ステーブルコインとは

ステーブルコインとは、価格変動が少なくなるよう設計された仮想通貨の総称で、「ステーブル(Stable)」は「安定した、変動のない」という意味だ。ビットコインやイーサリアムのようなボラティリティの高い仮想通貨とは異なり、基本的には価格が安定しているため、デジタル世界における基軸通貨としての普及が期待されている。

ステーブルコインにはいくつかの種類があり、これまでに世界中で多くのステーブルコインが発行されてきた。中央銀行デジタル通貨(CBDC)が注目を集めつつある中で、昨今はステーブルコインへの関心も急速に高まってきている。

まずは、ステーブルコインが解決する課題や誕生背景、現在の普及状況について解説していく。

1コイン=1米ドルに固定されているステーブルコイン一覧

ステーブルコインが解決する課題・誕生背景

仮想通貨の祖であるビットコインは、デジタル世界における統一通貨となるべく誕生したものの、結果的にボラティリティの大きさから通貨として使用される場面は少なくなっているのが現状だ。

基本的に、通貨として機能するためには3つの役割を果たす必要がある。

 

  • 価値の交換手段:モノと交換できるか(通貨を使って商品を購入できるか)
  • 価値の尺度:モノの価値を示せるか(商品の値段を表現できるか)
  • 価値の保存:通貨そのものの価値は変わらないか(ボラティリティが低いか)

このうち、ビットコインをはじめとする仮想通貨は「価値の保存」の機能を有していないと言える。例えば、日本円では600万円のモノを購入する際に、昨日は1BTCで購入できたが今日は1.2BTC払わないと購入できない、といった状況が発生しうる。

これはつまり、通貨としてのビットコインの価値が大きく変動していることを意味しており、仮想通貨は現時点では従来の通貨のように使うのは難しいという状況である。

この仮想通貨の「価値の保存」が機能していないという課題を解決するために開発されたのがステーブルコインだ。ステーブルコインは、仮想通貨のボラティリティを抑えることを目的に設計されているため、通貨そのものの価値は主要国の法定通貨のようにほとんど変わらない。ステーブルコインは、ブロックチェーンやスマートコントラクトといった技術のメリットを享受しつつ、法定通貨のようにボラティリティが少ない通貨となっている。

ステーブルコインは価格変動が少ないため、ビットコインやイーサリアムのようにトレードによる投資の対象として扱われることはほとんどない。また、ステーブルコインは、仮想通貨に対する投資資金の一時的な避難先(利確先)として使用されることもある。

ステーブルコインの普及状況

仮想通貨メディアThe Blockのレポートによると、2020年末時点のステーブルコインの総発行額は約283億ドルだ。ステーブルコインの普及状況を20年の年末年始および前年と比較すると次のようになる。

 

  • 総発行額:59億ドル(20年始)→283億ドル(20年末)
  • 日次アクティブアドレス:5万(20年始)→23万(20年末)
  • 日次取引件数:10万(20年始)→50万(20年末)
  • 年間取引額:2480億ドル(19)→1兆ドル超(20)

2020年はステーブルコインが急成長した年だった。これだけの成長を記録した要因としては、ステーブルコインのテザー(USDT)を担保にしたデリバティブ取引が活発に行われたことや、DeFi市場におけるステーブルコインの需要の高まりなどがあげられる。

ステーブルコインの成長は21年に入っても継続しており、21年1月末時点での総発行額は378億ドルとなっている。

なお、ステーブルコインの多くはイーサリアム上(全体の約70%)で発行されており、ガス代の高騰による影響を受けやすい。そのため、比較的少額の取引はあまり行われておらず、全取引のうち67%が100ドル〜1万ドルである。

ステーブルコイン取引における金額別の割合 (21年1月)

ステーブルコイン取引における金額別の割合(21年1月)

 

出所:The Block

市場に流通しているステーブルコインのうち38%は取引所にあり、11%はDeFi市場にロックされている。

ステーブルコインの所在の割合 

ステーブルコインの所在の割合

出所:The Block

取引所の中でも大部分はバイナンスによって管理されており、次いでフォビやOKExとなっている。

DeFi市場では、分散型取引所(DEX)のカーブ(Curve)やユニスワップ(Uniswap)、レンディングプロトコルのアーベ(Aave)やコンパウンド(Compound)に多く集まっている。

DeFiプロジェクト別ステーブルコインの担保額 

DeFiプロジェクト別ステーブルコインの担保額

出所:The Block

ステーブルコインは各地域によって使用されているものに違いが生じている。アジア圏ではテザー(USDT)が、アメリカ圏ではUSDコイン(USDC)が頻繁に使用されている状況だ。

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ステーブルコインの種類

ステーブルコインには、大きく分けて「法定通貨担保型」「仮想通貨担保型」「無担保型(アルゴリズム型)」の3種類が存在する。これらは、どのような仕組みでステーブルコインの価格を安定させているかが主な違いだ。

ここでは、それぞれの種類における特徴や事例について紹介する。


法定通貨担保型

現在市場に流通しているほとんどのステーブルコインが法定通貨担保型に該当する。文字通り、法定通貨を担保に発行されるステーブルコインであり、担保となった法定通貨の価格に連動させることでボラティリティを抑える仕組みだ。

法定通貨担保型のステーブルコインは、他のステーブルコインよりも価格が安定している点が特徴だ。また、法定通貨を担保にすることで自由に発行することができるため、スケーラブルな仕組みになっている点も特徴にあげられるだろう。

代表例と21年3月時点のそれぞれの時価総額としては、テザー(USDT、約380億ドル)やUSDコイン(USDC、約93億ドル)、トゥルーUSD(TUSD、約2億8000万ドル)、セロドル(CUSD、約4100万ドル)となっている。フェイスブックが主導して計画を進めていることで話題のDiem(旧称:Libra)も、法定通貨担保型に分類される。

法定通貨を担保に発行されるということは、当然ながらステーブルコインの時価総額と担保資産の総額は等しくなる。つまり、テザーを発行するために約380億ドルが費やされているということだ。

法定通貨担保型のステーブルコインにおけるリスクとしては、主にカウンターパーティリスクがあげられる。カウンターパーティリスクとは、ステーブルコインの発行や管理を担う組織への信頼が前提になることから生じるリスクのことだ。例えばUSDTの場合、発行や管理をテザー社が行なっているため、テザー社に不正などの問題が起きる可能性をゼロにすることはできない。

なお、法定通貨担保型のステーブルコインは、全体の99.5%が米ドルを担保に発行されている。


仮想通貨担保型

続いては仮想通貨担保型のステーブルコインだ。こちらも文字通り、仮想通貨を担保に発行されるステーブルコインであり、担保となった仮想通貨に価格を連動させることでボラティリティを抑える仕組みとなっている。

仮想通貨担保型の特徴は、法定通貨担保型と違い特定の管理者が存在しない点があげられる。そのためDeFi市場などとの相性が良く、スマートコントラクトで制御することが可能だ。

仮想通貨担保型の代表例としてはダイ(DAI)があげられる。時価総額は約26億ドルとなっており、現時点でイーサリアム(ETH)やベーシック・アテンション・トークン(BAT)、USDコイン(USDC)、トゥルーUSD(TUSD)、コンパウンド(COMP)など計14の仮想通貨が担保として使用可能だ。なお、ダイの担保資産については随時変更される設計となっている。

仮想通貨担保型のステーブルコインにおけるリスクとしては、価格を安定させることの難しさがあげられる。そもそもステーブルコインが開発された目的は、仮想通貨のボラティリティを解決するためだ。その仮想通貨を担保に発行されるステーブルコインの価格を安定させることは、非常に難しい仕組みであると言えるだろう。

そのため、仮想通貨担保型のステーブルコインの事例としては、ダイ以外に目立ったものは登場していない。


無担保型

3つ目は無担保型のステーブルコインだ。法定通貨担保型や仮想通貨担保型とは異なり、担保資産なく発行されるステーブルコインであり、予め定められたアルゴリズムによってボラティリティを抑える仕組みとなっている。

外部要素の影響を受けない設計となっているため、分散性や拡張性に長けている点が特徴だ。発行量をアルゴリズムによって制御する様子からは中央銀行が行う金融政策(買いオペや売りオペ)を連想させるため、シニョリッジシェア型とも呼ばれている。

無担保型の代表例としては、ベーシス(BAS)があげられる。時価総額は約1900万ドルとなっており、無担保型は他のステーブルコインと比較すると事例が少なく実用化も進んでいない。

無担保型のステーブルコインにおけるリスクとしては、理論ばかりが先行し実際に想定の動きを実現できるか不透明な部分が多い点があげられる。発行前に定めるアルゴリズムによって全てが制御されるため、高品質なアルゴリズムが求められる点も難易度を高めている要因の1つだ。

分類

ペッグの仕組み

代表例

法定通貨担保型

法定通貨を担保にステーブルコインが発行される。担保となった法定通貨の価格に連動させることでボラティリティを抑える。

・テザー(USDT)
・USDコイン(USDC)
・トゥルーUSD(TUSD)
・セロドル(CUSD)

仮想通貨担保型

仮想通貨を担保にステーブルコインが発行される。担保となった仮想通貨に価格を連動させることでボラティリティを抑える。

・ダイ(DAI)

無担保型


担保資産を必要とせずにステーブルコインが発行される。予め定められたアルゴリズムによってボラティリティを抑える。

・ベーシス(BAS)


日本円ステーブルコイン

ここまでで、ステーブルコインの概要や市場概況、種類などについて紹介した。いずれも世界的な情報となっており、ステーブルコインを身近に感じることは難しいのではないだろうか。

実は、ステーブルコインは日本でも少しずつ盛り上がりをみせている。ここからは、法定通貨担保型に該当する日本円を担保に発行されるステーブルコインについて解説する。


GMOのステーブルコイン「GYEN」

GMOインターネットグループは、米国銀行法規制に準拠した世界初の日本円を担保にしたステーブルコイン「GYEN」を発行している。ニューヨーク州金融サービス局より配布されるライセンス制度「ビットライセンス」の元に、発行対象は現時点では海外居住者だ。

日本ではステーブルコインの法規制が明確化されておらず、国内で発行するにはリスクが伴うため海外でのみ発行されている。GMOは、GYENと合わせて米ドルを担保に発行されるZUSDも提供しており、将来的には両者による国際送金の実現を目指す計画だ。


三菱UFJ発行のステーブルコイン「MUFG」

三菱UFJフィナンシャルグループは、日本円を担保に発行されるステーブルコイン「MUFGコイン」を計画している。元々は自社で発行するステーブルコインとして機能させる計画だったが、他社でも簡単に独自のステーブルコインが発行できるようプラットフォーム型の構想に切り替えている。

MUFGコインは、支払いや円との換金、個人間送金といった場面を想定しており、リクルートの運営するホットペッパーグルメの加盟店で使えるようになる予定だ。


LCNEM発行のステーブルコイン「LCJPY」「JPYX」

ネムのウォレット開発を手がけるLCNEMは、独自ブロックチェーン「JPYX」と「EURX」を構築している。それぞれ、日本円とユーロに連動するステーブルコインの発行プラットフォームだ。

JPYXブロックチェーンでは、ガバナンストークンJasmineを用いてステーブルコインJPYXを発行することができる。またEURXブロックチェーンでは、ガバナンストークンEustomaを用いてステーブルコインEURXを発行可能だ。

LCNEMはまた、JPYXとEURX以外にもステーブルコインに関する取り組みを行なっている。「LCJPY」と呼ばれる前払式支払い手段のステーブルコインは、NEMブロックチェーンの独自トークン発行機能であるモザイクを使って発行される設計だ。


日本暗号資産市場のステーブルコイン「JPYCoin」

日本暗号資産市場の発行する「JPYC(JPYCoin)」は、イーサリアムの共通規格ERC-20を使って発行されるステーブルコインだ。1JPYCが1円に連動するよう日本円を担保に発行される。

JPYCoinも資金決済法上の前払式支払手段であり法の観点からは仮想通貨ではない。しかしながら、ERC-20を使って発行されているためイーサリアム上で取り扱うことが可能だ。

日本暗号資産市場では、JPYCoinの他に「イチバ(ICB)」と呼ばれるステーブルコインも発行している。JPYCoinを一般個人向けに、ICBを事業者向けに提供している。


世界と日本のステーブルコイン規制

日本はこれまでに、仮想通貨に関する法律を2度にわたって施行してきた。時期としては2017年4月と2020年5月になるが、その際にはいずれもステーブルコインに関する規制は金融庁からは明確に発表されていない。

つまり、日本の現行法ではステーブルコインを仮想通貨として定義していないのだ。日本の仮想通貨取引所でステーブルコインが1つも取り扱われていないのは、ステーブルコインが仮想通貨として認められていないからだと言える。

仮想通貨取引所は、当然ながら仮想通貨以外の金融資産を取り扱うことができない。なお、法定通貨担保型以外のステーブルコインであれば、法解釈次第では日本でも取り扱うことができる可能性があるものの、その際には必ず規制当局への確認が必須になるだろう。

一方で、海外の仮想通貨取引所では幅広くステーブルコインが取り扱われている。ステーブルコインはDeFi市場でも活用が進んでおり、保有している人が数多く存在する。

このような状況を受け、アンチマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CFT)を推進する国際団体の金融活動作業部会(FATF)が、仮想通貨を含むガイダンスの改訂を2021年2月に行なった。

FATFは、金融犯罪を取り締まる国際規制団体だ。FATFからの勧告は実質的な強制力を有しており、これまでに世界各国で施行されてきた仮想通貨に対する法制度を主導してきた。

そんなFATFが、過去に定義していた仮想通貨に関するガイダンスの修正を行い、ステーブルコインへの規制を整備する方針を示している。詳細な内容については明らかにされていないものの、近い将来にステーブルコインに対する世界基準の規制が整備されることは間違いないだろう。


ステーブルコインの将来性・課題

デジタル世界における基軸通貨としての普及が期待されているステーブルコインだが、そこにはいくつかの課題も存在している。

まずは規制が不明確な点があげられるだろう。現時点で、世界的にもステーブルコインに対する規制は整備されておらず、法整備に先立ち導入が進んできたため、規制の如何によっては与える影響も大きくなることが予想される。

また、法定通貨担保型のステーブルコインのリスクとして紹介したカウンターパーティリスクも大きな課題の1つだ。これまで中央銀行が担ってきた役割をステーブルコインの発行体が担うことになるため、同じ役割を同水準で果たすことは簡単なことではない。

2019年頃より、中国を中心に中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行が進められてきた状況も、ステーブルコインにとっては無視できないだろう。同じデジタル通貨として考えると、CBDCとステーブルコインは一種の競合関係になると言えるため、CBDCの普及状況次第ではステーブルコインが淘汰される可能性もゼロではない。

一方で、当然ながらステーブルコインは大きな将来性を秘めていることも間違いないと言えそうだ。国境や為替の影響を受けづらい国際送金手段としての役割や、自国の通貨を信用できない人々の資産の逃げ先としての役割、仮想通貨の抱える課題を解決する役割など、その必要性は既に十分認知されている。

ステーブルコインは今後さらなる普及が予想されるが、実際に購入する際には、どのような仕組みで何を価値の担保にしているのかという点を事前に理解しておくべきだと言えるだろう。

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