世界の金融機関がフィンテックの本命としてブロックチェーン技術にこぞって投資する理由とは?(全3話中1話目) | コインテレグラフジャパン

2015年、欧米ではビットコインを含むブロックチェーン関連のビジネスに1,000億円以上もの資金が投入されています。そしてそのウェイトは、日を追うごとに前者から後者へと大きくシフトしており、今やブロックチェーン技術はフィンテックの本命とも言われています。

 

それら莫大な投資金のうち、出所の多くを占めるのが、実はシティバンク、バークレイズ、BNP、ゴールドマン・サックス、ナスダック、ドイチェ銀行、UBSといったような巨大な金融機関です。では、いったいなぜ金融機関がブロックチェーン技術に目を付けたのでしょうか?

 

その明確な答えを持たないまま、日本では「ブロックチェーン」という言葉だけがメディアに取り上げられ始めています。と言いつつも、実は先行していると言われている欧米でも技術的な情報がちらほらと共有され始めているだけで、実質それが金融システムにどれだけのインパクトを与えるのかという点についてはほとんど触れられていません。

 

幸い商用のブロックチェーン技術を自社で提供している事情から、私は様々な実数を手元に持っているのですが、それらを共有する前にまずは金融機関がブロックチェーンという技術に出会った経緯を簡単にまとめてみましょう。

 

ビットコインが元祖

 

昨今の日本のテック系メディアでは、あたかもビットコインがブロックチェーン技術を用いた一つのサービスであるかのような表記を見かけます。しかし、それには余りにもビットコインへの敬意が欠落し過ぎていると言えるでしょう。

 

なぜなら、ブロックチェーンとはビットコインの根幹技術に名付けられた名称であり、初めてビットコインによってその恩恵が実証されたものです。よって、ビットコインこそがブロックチェーン技術を生み出した元祖であり、それ以外はビットコインによって発明された同技術を応用した後発のものです。

 

では、どうしてそのような誤解が生まれてくるのでしょうか?それはビットコインをとりまく大人の事情に起因します。

 

ビットコインへの拒否反応

 

ビットコインの一番の特徴は、発明者であるナカモトサトシの言葉に集約されています。それを拝借してまとめますと、「Napsterのような中央管理者がいるものは一国の政府の一存によって潰されてしまうのに対して、GnutellaのようにピュアなP2Pネットワークはずっと生き残る」という事になります。

 

彼の言うピュアなP2Pネットワークには管理者が存在せず、完全な非中央化(Decentralization)が実現しています。よって、その一つであるビットコインのネットワークを止めるには、現存する全てのノードを破壊せねばなりません。過去、E-goldなどの気にくわないオフショア決済サービスを、運営者を牢獄にぶち込んでまでことごとくつぶしてきた権力者達にとっては、それは非常に都合が悪いという訳です。

 

しかし、「管理者がいない=コントロールできない」、そして「完全なP2Pネットワーク=つぶせない」ことから、人々はビットコインについて3つのオプションから自分の道を選ぶしかありません。「受け入れる」か「否定する」か、もしくは「無視する」かです。

 

ビットコインは元の論文の題にあるように「決済サービス」であるにも関わらず、巷では「暗号通貨」とも呼ばれていることから、「発行主体のない、法律によって管理できない通貨などけしからん!」という理由で、多くの金融機関は現状の解としてビットコインの「拒否」を選択し、にわかにそれを「悪しき存在」として位置づけました。

 

完全に受け入れ体制を見せるドイツのFidor銀行のような例は極めて希であり、多くの銀行が裏ではビットコインを長期的な観点から「競合」もしくは何らかの「脅威」とみなしているようです。

 

そのようなビットコインを「悪しき存在」と定義することを望む人々は、そこでビットコインの部分的な「闇」に集中してスポットライトを当てようとします。すなわち、ビットコインが「マネーロンダリングの温床である」と言う事実に反した風評を繰り返し流布する事になります。得に日本では、「ビットコイン社長逮捕」と言ったようなメディアのネガティブな取り上げ方が目立ちました。

 

その流れは2015年半ばから顕著となり、同年秋には世界の投資家の間でさえ「ビットコインについては口に出したくもない」という状況を生み出しました。実際、既に英国政府の手によってリスク査定され、結果として資金洗浄リスクが「銀行業(34)」や「現金(21)」のそれよりも遥かに低い(5)と証明されている現在も、ビットコインは変わらず同様の扱いを受けています。

 

しかし、一部の鋭い金融機関にてビットコインへの知識と理解が深まる中、見逃せない事実が発覚するのでした。

 

それでも欲しいブロックチェーンの力

 

当初ナカモトサトシも、ビットコインについては上述の通り「完全なP2Pネットワークとして殺せない決済サービス」としてのビジョンしか描いていなかったのかも知れません。

 

ビットコインがメジャーになるにつれ、その利用と負荷は徐々に増加し、ついには故意に無数のトランザクションを流し込むようなストレステストが幾度か行われることとなりました。

 

その結果、意外な結論へと導かれたのです。

 

ビットコインは、数々のストレステストに晒されたにもかかわらず、送金処理は遅延するのみで一度も完全に落ちる(止まってしまう)ことがありませんでした。すなわち、ビットコインは実質上のゼロダウンタイムを実現したのです。

 

それら故意の攻撃を受けながらも、ビットコインは2009年の稼働から実に7年近くに渡り一度も落ちずにサービスを稼働させている訳であり、この事実は多くの人々を驚かせました。

 

更には、時価総額が数千億円以上にも膨らんだビットコインは、常に世界中のあらゆる場所から「窃盗」を目的とした攻撃対象となっています。誰にでもノードを立ち上げることができ、誰にでもネットワークにアクセスすることができるからです。

 

しかし、乱数発生アルゴリズムのバグによる秘密鍵重複を原因とした窃盗は別としまして、ビットコインは常にインターネット上に晒されているにもかかわらず、実質的には一度もそれ自体を原因としては盗まれたことがありません。すなわち、ビットコインが一つの金融サービスとして「インターネットに晒されていても誰も改ざんすることも盗むこともできないセキュリティ」を実現してしまったという訳です。

 

そしてMt.Goxのビットコイン消失の原因が、ビットコインのセキュリティではなく一市場運営者にあるという事実が徐々に認識され始めると同時に、一部の鋭い金融機関の間では、ますますビットコインのその優秀な仕組みに焦点があたります。それがビットコインによって生み出された「ブロックチェーン」という技術でした。

 

管理できない「ビットコイン」より管理できる「ブロックチェーン」

 

ここでジレンマが生まれます。ブロックチェーン技術に魅力を感じた金融機関は、そのセキュリティとゼロダウンタイムの恩恵を被りたいにも関わらず、自分たちが管理ができないビットコインについては「口に出したくもない」のには変わりが無いのです。

 

ところがそれと同時期に、彼らにとっては非常に都合の良い話題がちらほらと出始めます。ビットコインからブロックチェーン技術だけを取り出し、それをオープンなインターネットではなく、自社のネットワーク内やパートナー間で利用するネットワーク内だけで使おうという、いわゆる「Permissioned Blockchain(パーミッションド・ブロックチェーン)」や「Private Blockchain(プライベート・ブロックチェーン)」技術についての言及です。

 

これであれば、インターネット上に晒されて自分たちがコントロールできない「ビットコインのブロックチェーン」を利用することなく、外に見えない形で完全に閉じられた環境でパフォーマンスの高いブロックチェーンが作れるという訳です。

 

パブリックかそれともプライベートか

 

実際は、上述のプライベート・ブロックチェーンだけが注目されているというわけではありません。その一方では、ビットコインによる完全なP2P技術であるパブリックなブロックチェーン仕様を踏襲したサービスも多々提供されています。

 

それら2種類とビットコインの元祖ブロックチェーンとの、併せて3種類のブロックチェーンがごちゃ混ぜにされて無意味な議論がされることがまだ多いことから、ここでは一応それらを軽く交通整理しておきましょう。

 

プライベートなブロックチェーンであれば、当然それを動かすコンピュータの元となる資金が絶たれればP2Pネットワークは死んでしまいます。その半面オープンなブロックチェーンであれば、それを動かことによって享受できるインセンティブを目的とした者が世の中から消えない限り、消えないP2Pネットワークが実現します。

 

ここでは詳細については触れませんが、パブリックなブロックチェーンの強みが完全な非中央化による「中央管理者の不在による安全性と恒久的なサービスの継続」であるとすれば、プライベート型の強みはコンピュータやネットワーク環境のスペックを自社で管理できることによる「権限管理の柔軟性と更なるプライバシー確保、そして圧倒的な高パフォーマンスの実現」となります。例えば前者では、秒間数千トランザクションのような勘定エンジンを構築することは物理的に不可能です。

 

セキュリティに関しては、暗号が破られない限り両者にはそう大差はないのですが、「未知の問題が起こりうるリスク」と「管理権限」、そして「心理的障壁」を考慮すると、金融機関にとっては当然プライベート型により一層大きな魅力が感じられるという訳です。

 

そしてよく話題にされるマイニング(採掘)ですが、これに関してはプライベートかパブリックかに関わらず、必ずしもブロックチェーンにとって必須なものとは限りません。あれは元祖であるビットコインが、承認ネットワーク参加者へのインセンティブとして用意した一つの仕組みです。今はパブリックなブロックチェーンでもそれを代替する仕組みが多々ありますし、プライベート環境においてはそれ自体必要ないケースがほとんどです。

 

実際に金融機関が投資の対象としているものには、パブリックなものとプライベートなものとの両方が存在します。送金サービスでは前者が多く、金融機関間の取引システムでは両方が存在し、勘定システムなどの銀行内インフラでは後者が多くなっています。

 

ブロックチェーン技術を応用して使いたい人々と、「そもそも管理者が存在すれば非中央化(Decentralization)の概念を捨てるのだからブロックチェーンの意味がないだろう」というビットコイン原理主義者との間では、未だにその有効性について議論が続いています。ちなみに、私はパブリック型とプライベート型の両方が、それぞれの利点を活かしながら、時には融合しながら違った用途でそれぞれ発展していくと考えています。

 

それでもはっきりしないブロックチェーン最大の利点

 

しかし「安全」で「ダウンタイムゼロ」。それだけではブロックチェーン技術に何百億円もの投資が動くはずがありません。

 

実はブロックチェーンの最大の魅力が一番ぼんやりとしか示されていないのです。それが、劇的なコスト削減です。

 

そもそも、ブロックチェーンの仕組み自体が従来の金融システムではタブーな手法を用いて劇的に処理コストを下げています。送金リクエストを複数のブロック単位で処理するだけではなく、ブロック内の送金内容が数学的に100%確定する前に次のブロックを処理開始してしまうのです。

 

このように、本来は送金リクエストが全て一つ一つリニアに過去の時点で完了されるべき勘定システムを、「近い未来での確定」という猶予を与えることによって、今までの常識を根底から覆してしまったという訳です。

 

実際、既に欧米のいくつもの金融機関が多大な費用を掛けてブロックチェーンの効果を実証しようとしている訳ですが、ではそのコストがいくら削減されるのかという点については、未だにそれら実験の主体者からは具体的な数字が出てきたことがありません。

 

その理由には2つのことが考えられます。

 

まず、ほとんどの場合がまだ実用に耐えるものとしてブロックチェーンの仕組み自体ができあがっていないと言う事です。その場合は、もし実用に耐える様々な想定をした場合や、セキュリティ監査費用を含めた場合、多大な研究開発費用を計上した場合、一概にそのトランザクションあたりのコストを計算して外部環境に発表することは困難でしょう。

 

次に、外にはまだ詳細を言いたくない、と言う事が挙げられます。実際にコスト計算がはっきりしていて、それが劇的な削減につながるとしても、現在それを公表するメリットがありません。現在のブロックチェーン業界界隈では、技術よりも銀行間送金インフラの利権を巡る金融機関勢力同士の駆け引きの色合いが濃く、まだまだ敵への塩となる手の内を明かす段階ではないようです。


以上のような理由から、インターネット上にはまだ、ブロックチェーンで如何ほどのコスト削減になりますと言ったような、明言された情報が全くと言って良いほど公開されていません。数字が出てきたとしても、技術の詳細もなしに「秒間1万トランザクションを実現しました」といったような、資金調達のためのPRを目的としたようなニュースリリースばかりです。更には日本語の情報ともなればその流通量は極めて少なく、英語の情報が媒介者となる誰かの解釈の間違いにより、ねじ曲がって日本国内に広まることも幾度となく目のあたりにしてきました。

 

著者:朝山貴生

暗号通貨プラットフォーム「Zaif」とブロックチェーン構築プラットフォーム「mijin」を開発・提供するテックビューロ株式会社のCEO。

 

第2話に続く

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