機関投資家向け仮想通貨カストディ(資産保管)サービスを手がけるアンカレッジ(Anchorage)が、米通貨監督庁(OCC)から米連邦信託銀行として条件付き認可を取得し国法銀行となった。これにより顧客である米銀行に対して暗号資産の保管・信託業務を本格的に提供できることになる。OCCは米財務省傘下の機関であり、連邦法で免許を取得した銀行を監督する機関。米国では仮想通貨取引所クラーケンが州レベルの銀行設立認可を取得していたが、OCCからの米連邦信託銀行としての認可取得は、暗号資産関連企業としては初となる。
2017年創業のアンカレッジはサンフランシスコに本拠を置くスタートアップで、ビットコインをはじめとする様々な仮想通貨を機関投資家向けに保管する事業を展開する。米オンライン決済大手のスクウェアでセキュリティ業務に携わった開発者が立ち上げたベンチャー企業だ。2019年にはVISAが主要株主となったことで注目された。また同社にはネットスケープ開発等で有名なベンチャー投資家マーク・アンドリーセン氏のファンド等も出資しており仮想通貨分野の有望企業として目される。
アンカレッジが期待されるのは、ビットコイン市場の拡大には機関投資家の参入がカギだからだ。暗号資産保管業社であるアンカレッジが信託銀行としてのステータスを持てば、銀行等の金融機関が安心して顧客である機関投資家の資産を預かることができるというわけだ。
米通貨監督庁も昨年以来、銀行が積極的に仮想通貨関連業務に取り組めるよう矢継ぎ早にガイダンスを発表している。米規制当局がフィンテック業界の育成を重視する流れはオバマ政権時代からあるが、昨年11月に同庁トップに元コインベース幹部だったブライアン・ブルックス氏が指名されたことで動きが加速していた。同氏は過去に米最大の仮想通貨取引所コインベースで法務責任者を務めた暗号資産業界のベテランだ。
(関連記事「米通貨監督庁(OCC)、国法銀行にステーブルコイン利用とノード運営を許可」)
今回の認可で注目すべきは、従来の銀行のように預金を預からないフィンテック企業に対して国家レベルの認可を与えた点だ。銀行や規制当局間で「銀行とは何か?」という問いを再び投げかける動きだ。
金融がネットへ移行し自動化していく時代においては、あらゆる金融サービスを対面で消費者に提供する百貨店型のビジネスモデルはなりたたない。特にゼロ金利が定着する経済においては消費者目線で特定のニーズに専業していくデジタル金融のありかたを促したい規制当局の考えが垣間見れる。
(関連記事「米銀行監督機関トップ、「DeFiに沿った銀行規制の再構築を」=FTに寄稿」)
とはいえ仮想通貨企業に国家レベルでのお墨付きを与えることには州政府からの反発も多い。また米で現在進行中の共和党から民主党への政権交代により、仮想通貨推進派のブルック長官が今週中にも退任する可能性が報道されている。
一部民主党議員も通貨監督庁による仮想通貨関連ガイダンスの取消に向け動いている。民主党議員でもある米下院金融サービス委員会議長は昨年末時点でバイデン次期大統領に米通貨監督庁が発してきた仮想通貨関連のガイダンスを取り消すように声明を出している。
さらに今年に入って民主党がジョージア州上院選で議席を伸ばし米議会両院を掌握。仮想通貨規制の行方はバイデン次期大統領の采配次第にとなりそうだ。