氏(Josef Tetek)はTrezorのビットコインアナリストだ。長年のビットコイナーであり、オーストリア学派の経済学・政治哲学の背景を持つ彼は、2010年にルートヴィヒ・フォン・ミーゼス研究所を創設した。彼は『ビットコイン:貨幣と国家の分離(Bitcoin: Separation of Money and State)』など2冊の本の著者である。

本記事の見識や解釈は著者によるものであり、コインテレグラフの見解を反映するものとは限りません。この記事には投資助言や推奨事項は含まれていません。すべての投資や取引にはリスクが伴い、読者は自分でリサーチを行って決定してください。.