テザー社のUSDTは、初の法定通貨裏付けのステーブルコインとして長らくステーブルコイン市場を支配してきた。しかし、過去数年間で新たな競争相手が市場に登場し、USDTの地位に挑戦している。2024年以降、サークル社のステーブルコインであるUSDコイン(USDC)の取引量が増加している。
決済大手Visaによると、2023年12月にUSDCの月間取引がUSDTを初めて上回った。2024年3月、USDCの取引量は着実に増加し続け、優位性を保っている。一方でUSDTは取引量を減少させた。3月24日には、USDCがUSDTのほぼ5倍の取引量でその週を終えた。4月21日には、USDTの週間取引量は下降傾向を続け、890億ドルに縮小したのに対し、USDCは4550億ドルに増加した。

USDCは2018年に立ち上げられたが、既にステーブルコイン市場全体の20%を占めている。ステーブルコインのリーダーシップ争いはUSDTとUSDCが2トップとなっており、2024年1月の仮想通貨取引所OKXのレポ―トによると、2つのステーブルコインが市場全体の90%を占めている。
オンチェーンデータによると、USDCは機関投資家の仮想通貨需要を吸収している。機関投資家が強気市場を牽引すると予想されているため、これはUSDTの覇権を脅かす可能性がある。
機関投資家を巡る競争
仮想通貨市場は年々進化している。イニシャル・コイン・オファリング(ICO)時代に詐欺プロジェクトに溢れていた市場から、今年初めにビットコインの上場投資信託(ETF)が承認されたことを受けて、大手機関投資家を取り込む市場へと変わりつつある。
仮想通貨市場は成熟し、「コンプライアンスが非常に重要」とバイナンス元CEOのチャンペン・ジャオ氏が5月2日にX投稿で述べたように、「新しい段階」に入ったのかもしれない。
このコンプライアンス重視の流れは、仮想通貨市場に新たに参入する投資家を引きつけたい企業間の競争を促している。つまり、コンプライアンスに準拠したステーブルコインが優位に立つことになるだろう。
この点で、過去にその準備金の真実性に疑問を投げかけられたUSDTは、挑戦に直面している。
仮想通貨取引所ユーホドラーの市場部長、ルスラン・リエンカ氏は「USDTは透明性と規制が欠けるオフショアのステーブルコインだが、USDCは米国当局の厳しい監視下にある」とコインテレグラフに語る。
テザーはタックスヘイブンとされる英領バージン諸島に拠点を置いている。対照的に、USDCを発行するサークルは米国の管轄下にあり、マサチューセッツ州ボストンに本社を置いている。
USDCが完全に規制され、透明性のあるステーブルコインとして自身をブランド化する戦略は、テザーにパブリックイメージの変化を促しているようだ。テザーは4月1日には、米国公認会計士協会から「ゴールドスタンダード」の独立監査を完了させている。
米国と欧州における今後の規制枠組みも、規制に配慮するユーザーがUSDTよりもUSDCを選ぶ要因となるかもしれない。4月17日には、米議会にルミス・ギルブランド決済ステーブルコイン法案が提出された。これが法律となれば、米国市場のすべてのステーブルコインに影響を与えるだろう。
テザーが米国当局からの承認を得たい場合、そのオフショア拠点を変更する必要があるだろう。
欧州連合(EU)市場では、暗号資産市場(MiCA)規制により、6月30日からステーブルコイン発行者が電子マネー発行者として登録することを義務付ける。MiCA規制が今年後半に完全に施行されることを予期して、サークルは積極的なコンプライアンス対応を進めている。2023年3月21日、サークルはフランスの規制当局からデジタルア資産サービスプロバイダーのライセンスを申請した。この申請はサークルに欧州市場の主力商品を「オンショア化」し、新しい体制下で「MiCAに準拠した電子マネートークンへの過程を開始する」ことを可能にすると、プレスリリースでのべている。テザーはまだEUで電子マネー発行者になるための申請を行っていない。
USDCの取引量の増加は、テザーの今後にとって重要な意味を持つかもしれない。もしこれが常態化するならば、テザーは既にステーブルコインの王としての座を失うことになりかねない。