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ブロックチェーンによる劇的なコスト削減
パブリック型のブロックチェーンでも、トランザクションフィーなどの劇的なコスト削減につながる事は間違いありません。しかし、更なる劇的な削減は、プライベート型のブロックチェーンによってもたらされると言っても過言ではありません。
と申しますのも、そもそも弊社が提供している技術がプライベート・ブロックチェーン中心ですので、手前味噌ながらその実数値から如何ほどのコスト削減につながるかを見てみましょう。
まず日本の金融機関が、1日あたり300万トランザクションを処理する勘定システムを常識的な見積もりで構築する例を考えて見ましょう。
当然ですが「ゼロダウンタイム」を目標とするため、機材には1台数千万円以上のサーバー複数台を中心としたシステム構成が常識です。それを取り巻くミドルウェア選定から開発など諸々の人件費を含め、一般的な見積もりでは初期費用が数十億円。保守運営費用(年額)が通例でその約10分の1ですから月額数千万円はかかるでしょう。大きくのしかかる償却費に加え、システムが存続する限りこれが固定費として永続するという訳です。
ではそれを、弊社mijinの例で恐縮ですが、クラウド上で稼働するプライベート・ブロックチェーンに置き換えるとして、如何ほどのコストで実現できるでしょうか?当然、セキュリティや性能、整合性における妥協はなしです。
まず、1日あたり300万トランザクションであれば、地理的に分散してインターネットで接続された数台のクラウドインスタンスで稼働できます。必要なスペックはメモリが8ギガバイト。CPUは4コアで充分です。そのマシンが物理的に離れた3カ所のリジョンに2台ずつで合計6台。月額費用は合計数万円にも満たないでしょう。
「月額数万円だと!?ふざけるな!」何度か目の前でそう言われたことがありますが、これは冗談ではありません。このスペックにて、上記スループットにて想定されるCPU占有率は30%程度です。ブロックチェーンは、ここまでにも劇的に計算コストを削減できるのです。家庭用PCレベルのコンピュータで、整合性やセキュリティを一切妥協せず、キャパシティを超えても落ちないゼロダウンタイムの勘定システムを構築できてしまいまうため、機材にかかる初期費用のほとんどが削減できてしまいます。
それに加えて、ブロックチェーンには元々ダブルスペンド(二重払い)を防止する仕組みが備わっているほか、記録されるデータの整合性が保証され、それ単体で勘定システムとして機能するよう設計されています。使用前に必要な準備は、ブロックチェーン中で取り扱う勘定の定義のみです。必要なエンジニアスキルはJavaScriptレベルで済み、初期の開発に時間もかからないため、初期にかかる膨大な人月もバッサリと切り捨てることができます。
これらのセットアップや調整などからどう多く見積もっても、初期費用は数百万から1千万もあれば済むでしょう。
保守に至っては、そもそもブロックチェーンがゼロダウンタイムを実現するための仕組みですから、こちらも月間数百万円も必要ないはずです。現状の仕組みでは、いざ落ちるかもしれない時の対応のために、とんでもない莫大なコストがかかっていますが、そのほとんどが必要なくなります。ノードが自動的に同期してクローンが作成されるためにバックアップも必要なく、災害対策コストも大幅に圧縮できます。
当然ながら現在は、様々な規制にて保証が義務付けられているサービス品質維持のために多大なコストがかかっています。現状ではそれらをそのまま全て消してしまうことは不可能だということは重々理解しておりますが、実質論から行けば、上記の見積もりは決して非常識ではない数字です。
というような事を書くと、利害のある各方面から様々な突っ込みが飛び交います。どこのどの部分がそれだけ安くなるのか。比較の仕方がおかしいのではないかと。しかしこの話を突き詰めれば、今現在どこにどれだけ無駄なコストがかかっているのかが露呈して、結果ブロックチェーン採用によるコスト削減の度合いがより具体的に際立ちます。いずれにせよ今回は詳細なしに進みましょう。
私は常に「金融機関の運営コストを2018年までに10分の1未満に削減する」とミッションを掲げていることを公言しておりますが、可能性としては100分の1未満への圧縮も夢ではないでしょう。なぜなら、全てが暗号技術で構成されているブロックチェーン技術では、金融機関業務における様々なオペレーションにおいて、人力によって性悪説のリスク分散がなされている部分を、ごっそりと根こそぎ暗合署名などブロックチェーンの基本機能にて置き換えることが可能となるからです。すなわち、同技術によって劇的に削減されるものにはシステムに関わる費用だけではなく、そこにはより膨大な人件費も含まれるからなのです。
それら無駄にされている人件費やオペレーション費用を含めれば、ブロックチェーンは年間最大約67兆円の削減につながるだろうという見解もあります。
具体的な削減額や恩恵が見えていないとしても、実際に多大な予算を持って実証を進めている金融機関では、ブロックチェーン導入が自社の劇的なコスト削減につながることには当然気がついているでしょう。先述のような理由から、それらの実数値が世に大々的に公開されるにはまだまだ時間がかかるでしょうが、この来たるべき新しいパラダイムを前提として、新しいビジネスモデルの計画が裏で進んでいてもおかしくはありません。
締めの概念からリアルタイム決済へ
そもそも「締め」の概念は会計上必須であり、その概念が今までシステム側に適用されていた訳ですが、本来コンピューターのトランザクション概念はそうではありません。
とはいえ、既存の金融システムでは1トランザクションあたりのコストが非常に高いため、締めの処理にて費用を計上する方がコスト効率が高いのは常識です。
しかし、ブロックチェーン技術の登場により、既存の様々なセキュリティや整合性といった基準を妥協することなく、トランザクションあたりのコストが限りなくゼロに近づいていきます。そこで新しい常識として、「リアルタイムセトルメント」の概念が現実となります。そして締めの集計概念も、そもそもトランザクションに残高(バランス)の概念を持つブロックチェーンの基本機能でまかなえます。
ビジネス慣習が締め処理からリアルタイム決済へパラダイムシフトすることにより、カウンターパーティーリスクも最小限となるだけではなく、既存の様々な頭痛の種が払拭されるでしょう。バッチ処理がされていたものに関してもリアルタイム処理へと移行し、真のリアルタイム24時間サービスの提供など、一般消費者もそこから大きな恩恵を得るに違いありません。
コスト構造とビジネスモデルの革命
日本の銀行では、運営コストの3分の1をシステム運営費が、もう3分の1を人件費が締めているのが一般的と聞きました。例えばその2つの33%部分を、それぞれ10分の1未満に圧縮する金融機関が出てきた場合、今までの常識では思いも寄らなかった新たなビジネスモデルが生まれてくるでしょう。
たとえば、欧米ではRobinhoodのような手数料無料の証券取引所が登場しましたが、ブロックチェーン技術で運営コストを劇的に圧縮し、あらゆる消費者向けサービス費用を無料化し、広告収入だけで成立する銀行などが出てきてもおかしくはありません。
実際に弊社に打診が来ているアジア某国の中央銀行に至っては、一国の中央銀行システムを、ブロックチェーン技術を採用することによって予算3億円足らずで構築しようと計画しています。既にそのような話がただの絵空事ではなく現実となりつつあります。
もう、ブロックチェーンによる金融革命は、見えていないところで芽吹いてるのです。
分散型DBと何が違うのか
「わざわざブロックチェーンではなくても分散型DBでいいだろ!もっとパフォーマンス出るし」と、にわかに同技術を否定される方がいらっしゃいますが、そのような方の言葉はあまり信用されない方が良いでしょう。では、なぜ金融機関は分散型DBに多額の資金を投資し、真っ先に採用しなかったのでしょうか?
そもそも、既存の分散型DBはデータの処理自体を分散し、パフォーマンスを向上させ、コストを下げることを目的として開発されています。地理的に自動的にレプリケーションできる機能も実装されてはいますが、金融機関がそれら分散型DBを採用しないのには理由があります。
結論として、それら分散型DBは、いわゆる勘定システムの再構築には向いていないと言う事です。整合性の設定項目は存在するものの、100%の整合性を実現しようとすれば大変な開発工数がかかるでしょう。技術的には分散型DBでも同様の物が実現できるでしょうが、余りにも手間暇がかかり、結果膨大な資金が必要となり、既存システムを入れ替える意味がなくなり本末転倒です。そして何よりも、できあったものの検証のために、更により多くの時間とコストがかかることになります。
現在主流のブロックチェーン技術は、処理の負荷を分散することが主目的ではないという点が分散型DBとは大きく違います。あくまでも主目的は物理的分散によるダウンタイムの払拭です。我々はデータ自体の分散や処理の分散の研究も進めておりますが、現在では全てのノードが同じデータを保有し、同じ仕事をすることができます。従って一般的なブロックチェーンの世界では、台数の増加がパフォーマンスの向上に直結しません。よって、「最低何台必要ですか?」の問いに対する答えは、「1台」となります。
現在のブロックチェーン技術が、最新の分散型DBにデータベースとしてのスループット性能では勝つことはできません。ブロックチェーンが持つ大きな利点は、現在の金融システム等で必要とされる処理量であれば、データの整合性を保ったまま、物理的分散によりゼロダウンタイムを実現し、かつそこに同時に劇的なコスト削減をもたらすということに集約されます。
データの出所が暗号署名として必ず伴い、改ざんすることができない勘定機能を、低コスト且つゼロダウンタイムのワンストップソリューションとして、ネイティブの基本機能だけで提供できることがブロックチェーンの強みなのです。
著者:朝山貴生
暗号通貨プラットフォーム「Zaif」とブロックチェーン構築プラットフォーム「mijin」を開発・提供するテックビューロ株式会社のCEO。
<第3話に続く>