ビットコインのスケーリング問題についての新たな重要論説が現れたー。
コインテレグラフジャパンは前回取材記事「4年で時価総額1兆円!『僕はこうしてスタークウェアをつくった』数学者エリ・ベン-サッソンが語る仮想通貨ユニコーン企業創生記【独自】」で、「ゼロ知識証明(ZKP)」を使ってブロックチェーンのスケーラビリティとプライバシーの問題を解決する方法を最初に示したベン-サッソン氏と彼の経営するスタークウェア社について紹介した。
そして今回、イーサリアムのスケーリングで有名な「スタークネット(Starknet)」という技術ソリューションが、ビットコインにも使えるようになるという革新的な発表がコインテレグラフジャパンに持ち込まれたのだ。
今回コインテレグラフジャパンではその論説を早速全訳し、日本の読者に紹介する。
本論説の原文はこちらでよめる。
「スタークネット」はビットコインとイーサリアムの両方で同時に決済を行う最初のネットワークとなり、ビットコインを毎秒数千件の取引速度までスケールアップする。これは、ビットコインの小規模なアップグレードであるOP_CATによって可能となり、その後6ヶ月以内に実現する予定だ。これはスタークネットの未来、ひいてはブロックチェーン、グローバル経済、そして私たち個々の権利に対する提案である。我々はそれに向けて、以下に示す具体的なステップを既に踏み出している。
ついにSTARKs※が次の挑戦に進む時が来た。今こそSTARKsが最も平等主義的な通貨であるビットコイン上でそのスケーリングの力を発揮する時だ。ここで言う「スケール(処理速度や性能を高めること)」とは、真の分散型スケールを意味する。私は単なるマルチシグサイドチェーンを作るためにここにいるのではなく、イーサリアムとビットコインの両方をスケールアップするための1つのレイヤーを創造するためにいるのだ。
編集部注 ※ゼロ知識証明を使ってブロックチェーンをスケールさせる技術。イーサリアムのスケーリングにおける「ゴールドスタンダード」と見なされている。主要なバリディティロールアップ、ZK-SyncやPolygon、Risk Zero、Succinctといった技術が、STARKsを使ってイーサリアムや他のブロックチェーンをスケーリングしている
暗号技術はデジタル世界と金融をクリーンアップすることができる。これはお金の信頼性を確保し、社会権力を大企業から主権を持つ個人に戻す手段だ。これは人々と草の根コミュニティをエンパワーメントする(力づける)ツールだ。つまり、善の源である。したがってこれを示し、全ての人に関連するビジョンが必要だ。このビジョンを追求するために、私は静かな学界のキャリアを離れた。
このようなビジョンは、この偉大なプロジェクトを開始したチェーン(編集部注:ビットコインのこと)をスケールアップすることなくしては完結しない。ビットコインをスケールアップすれば、ブロックチェーンの力を解き放ち、世界を変えることができる。スタークウェア社はこのビジョンを現実のものとするため、そしてOP_CAT導入の賛否両論について明らかにする新しい研究を支援するための100万ドル基金を設立するなど、具体的なステップを踏んでいる。
ゼロシンク財団(ZeroSync Foundation)を通じたL2 Iterative Ventures(L2IV)のウェイカン・チェンとの戦略的パートナーシップは非常に生産的だった。彼らチームの実践的なアプローチとエンジニアリング、研究の専門知識を活用して、OP_CATベースの契約とビットコインスクリプトで実装されたSTARK検証者に関するオープンソース作業の限界を押し広げることができた。また、BitVMとゼロシンク財団にも感謝している。彼らは、ビットコインの可能性についての人々の認識を広げてくれた。QEDsのカーター・フェルドマン(Carter Feldman)も影響力があるが、タップルート(Taproot)に対する新しい視点とオープンな見解を示してくれた。
この投稿の後、スタークウェア社とスタークネットから多くの公式アップデートが続くが、今は基本に立ち返り、私たちがなぜこれに取り組んでいるかを明確にしたい。
2008年:断裂
2008年、世界の金融が崩壊した。その直後、サトシ・ナカモトが革命的なビットコインのホワイトペーパーを公開した。この断裂の瞬間、サトシは私たちに物事を違った方法で行う方法を示した。私たち一般市民は、金融の領域でより高い水準の誠実さと透明性を要求し、実行することができるようになった。伝統的な銀行の要塞や高層ビルに頼る代わりに、サトシは誰もが参加し貢献できる包括的なプロトコルを導入した。このプロトコルは、ビットコインの採掘と手数料を通じて、広範な貢献者に公正かつ透明に価値を分配する。貢献者の基盤が広ければ広いほど、ビットコインはより良く、より安全になる。
ビットコインは単なる台帳以上のものを私たちに与えた。それは変革への信頼を私たちに与えたのだ。銀行が失敗し、家を差し押さえ、住宅ローン業者の「信頼して」という誇大広告に疑問を抱かせた時、ビットコインは私たちに変革の信頼を与えた。
ビットコインの影響は、今日私たちが目にする現実を超えるものになる可能性がある。その運命は、グローバルリザーブ(準備金)としての大規模利用であるべきだ。それは、自由社会に必要な全ての社会機能を支えるグローバルな「インテグリティ・ウェブ」の基盤となり得る。(編集部注:インテグリティとは誠実・正義という意)
ビットコインのホワイトペーパーは、大小の支払いに実用的に使われ、全ての人々によって運営されるネットワークを予見していた。今日、世界には銀行口座を持たない15億人がいる。ビットコインの支払いは、これらの人々にとって単なる代替手段ではなく、実際には彼らの初めての金融インフラへのアクセスとなるだろう。現在のビットコインは、これらの15億人のほとんどにとって、利用可能な容量が少なすぎ、利用可能な容量も高価すぎる。ビットコインとそれを支える自由社会を全ての人にアクセス可能にする技術を開発することが私の動機だ。
STARK+ビットコインの構想は初期からあった
スタークウェア社をイーサリアム至上主義者と考える人もいる。私たちはイーサリアムの価値観に共感しその成功にコミットしているものの、まず第一に我々はSTARK至上主義者である。スタークネットはイーサリアムのレイヤー2として展開されているが、スタークネットをビットコインにも接続することは、その機能セットの自然な延長だ。これは、スタークウェア社を創設した時からのビジョンである「STARKsは全ての真に分散型ブロックチェーンプロジェクトをスケールアップするために必要な公共財である」というビジョンに合致する。
ビットコインにZK-STARKsをもたらすことは、私たちの道からの逸脱ではなく、むしろ完全なサークルを描くことだ(編集部注:ビジョンを全うすること)。スタークウェア社はこれまで全てのシステムをイーサリアム上にのみ展開してきた。しかし、ブロックチェーンのスケーリングのためにSTARKを使うアイデアは、2013年春のビットコイン会議で生まれたものだ。
2013年に米サンノゼで開催されたビットコイン会議での発表した際の映像。ビットコインにzkSNARKs等の使用を提案している。
私はその会議でステージに立ち、後にSTARKsと呼ばれる暗号学的証明技術に関する研究について話し、多くの聴衆はこの暗号学的研究がブロックチェーンに必要なものであると感じた。言い換えれば、私はビットコインによって赤い薬を飲まされたのだ。(編集部注:真実を見つけること)
したがって、スタークウェア社はその始まりからビットコインと深く関わり続け、敬意を持ってそのネットワークを観察してきたといえる。現在、私はタップルートとOP_CATがビットコイン上の可能性を形作る中で、この話題を公にすることに自信を持っている。
また、ゼロ知識証明(ZKP)をビットコインと統合してプライバシーとスケーラビリティを向上させるゼロシンク(ZeroSync)のような画期的なビットコインプロジェクトを我々は数多く支援してきた。スタークウェア社はまた、研究者ジョン・ライトに「ビットコイン上のバリディティロールアップに関する報告書」を委託し、既存のバリディティロールアップをビットコインに統合する可能性を再評価し、理想的な組み合わせとなる可能性があるとの結論に至った。(編集部注:複数の取引を一つにまとめてブロックチェーンのセキュリティを守りつつオフチェーンでの取引執行を可能にする技術。)(スタークウェア社とポリゴンが共同開発した)次世代の「サークルSTARK」証明・検証者である「Stwo(エストゥー)」は(代数学上の)有限体M31上で動作する。この有限体はビットコインスクリプトと相性が良く、ビットコインスケーリングの次世代を提供するのに最適だ。
編集部注:サークルSTARKとは、これまで使われていたSTARK証明システムよをさらに進化させた技術。取引処理が高速かつ安価になる。
私が見たいもの
私の夢は、ビットコインが常に全ての人にサービスを提供できる規模を達成することだ。これは、全ての人が経済的な障壁なしに参加できるようにすることを意味する。これは、サトシの分散化とセキュリティへのこだわりに忠実に従って実現されなければならないと考えている。
インターネットは、最初はエンジニアや学者のためのニッチな遊び場として始まった。それをスケールアップするには数年かかり、それが私たちの生活を支えるインフラへと変わった。ブロックチェーンはインターネット上で動作するツールであり、信頼と誠実性を主権を持つ個人の大規模なコミュニティに分配することによって、インターネットを民主化し、権力のバランスを取り戻すことができる。しかし、真に権力を掌握し、それを大衆に返すためにはスケール(規模)が必要だ。
私はまた、ビットコインのスケーリングの機会を利用して、ビットコインコミュニティにとって重要な価値であるプライバシーを向上させるべきだと確信している。同じ暗号技術がビットコインにスケーラビリティを提供するだけでなく、プライバシー機能も向上させる原材料を提供する。時間が経てば、暗号鍵をもつ=暗号資産を保有する=機密性もある、この全てを満たすことができるようになる。
どのようにして達成するか
スタークウェア社はビットコインのスケールアップを実現するために、今日3つの具体的なステップを踏み出している。
まず、スタークネットがイーサリアムとビットコインの両方で同時に決済を行う最初のレイヤー2になる新しい設計を提示する。我々のチームはスタークネットが変革し、イーサリアム上のレイヤー2としての機能を持ちながら、ビットコイン上でも完全に機能する自己管理型(セルフカストディ型)の分散型レイヤー2になるために必要な全ての作業を実施または支援する。私たちが研究しているアーキテクチャの詳細は、今後数週間で公開される予定だ。
第二に、スタークウェア社はOP_CATとその影響を研究するビットコイン研究者や開発者に助成金を授与するために100万ドルの基金を設立する。この基金は、アップグレードに賛成するか反対するかに関わらず、OP_CATの使用に関する概念実証に貢献する個人やプロジェクトに授与される。詳細は来週発表される予定だ。
最後にスタークウェア社は、OP_CATビットコインソフトフォークがビットコインのスケーリングに最も安全な道であり、特にSTARK検証とロールアップを可能にするものだと信じている。そのため、OP_CATを公に支持することを表明する。OP_CATは、再帰的な契約を可能にし、それが自律的に状態(STATE)を管理および更新できるようにすることで、ビットコインの取引速度を劇的に高めるトラストレスなロールアップで実現する。そしてその際、ビットコインに過負荷を与えることはない。
最後に、スタークウェア社によるビットコインネットワークへの進出について議論したい方は、メールでご連絡いただくかXでの会話に参加して頂きたい。
<終>
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エリ・ベン-サッソン スタークウェア共同創設者兼CEO、同社会長。2001年にヘブライ大学で理論計算機科学の博士号を取得して以来、暗号学とゼロ知識証明に基づく計算の完全性を研究している。STARK、FRI、Zerocashプロトコルの共同発明者であり、Zcash Companyの創設科学者でもある。これまでにハーバード、MIT、プリンストン高等研究所で研究職を歴任。2018年にテクニオン(イスラエル工科大学)の計算機科学教授から転じてスタークウェアを共同創設した。日本に関連する話として、シカゴにあるTTIC(豊田工業大学シカゴ校)で研究員として9ヶ月過ごしたことがある。