ブロックチェーン技術が発明される以前は、財産の安全な保管方法といえば、金・宝石類・現金などを金庫で保管するか、銀行等の信頼できる第三者に預けるしかなかった。近代的な銀行制度(部分準備銀行制度)では、自身の預金口座から自身の資金を引き出すことのみができ、それが最も便利な財産管理法で、つい最近までは最も安全だった。
しかし今、銀行に預金することにどんなメリットがあるだろう。米国では、預金の利息は限りなくゼロで、何をするにも手数料がかかる一方、住宅ローンの利子は3〜4%に達する。さらにクレジットカード会社などは、月末に精算払いができないと20%もの利子を請求してくる。皆これが当たり前だと思い込んでいる。だが、それは変わりつつあるのだ。
最大の弱み
暗号通貨の凄いところは、購入には依然集中管理された取引所を経由する必要こそあるものの、一旦購入した後はそこに残しておく必要はなく、自分の“ウォレット”=財布に引き出すことができる、という点だ。取引所は暗号通貨経済システムではいつも一番の弱みであり、ハックされやすい箇所として知られている。これまで起きた最大の出来事は2014年の「マウントゴックス事件」で、同社顧客のビットコイン75万枚以上(当時4億7000万ドル、現在の価値にして50億ドル相当)が盗まれた。
それ以来、規模は小さいがハッキングが続発、ビットコイン及び暗号通貨は安全ではないとの誤解が生じる原因となった。しかし誤解を正すと、ビットコインのブロックチェーン自体は一度もハッキングされていないし、当分は既存の技術でのハッキングは不可能だ(遠い将来の主な脅威は量子コンピューティング)。それよりも問題なのは、銀行預金というシステムが脳に染み付いた人にとって、暗号通貨であればもはや財産を第三者に託すことなく自分で守れる、ということが理解しづらいことだ。
コインを自分の財布に保管する
コインを取引所に残すということは、実際には所有していないのと同じで、取引所からコインの“借用書”をもらっているに過ぎない。取引所はあなたに代わって預かっているのだ。それでは結局、自分の資産を第三者に委ね彼らを信用するしかないという、旧来のシステムに逆戻りしてしまう。
最も安全なのは、自分自身の“ウォレット”に保管することだ。ここから生成できる公開鍵と秘密鍵(それぞれコインを受け取るため・送るためのもの)からなる、ペーパーウォレットという形でも可能だ。また『Trezor(トレザー)』や『Ledger(レッジャー)』のようなハードウェアウォレットもある。これらはコインを「コールド・ストレージ」に格納、つまりオフラインで保管する。もちろん実物のコインではなく、ブロックチェーン上の仮想のものであることには変わりがないが、秘密鍵で保管されている。このハードウェアウォレットであれば、秘密鍵を開示する必要がないため、より安全だ。鍵はデバイス上で暗号化され、コインを取引したい時にのみ使用される。私の個人的な好みは『Ledger(レッジャー)』で、フランスの会社であるだけでなく(あくまで偏見)、カスタマーサポートが飛び抜けていると思う。8月1日、ビットコインキャッシュとのハードフォーク発生時には、同社は真っ先にビットコインキャッシュをユーザーに提供した会社の一つだった。
自分の秘密鍵を管理していれば、もし取引所がハッキングされたり、政府によって取引を禁じられたり、また資産や銀行口座が差し押さえられたり凍結されたりすることがあったとしても、誰もあなたのコインには手をつけられない。適切な予防措置を講じていれば、それらが起きたところで何ということは無い。また「マネー・ロンダリング」や「バイパス・キャピタル・コントロール」に悪用されるのでは、という囁きを耳にするかもしれない。確かに特定の暗号通貨では可能だが(ビットコインはすべての取引を追跡可能であるため、そのような目的には向いていない)、一方でブロックチェーン技術が生まれる前では想像もできないレベルの資産保護ができるようになったのだ。銀行預金を引き出そうと列をなしているジンバブエの人々に聞いてごらんなさい、「自分の財産を守るために銀行を当てにする必要がないとしたら、どう思うか」と……。
途上国のゲームチェンジャー
あなたは25億超の人が銀行口座を持っていないのをご存知だろうか? 貧困のために審査をパスできなかったり、最寄りの銀行支店に行けなかったり、あるいは単に役に立たないと思っていたりするためだ。貯蓄ができないことには、永遠に貧困からは抜け出せない。また例え毎月いくらかの貯金をしていたとしても、そのうちインフレが起きたなら価値の大部分が失われてしまう。特に強い通貨でない国の場合は顕著で、アフリカや南米等の過去数十年の発行通貨量などは驚くほかない。
人類史上初めて、第三者に頼ることなく富を保管でき、汚職にまみれた不適格な政府や破滅的な金融政策から防護され、世界中どこにでも数秒で送金できる方法が誕生した。先進国に住む者にとって暗号通貨が魅力的なのはもちろんだが、ひとたび途上国に目を向けると、そこでの混沌に対するポテンシャルは比較にならないほど大きい。
しばらくは話題の中心がウォールストリートと先進国の投資家になることは間違いないが、途上国の人々は、固定電話の段階を経ずに携帯電話に一足飛びしたように、暗号通貨にも飛び乗るだろう。私が暗号通貨の将来に楽観的なのは、それも一つの理由だ。
著者略歴:Vincent Launay(ビンセント・ローネイ)はワシントンDCにある世界銀行の金融専門家。パリのHECから修士号を取得、CFA資格を保有。本記事の見解と解釈は同氏のものであり、必ずしも世界銀行やコインテレグラフの見解を示すものではない。